第3話 恐怖
イエロージャケットの本部に向かい
事情を説明する。
冒険者ギルドは、冒険者や困って頼ってきた人しかみないが、イエロージャケットは町の警備も担っているので、リムサに住む人だけじゃなく、外部からの人の出入りも見張っている。
リムサを根城にしていたオレのことを、知っているかと思ったが...そうはいかなかったようだ。
オレの情報はデリートされているのか?
それとも、データセンターかサーバーが、オレがいたところと違う設定なのか?
そろそろ誰かに泣きつきたくなってきたが、ひとまずバデロンのところに帰ることにした。
戻った時にはちょうど冒険者の相手をしているところのようで、待ってくれと密かにサインを出されたので、後ろの席に座って待つ。
先客はミコッテの女で、熱心に依頼の話を聞き入っている。
装備を見た限り、まだ初心者に毛が生えたくらいか。
(冒険者でもない自分が言えたことではないが)
打ち合わせが終わったのか、バデロンにお辞儀をして軽やかに走り去っていった。
「やぁ、待たせて悪かったな。
その顔を見る限り....
状況は芳しくなかったか」
うーん...と腕を組んで考えるバデロン。
オレは知っている。
おれはNPCじゃない、ということは、どこにも根付いていない。
リムサは陸の孤島だが、なんとかして他の国に行っても、そこにオレの居場所はない。
つまり、冒険者として名を挙げ、ストーリー通り英雄になるか、そこそこ強くなって傭兵や護衛、その辺の職を探すしかないということを。
目下、困るのは...住むところも金もないことだな...
考えに耽っていると、バデロンが提案してきた。
「やはり、冒険者になるのが一番いいんじゃないか?
ずっととは言わない。お前さんの住処がここではなくとも、冒険をしているうちに記憶を取り戻すかもしれないし、知り合いに会うかもしれない。それに、今の強さでここにいたということは、そんなに遠くないところに住んでたんじゃないか?と、思うんだが...」
バデロンは気の毒そうにこちらを見ている。
すまないな、バデロン...
見たこともないオレのために、気を使わせちまって...
バデロンの案は、本当にこの世界の住人だったら成立する話なんだ。
だから、オレには当てはまらない。
だが、これ以上相談してどうなるわけでなし、とりあえずその案を受け入れたフリをしよう。
わかったと答えると、パッと明るい顔をして、さっそくサマーフォード庄で人が足りないから手伝ってくれと依頼が入っているといってきた。
メインストーリー通りだな。
ここはオレに英雄になるルートが絶たれていないと喜ぶべきところか?
バデロンと軽く挨拶を交わし、サマーフォード庄に向かおうとして気づいた。
斧術師のギルドクエストを忘れていた。
ネズミやてんとう虫とかの雑魚を3匹ずつ倒して来い、だったか。
ついでにやっていこう。
辺りを見回すと、ちょうど弱そうなネズミがいる。
心が痛むが、斧で切り掛かった。
瞬間に上がる悲鳴、のち、反撃される。
いてぇぇぇ!!!!
ゲーム内では全く痛覚はないんだが、
猫に引っ掻かれたような痛みがある。
何回か切りつけて倒した。
ありがたいことに、この世界では傷は時間経過とともに治る。だが、痛みは恐怖を植え付ける。
ゲームでは、この敵のレベルはいくつ、自分はいくつ、と見えていたが、この世界では何も見えない。
気をつけないと、自分より上のレベルの敵に切り掛かったら...最悪、死に戻りもできず、本当に死ぬこともあるのだろうか...初めてリアルにこの世界に生きていることを感じ、ゾッとした。