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『ライトゴロ』  作者: なかがわはじめ
7/13

第七章  eスポーツ

 なにか音楽が鳴っているから来てみれば、女子生徒がいる。しかし、ここは軽音楽部ではなくコンピューター研究部である。いまは<eスポーツ部>と本人たちは名乗っていたが、IT研、IOT研からの三度目の改名で、正式に学校と生徒会に承認されているわけではない。

 北条が顧問をしている図書部は、いまはルイ女の図書室で本を読むか借りるかがせいぜいで、ほぼ活動停止中だった。それでも一応は顧問としてルイ女の棟にある図書室には顔を出して、それから旧校舎のカブ高の職員室へもどる途中の一室から、ゲームのBGMにしては変な感じが音がしてのぞいて見ると、一人のルイ女の生徒がカブ高の男子たちに囲まれてコンピューターに向かっている。

「これは何をしてるのかな?」

 開けっぱなしのドアを入り、北条がたずねると、

「音楽ソフトのことを教えてもらってました。けいおんのほうでは解らないって言われたので」女の子がまっさきに立ち上がり返事した。

 けいおんにも行った?

「でも、ゲームだろう、ここでやってるの」

「ゲームをプレイするだけでなく、ゲーム自体やアプリを作る部員もいまーす」これは男子が答えた。三年生の新島健だ。この子が部長で、あと押熊吉雄はわかる。それに二年の円野とたしか一年の芦原か。みんなヒョロっとしたメガネで、総称のような呼び方がネットであったが、ざっと読んだ若者についてのどうでもいいような記事で見かけただけだったので思い出せない。

「困るなあ、授業以外で合同の活動は禁止になってるよな」

「運動部は男女で試合したりできないと思いますが、でも道具やボールの貸し借りぐらいはしてます。ここにはルイ女よりスペックの高いマシンがあるんで借りてるだけで、文化部もそのくらいはいいと思います」

 それはそうだろう。学校から移るときもここの五台の機械は慎重に運ばれた。ゲームなのに椅子も机も職員用の古いやつを使っていて、それもそのまま持ってきていた。

「君は誰かな」当然の話はおいておいて、北条は訊いた。

「二年の沖田多満子です。ブラバンやってます」

 名は体を表すというか、太ってないのに顔が丸い。いまの小顔が流行る時代、福々しいとは言われないにちがいない。髪を短くしてるから頭の丸さと錯覚するかというと、背が小さいのも合わせ、スライム感をかもしだしている。物質のスライムでなく、イラストのそれ、ほめ言葉である。そう取るひとはいないだろうが。

 ただし、北条は女子がいかに前髪を意識しているかを知らないので、いずれにしてもだまっているのが正解であろう。

 毎朝気合いが入ってる前髪、それでおぎなって余りあるため、彼女の愛称はタマちゃんである。

「ハードに強いひともいるんで、ループ……ブラバンでも使える自動演奏の機械があるんですけど、その改良を手伝ってもらってました」

「いや、タマちゃんは優秀なプログラマなんで、ぼくらが助けてもらってるくらいなんです」

 いやいや、タマちゃんて。猫だろ。いや、これは仲良くやってるってことなのかな。しかし、ルイ女側に配慮しなけばならない。

「しかしなあ、やっぱりeスポーツはスポーツじゃないという問題もあるしな。ゲームは機械を介してほかのひとと戦うわけだろ。じゃあネットでできるし、ゲームの制作も同じことなんじゃないのか。そうなると学校じゃなくてもいいってことにもなるが……。機械はよくわからんが……」

「eスポーツがスポーツじゃないなら、じゃあマネーゲームは経済じゃないんでしょうか?」

 彼女はまた、まっすぐ言い返してきた。よく見ると勝ち気な目の光が、丸い顔の印象に緩和されていたようだ。

 ブラバンか。帯刀舞子は所属してないし、彼女の演奏活動は特別でほかにはいないってことだし、クラシックとはちがうにしても、全体的にお上品なおとなしいイメージだったが。

「マネーゲームは、資本主義のうわずみだけの浅い競争だと思う。単純に儲かればいいなんて話は、ぼくもしてない。格差が広がるのは、持てるものがさらに増やすことは簡単で、その逆はないからだ。ゼロから一を生み出すのが人間なんだから、人間的でもないし、本当は合理的でもないと思う」

「じゃあ契約があれば人間同士の正当な競争になりますか。新しい金融商品に法律がついていけなくてリーマンショックみたいなことが起きてたりしますけど、それも自己責任ですか。法律はなかったけど、情弱だから悪い。

 eスポーツもスポーツだと認めないで、流行らなくなったら弱者として見捨てるんですか」

「君はeスポーツが認められるんなら格差社会を肯定するのか……」北条は当惑した。

「事実と内容はちがうのに、同じように否定されるのは心外なんです。eスポーツ用の高性能なマシンならデイトレーダーみたいなことはすぐできます。金融工学なんてどんな多項式も二次式でしかない。三次元処理よりどれだけ簡単か。でも、ここでやるのはゲームだけです。

 ゲームって日本が世界に伍してるジャンルなんですけど、ゲームメーカーはいっぱいつぶれてるんです。マネーの競争より、技術の進歩についていけなくなったのが原因と言われてますけど」

「ガラパゴスか」

「いえ、ジャパンオリジナルがデファクトスタンダードにもなりかけたんです。でも、アクションがいらないジャンルに特化して行ってしまった。それが受けたからなんですが、技術が進歩するとアクションが簡単に実現できて、当然ゲーム性はそのほうが高いから、取り残されてそう呼ばれてもしかたない情況になっただけだと思います。

 ハードの競争を技術でなく囲い込みだけでやってた。前時代の成功で過信したのかもしれませんが。

 技術も、アニメに特化しようとしたり的外れで、挙句は広告の競争まで重視されだした。ゲームと関係ないのに。

 いろんな問題もたぶんマネーでだいたいは解決します。でもマネーは手段だから、そこからは何も始まらない。それだけじゃダメなのに」

 二〇二〇年なら、疫病による社会、経済の混乱と変化を例に引くべきだろうか。

 ウイルスは見えない敵。神の見えざる手などない。右利きの神が左手で何かをしたのに、人間にはへたを打ったようには見えないのだから、見えるもので考えるしかない。

 経済を回せ。病院のベッドの回転数との兼ね合いで。

 ウイルスとの戦争だ。真珠湾をやっとけばよかった、武漢に。

 若者はかかっても死なない。老人にどんどん死んでもらって新しい時代にしよう。世界で文化大革命だ。

 パソコンから音楽が鳴り出した。北条には、廊下で聞いたときよりもっと変わってる感じがした。電子音じゃないような。




  ノーバディ ノウズ ザ テトリス アイハブシーン

  ノーバディ ノウズ マイ ソ連


  ノーバディ ノウズ ザ テトリス アイハブシーン

  ノーバディ ノウズ ゲーセンに あったはずが


   サムタイムズ ムーブ レフト サムタイムズ ターン ライト

   オウ イエス ロード


   ユー ノウ サムタイムズ オールモスト トゥ ザ グラウンド

   オウ イエス ロード



  スティル ノーバディ ノウズ ザ テトリス アイハブシーン

  ノーバディ ノウズ マイ セガ


  ノーバディ ノウズ ザ テトリス アイハブシーン

  ノーバディ ノウズ ゲーセンに あったはずが


   イフ ユー ガット ゼア ビフォー アイ ドゥ

   オウ イエス ロード


   ドント フォーゲット トゥ テル オール マイ フレンズ アイム カミング ホーム

   オウ イエス ロード



  スティル ノーバディ ノウズ ザ テトリス アイハブシーン

  ノーバディ ノウズ マイ ソ連


  ノーバディ ノウズ ザ テトリス アイハブシーン

  ノーバディ ノウズ ゲーセンに あったはずが




「ぼくら今度、大会あるんですけど、それにタマちゃん……沖田さんも出てほしいんです」

「いや、それはできないだろう。だいたいeスポーツの大会ってどういう団体がやるんだ?」

「eスポーツ自体はアジア大会でも実施されてる競技なんですが……」

 そんなニュースを聞いたことがあるような。

「楽器やってるだけに指さばきが速くて強いんです」

「勝てばいいって話になると、さっきから言ってる結果がすべて契約がすべてみたいなもんじゃないか。

 ぼくは国語教師だから、たとえば小説をテストの問題にすること自体がおかしいと思ってる。答えより、基準からおかしいと考える。

 それが、勝ちたいからやりたい、勝てばいいではな。

 入試で良い点とればいい、大学に入りさえすればいいみたいなことじゃ話にならないよね」

 反論したのは沖田で、

「そこまで行ったら、金属バットはバットじゃないみたいじゃないですか」

 それには答えず、北条は男子たちに向かって、

「いや、だから応援ならいいんじゃないか。やるのはおまえらだけで、ルイ女は応援、それもネットでいいだろ、eスポーツなんだから。

 この前の野球部の試合、ぼくは行けなかったんだけど、応援団は盛り上がったそうだな。けいおんから何人かブラバンに参加できたんだから、おまえらもできたんじゃないか。音楽の機械があるんだろ、音楽の種類はともかく」

 男子たちはうさんくさそうな目になったが、北条にはやはりゲームに対する偏見があってか、気付かない。

 北条がまったくゲームに触れてこなかったわけではない。彼はまじめな読書家の大学生だったが、何冊も並行して読むタイプではなかったし、スケジュールを決めてシリーズやジャンルの読破を目指すタイプでもなかった。インターバルがあり、そのときにはたまさかテレビゲームをやったこともある。

 大学の友人たちがもっとも多くやっていたRPGについては、夢中になるのがわかる気がした。貧弱ではあるがファンタジー風味の物語がある。それが、とにかく、長い。と言うか、時間がかかる。それでも長くやってれば、それなりに進む。それなりの達成感がある。でも、武器の装備だとか敵のタイプとの相性とか、めんどうなことも多かった。伝説だの神話だのやたら出てくるのだが、バックボーンが何もなくて何も象徴していないとなると、やっぱりマンガだな、としか思わなかった。寓話でなく、童話。

 アクションゲーム系は苦手だった。3Dは酔うという話だったが、それは平気だった。しかし、視野の狭さというか、無理矢理、集中させられてるような感覚になるのが苦手だった。3Dの世界が広がってるというが、小さな窓越しに、それも首を固定されて覗き見ることを強制されてるような感じで、テレビは液晶で薄いのに、自分の操作で動き回ってても、むかしのブラウン管テレビの箱のなかに押し込められてるように見えた。

 すでにそのころには旧世代機の中古品が安くなっていて、2Dのスーパーマリオのシンプルさがちょうどいいと思ったが、その中古のシリーズの次の段階でも複雑になってきたので、その辺で向いてないと思った。

 それと、読書家は本を捨てない人がほとんどである。新作はまだしも、次世代マシーンがつねに話題になるゲーム業界には違和感があった。

 北条は、将棋のルールは小学生で覚えた。囲碁は知らない。麻雀は大学になって覚えたができる友人が限られ、賭けないと他人とやる意味もないのでそんなにやらなかった。これらのゲームも、テレビゲームでもすることができたが、やらなかった。技を覚えたり、すばやいボタン操作だったりと苦手な要素は多かったが、対戦ものはそれでも付き合いでやった。スポーツゲームは、実際とは関係ないタイミングの取り方や駆け引きがあって、たとえば野球ゲームだと実際の試合のテレビ中継の画面に見慣れてないひとのほうが、先入観なくゲーム画面としての情報を読み取ることができて、野球にうとい北条でもいい勝負になったりするのだった。

 それやこれやで北条は先入観ではないと思ってるが、やはりeスポーツをスポーツと考えたことはなかった。

 賞金というより、ゲームセンターで一回一回コインを入れてやるのは賭け金ではないか。競技と言っても指先だけ。そしていわゆるコマーシャルアイテム。コーポレートプロダクトなら有利不利はメーカーが決めることになる。コンピューターが判定するなら人間の審判にやることはあるのか。

 どれをとってもスポーツではない。時代とはいえ、おかしなことになったものだ。

「応援なんか意味ないという意見もネットではまかり通ってるらしい。なんにも関係ない他人が仕事でやってることに、はたから感情移入するなんておかしいって。でも、それはちがうと思うんだ。主観と客観を、ゼロと一でしか考えてないっていうか、大衆を批判してるようでミスリードさえできないというか。

 応援するほうでなく、されてる側にも何もないってことはないと思う。

 野球部の試合のとき、君たちは役に立たなかった。いや、そう言うと語弊があるが、ここにある機械は役に立たなかっただろ。今度は君たちがゲームをやる側になって、応援以上のことを求めなくてもいいんじゃないか」

 タマちゃんは首をかしげそうになって、それをなんとか持ち直したように、

「役に立たないってことなら、学校で何年も勉強したのに英語をしゃべれるようにはならないって批判があります。

 でも、受験用の特殊な単語を覚えるのも、プログラミングするときの独特の記法に慣れる助けにはなってます。

 いくらやっても英会話は身に付かないけど、ソースコードを読むと相手の意図はわかります。私が書いたコードをここの先輩方は読み取ってくれます。音楽についての操作でもそうです。

 あたしはあの試合のときブラバンにいたんで、eスポの先輩たちが声を出して、拍手して、ちゃんと応援してたの知ってます。みんな一緒になって応援してました。役に立たないってことはないと思います」

 背の低い彼女のうしろにいつのまにか男子たちが並んでいる。それでも部長は、あるいはメインは誰かと問われれば、差すのはまちがいないだろう。

 だが、次には新島が、

「ないしょで応募して、アノニマスで出場することもできました。

 はっきり言って民間企業が主催する大会です。賞金目当てです。

 でも勝ったら、実際に金が入ります。うちの学校なら実績を評価するはずです。て言うか、普通の学校は、問題になりそうなことをさけるか、問題が存在しないような対処をする。なかったことにしようとする。

 前から思ってたんですが、カブ高にあるコンピュータはかなりいいやつです。ルイ女はミッション系だしわかんないけど、私立はともかく他の公立校とは、CPUひとつ取っても世代がふたつぐらいちがう。役所を相手にこのスペックのマシンを導入する交渉ができる人がいるってことですよね。じゃあ、勝って賞金取ってくれば、その人なら認めてくれると思うんです。そのために、タマちゃんの力が必要なんです」

 手の内をさらすような話しぶりに、北条も感銘をうけた。ひ弱そうな見た目なのに、一所懸命に主張している……。

「目に見えなくても、役に立ってることもあります」また、沖田が話しだした。

「トロンは国産のOSです。一九八〇年代、学校にPCが導入されるとき使われるはずだったんですが、アメリカから市場が閉鎖的だと横槍が入って、結局ウインドウズが独占的に使用されることになりました。当時の政府は非常に惰弱な交渉をしたと思います。それで消えたと思われたトロンは、家電や産業用機械の組込み用OSに活路を見出して、現在では世界標準といえるくらい普及しています。

 そのアメリカが、いまは保護主義って言ってるんですから皮肉です。これから、もうアップルは生まれません。保護主義って海外から国産を守るだけでなく、現在の国内の情況を変えないことですから。新しい芽はつぶして、IBMのほうを守るってことです。

 いま、変に引きずられて保護主義的になるのは、一九八〇年代の轍を踏むどころじゃない、悪手だと思います。

 もとから正々堂々と戦えばよかったんです。結果論でなく、トロンで勝負できたんですし。日本はそう捨てたもんじゃないんで。

 だから、つぶさないでほしいんです。

 あたしならやれるんで。

 みんなで力をあわせればできるんです」

 OSのことはくわしくはわからなかったが、北条も日本国内のコンピューター教育へのアメリカの介入の話は知っていた。しかし、沖田多満子はあやういほど自信に満ちているように見える。それこそアメリカ的に。ある種ユダヤ的に。




  つぶれてしまったよ ジャレコ ナムコ ケムコ

  ほろんでしまったよ ジャレコ クソゲーは出してないのに(ハル研も)


  つぶれてしまったよ ジャレコ ナムコ ケムコ

  ほろんでしまったよ ジャレコ クソゲーは出してないのに(あったような)


   ギデオンて同士討ち狙いだろ

   サウルの息子はホモだし

   乳と蜜の流れる土地より

   いますぐ鉄と木がほしい(それフォートナイト)



  つぶれてしまったよ ジャレコ ナムコ ケムコ

  ほろんでしまったよ ジャレコ クソゲーは出してないのに(ハル研も)

  

  つぶれてしまったよ ジャレコ ナムコ ケムコ

  ほろんでしまったよ ジャレコ クソゲーは出してないのに(あったような)


   パブジーってやつの話もいいだろうさ

   こっそりパクればいいのかよ

   FPSより戦争っぽくないって

   戦争に利用されるなよ(ハレルヤ)



  つぶれてしまったよ ジャレコ ナムコ ケムコ

  ほろんでしまったよ ジャレコ クソゲーは出してないのに(ハル研も)


  つぶれてしまったよ ジャレコ ナムコ ケムコ

  ほろんでしまったよ ジャレコ クソゲーは出してないのに(あったような)




「学校が併設されてる間だけ、いや、eスポーツがあるうちにでいいです、もう。

 一緒に戦いたいんです」

 いい覚悟だ。だが、ジャズバーでのプロの技を見たあとでは、同じ高校生と言っても甘く見ることはできない。どんなハプニングが起こるかわからない分野のことだ。

 ウイルス、乗っ取り、詐欺などなど、得体の知れない相手に脅迫され金銭を要求されてもて解決法がないことがニュースになって、まだ国も専門家も対処ができないから気をつけてくださいとしか言えないだと。

 やはりシスター了子の手前もあるし、ここは厳しくせざるをえない。

「沖田君、一緒に出よう」

 なんで、という顔をして沖田は男子のほうを振り返った。男子たちは首を横に振った。

「応援はみとめる。それ以外のことははいまのところ禁止事項等に該当するものとする」

「ループマシンがまだ作りかけなんですけど。増強じゃなくて改造なんで手伝ってもらわないと……」喰い下がるように沖田が言った。聞き流した北条は無視したわけではなく、機械のことがわからなかったのだ。

「いいよ、タマちゃん。あの仕様で要求は充たしてると思う。ソフトはそっちから差分だけアップしてくれれば仕上げとくから」

 部長らしく、新島が説得するように言った。

 そして、北条は沖田を教室の外へ連れ出した。

 うしろを付いてきながら彼女はまだ何か言っているので、eスポーツ部の教室からかなり離れたところで北条は立ち止まって、そして聞いた。

 プログラミングにジェンダーはない。

 それはまあわかる。

 偏見。

 まあ一概には言えないというか、学校内のこと、それもふたつの学校の狭間のことだ。

 他人と合わせられない。他人とうまくやれない。それも個性で、非凡さをともなったほうがむしろ病的というか、白い目で見られる。でも同調しろ、同質化しろ、は現実でもネットでもある。社会がゲームなんか遊びだと、スポーツじゃないと言ってるなら、学校くらいは認めてほしい。

 それには答えてあげたかったが、一般論ではしょうがないので、

「まだわからないから。シスター了子は話のわかる人だし、別の方法もあるかもしれない」

と言ったのだが、捨て台詞とでも受けとったのか、沖田はだまった。

 カブ高の若い顧問は放任だからこの事態は聞いてないかもしれないが、たぶん話はできると思う。などと付け加えても、沖田は聞いてない。

 また教室から音楽が鳴りだした。

 心に訴える音。心で聞く音。

 心のなかでする声は自分の声のときもあれば、そうでないときもある。そうでないときは、自撮りの修正のような自分が変形した何かというより、カセットテープに吹き込んだ自分の声のようにまったくの別物に思える。帯域が削られたどころではなく、自分のかけらも見あたらない。あれは誰なのだろう。



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