憎まれっ子、冒険者になる。
――始まりの街カルミナ――
「うわぁぁぁぁぁ!!うぐぅッ!?」
叫び声を上げながら、俺は中世ヨーロッパのような街並みの中に尻餅をついた。どれ程の高さから落とされたのだろうか、だが意外と痛くは無い。それにしてもあの女神、容赦ないな。「今度会うことがあったら文句のひとつでも言ってやらないと」……とブツブツ独りごちながら立ち上がると、目の前に現れた初老の男性が話しかけてきた。「大丈夫かい若いの。アンタ一体どこから来たんだ?空から急に降ってきたように見えたんだが…」マズイ。このままでは俺は天使かなにかだと勘違いされて崇め奉られてしまうに違いない。何とか誤魔化さないと……
「いやぁ、屋根の上を跳んで遊んでいたら足を滑らせてしまって…そうだおじさん、ここいらで仕事を見つけたりっていうのはどうしたらいいか知ってたら教えて貰えるか?」うん、我ながら完璧な誤魔化しだ。
「(随分と馴れ馴れしい若造だな)そうかい。変な事をするやつも居たもんだ。仕事が欲しいならこの先にある冒険者ギルドに行ってみるといい。あんちゃんでも採取の仕事くらい斡旋してもらえるんじゃないか?」
冒険者ギルド!?まるで物語の中みたいだが、魔物やモンスターが出るっていうくらいだから冒険者ギルドがあってもおかしくはないか。
「ありがとうおじさん!助かったよそれじゃ!」
「あぁ、せいぜい頑張りな。…それにしても礼儀のなっとらん若造だったな」
礼儀がなってないと言われているとは夢にも思っていない俺は冒険者ギルドへ向かった。おじさんと話してから、こころなしか強くなった気がするが…気のせいだろう。
――カルミナの冒険者ギルド――
俺は冒険者ギルドに着いた。真っ先に思った感想が「案外小さくてボロいな…」だった。それは感想だけに留まらず口に出してしまっていたようで「ようそそ!小さくてボロい冒険者ギルドへ!」と受付嬢らしき女性にキツめの口調で言われてしまった。まずは謝るところから始めないとな…機嫌を損ねた時は褒めると良いんだっけ…?
「小さくてボロいとか言ってすまない。それよりお姉さんギルドの受付嬢?いやぁ〜お綺麗だね〜へへっ」
「(失礼な事を言ってさらにナンパ!?何なのこの男!?)お世辞は結構です。ところで、何か御用でしょうか。」
また怒らせてしまったようだ。どうして俺はいつもコミュニケーションを失敗するんだ…
「実はこの辺りに初めて来たんだが、まずは仕事を探さないと生活すら出来やしないからギルドで斡旋して貰えないかと思って」
「そういう事でしたら、まずは冒険者登録からになります。この物見の水晶に手をかざすと貴方の名前、性別、能力値全てが表示されます。それを元に冒険者証を発行致しますので、水晶に手をかざしてください。」
俺は言われるがままに水晶に手をかざした。これ以上怒らせないよう無言で。
「(この人、返事もろくに出来ないのかしら)結果が出ました。ユウ 男性 レベルは…42!?」受付嬢が目を丸くして驚く。
「それってレベル高い方なのか?その辺り詳しくなくて…良かったら教えてもらえないか?」
「この辺りの魔物は強くなく、レベルは10もあれば単独でも討伐クエストを受注することが出来ます。この街周辺ですと、ユウさんのレベルなら何でも受注出来ますね。こんなにレベルが高いなんて…ご出身はどこなんですか!?」
出身地!?この世界に来て間もないし他の街の名前なんて知らないぞ!?また誤魔化すしかないか…
「トップ・シークレットだ」と言いながらウインクした。これで何とか許して貰えないだろうか。
「えっ、キモ…んあぁ!そうですよね、言いたくない事のひとつやふたつ、ありますもんね!」
ん?今キモって言ったか?なんかまた強くなった気がするぞ。
「では改めまして、冒険者証を発行致しますので少々お待ちください…あれ?ユウさんのレベルが43になってる…?」彼女は不思議そうに水晶をペチペチしている。あぁ、そうか。やはり強くなった気がするのは間違いでは無かったのか。つまり彼女にも嫌われてしまったと…嬉しいような悲しいような…。
そういえば、あの女神も俺をこの世界に送る前に不機嫌というか、怒っていたな…女神にすら嫌われたから大幅にレベルが上がったのか…?今度会ったら文句のひとつでも言おうかと思ったけど、嫌われているなら顔も合わせづらいな。もう二度と会わないことを願う。
――数分後――
「ユウさん、お待たせ致しました!こちらが冒険者証になります!冒険者証の裏面を見ながら「ステータスオープン」と唱えると現在のレベルや能力値が見られる優れ物です!身分証にもなりますので、決して紛失されないようご注意ください!」
ほう…とても便利な物だな…こんな便利なものが無料だなんて素晴らし「ではギルド登録料と冒険者証発行手数料合わせて500Gになります!」ん?流れ変わったな。
「え?お金取るの…?」
「はい!ギルドの施設維持費等も含まれておりますし、慈善事業ではございませんので!」
「なるほどなるほど。ところで…受付嬢さん?お金…貸してもらう事って出来るか?」
「え?は?500Gも無いんですか?」受付嬢さんから笑顔とハイライトが消えた。
「500Gも無いんです。どうかお願いします。」俺は中身の詰まっていない頭を深々と下げた。
「はぁ……仕方ないですね〜。では500Gは私が立て替えておきますから、お金が入り次第直ぐに返してくださいよ?」受付嬢さんがクズを見るような目に変わり、それでも構わない。受付嬢様のご厚意が身に染みる。
「ありがとうございますぅ!!」俺は涙と鼻水で汚い顔で礼の限りを尽くした。
「今更ですけど私、受付嬢のレイナと言います。ユウさんのレベルなら高難度のクエストも受けられるでしょうし、ガンガン斡旋しますので頑張って下さいね!」ハイライトの無い笑顔で圧をかけられる。
「はい…頑張りましゅ…」としか言えなかった。
根は優しいんだろうが、今の俺にはレイナさんの作り笑顔が怖い。俺にはまだ500Gがこの世界でどのくらいの価値なのか分からないが、迷惑料として倍にして返す事を心に誓った。