第2話 生きる道
宿屋のすぐ横にあった冒険者ギルドに声をかける。
自分で自分をゲーム外の人間だと認識しているだけに、なんともやりづらい...
「あのー、すみません...」
「やぁ、いらっしゃい。冒険者だろう?」
相手は笑顔で話しかけてくるが、残念ながらそうではない。
「いや、あのー、自分は冒険者ではないんですが...
自分でもよくわからないんだが、道に倒れていたそうなんだ。
ただ、記憶がなくて...宿屋のおじさんに勧められてここにきました。
名前も、何をしていたのかも、どこに住んでいたのかも、何も全く何もわからないんだ...」
なんと言っていいかわからず、オドオドとそんな説明をしてみた。
「そうか、そいつはまいったな。見たところ、確かに冒険者じゃないみたいだな...リムサに住んでいるなら顔を見たことがないなんてことはないはずなんだが...見覚えはないな...」
と、腕を組んでこちらを見ながら考えている。
住んでいるというのが、NPCを指すならそりゃ記憶にないのも当然だ。
「とりあえず...おれはバデロン。
おまえさんのことを呼ぶ名前もないってのは不便だからな、仮の名前を考えようじゃないか」
なるほど、確かに自分でも名前がないのは落ち着かない。
ふと見ると、そこのお客がラタトゥイユらしきものを食べていた。
ミコッテ族は、「'」をつけることが多いというバデロンの説明と、ミコッテの中で一番気に入っているキャラからファミリーネームを拝借し、 "Rata'to Tia"としようと決めた。
ラタトゥイユがこの世界にあるかは忘れたが、似ててなんとなく面白いじゃないか。
今後、この世界に入ってしまったオレが、"画面"の外にいる人間と関わることがあるのかはわからないが...
「じゃあ、さっそくだが、ティア。
俺では今は力になれなさそうだし、イエロージャケットを頼ってみたらどうだ?
あと、しばらくこの街に止まることになるだろう。
商店街の顔役に挨拶と、エーテライトを触ってくるといい。今後色々と便利だろうからな。
この地図に、それぞれ場所を書いておいてやろう」
...あーはいはい。何回もやったやつな。
そしたらオレはヒカセン扱いになるのか?
だったらジョブはタンク(盾役)で戦士一択だな。
タンク以外だと、冒険に出る時に待ち時間が長くなって面倒だ。
幸い、オレのメインはタンクだったしな。
ただ...オレは...戦いに出るのだろうか。
もし、なんの意味もなくこの世界に飛ばされたのだとしたら。
オレは、商人やただの旅人、学者、船乗り、いろんな道があるんじゃないのか?
まぁ...身につけておくに越したことはないか...
ちょうど道すがらだったこともあり、斧術師ギルドに入門しておいた。
つづく