記憶は2分でいいと思わない?
初投稿ですか?
お、ジャスト14時。なんか得した気分。
「それにしてもあっついな、今日。昨日までくそ寒くなかったっけ?」
昨日って雪降ってなかったっけ。
「何言ってんだよお前。8月が寒かったら大問題だろ。」
「それもそうか。」
「お前、昨日は汗だくになりながらお前の家でゲームしただろ。弱かったなお前。」
「は?今日は全然勝つけどな。いつも環境最強を押し付けてくるだけでお前からは工夫とゲームを楽しむ気持ちが感じられないんだよな。なんかいかにも現代のゲーマーって感じ。効率とか最短経路が最善と思ってるような感じ。」
そうなんだよな。工夫とか、試行錯誤なしに最前線の情報だけを手に入れてゲームをする輩がそんなに好きじゃないんだよな。
「何言ってんだ。お前が先に環境とかコンボとか言ってきたんだろ。意味わかんないこと言いやがって。」
あれ、そうだっけ。
「そういえばさ、あの裏技みたいなのってどうやって知ったん?昨日は意地になって聞けんかったんだけど。」
「そんなのサイト見れば一発だろ。俺がいつも見てるサイト見せてやるよ。」
あれ、スマホがない。
「ちょっとまって、カバン漁るわ。」
「お、おう。」
あれ、14時2分。またジャストだ。この秒針がちょうど12に差し掛かっているのがいいんだよな。クロノスタシスって言うんだっけ。この時間がその一瞬で止まってる感じ。
あ、なんだこれ、頭痛。
「待たせた。カバンの中に入ってたわ。」
「おう、見せてくれよ。」
あいつの方にスマホを傾ける。
「この上のメニューを開いて、このキャラを選ぶだろ?んで、入手法って辿ってくんよ。」
「は?いきなり聞いてもいないゲームの話を始めんなよ。嫌われるぞ。ってか何の話だよ。」
「ああ、わりい、この前の模擬の話だったか。こんがらがっちまった。」
もう一回スマホの画面を傾ける。
「ほら、英語無理だったけど、物理は満点だったんよ。」
「マジじゃん。エグっ。お前物理得意だもんなぁ。」
「先生の教え方がいいだけだって。物理できんのに数学苦手だもん。数理系としてなんかって感じだけど。」
「お前、数学はからっきしだもんなぁ。」
「入学したてでは得意だったんだけどなぁ。」
「嘘つけ、ずっと苦手だろ。」
あれ、そうだっけ。入学時点では20位以上にいた気がするけど。
「まぁ、いいや。お前は点数どうだったん?」
「俺はちょっと見せられないなあ。」
「いいから見せろって。俺の見たんだからこれで言い合いっこなしだろ?」
あ、この態度は見せてくれないやつだ。
「まぁ、後でな。それより早く帰ろうぜ。ここからもっと寒くなるらしいぞ。」
「マジか。さっきまであんなに暑かったのにか。」
「何言ってんだお前。8月が暑かったら大問題だろ。」
「ああ、それもそうか。」
「コンビニ寄ってかね?寒すぎる。」
「急いで帰んねぇんだったら、お前の結果見せてもらうけどな。」
「あ、えっと充電切れてる、スマホ。ガチガチ。寒すぎてバッテリーがしぼんでるんだよ。マジマジ。」
「じゃあコンビニ行っても無駄じゃねえか。」
「あー!!確かに。」
「まあ、おれは寄ってくけどな。金貸してやるよ。」
「ごちそうさまでした!」
「まだ食ってねえだろ。てかおごりではないからな。」
あ、財布ない。
「ちょっと待って。財布探すわ。」
「あ?財布?」
あ、14時4分。またジャストだ。この秒を表す数字が00の時の気持ちよさは言い表せないな。あ、頭痛い。
「おう、お待たせ。」
「うん、大丈夫。財布は見つかった?」
「カバンの奥底に眠ってた。」
「ふふ。教科書たくさんもってきてるからだよ。整理して持ってくればいいのに。」
「面倒くさいんだよなぁ。家でカバン漁るの。」
「たしかにそうかも。今日私がやってあげるよ。」
「それもいいかもね。でも次の日から俺はやんないから教科書忘れることにならない?」
「じゃあ、私が毎日行ってあげよう!なんならいっしょに住む?」
魅力的な提案かもしれない。
「私たち一人暮らし組だから、全然支障ないかも!」
「考えてみるか。せっかくだしね。」
あ、コンビニが近づいてきた。
「何食べる予定?俺はアイスでも買おうかなって思うんだけど。」
「コンビニ?寄るの?」
「あれ?寄るみたいな話してなかったっけ?」
「したっけ?まあいいか!はいろ!私もアイス食べよっと!」
「是非、彼氏としておごらせてください。」
「くるしゅうない。ごちになります!」
毎回この自動ドアの前で減速するのってなんだかんだストレスだよな。いっそ開けたままにすればいいんじゃないかなって思うわ。
あ、14時6分ジャスト。今日はなんかついてる日か?
あ、あったまいてぇ。
「お帰り~。」
「うっす。」
「ただいまでしょ。模試はどうだったの?」
「ぼちぼち。」
「あ、そう。頑張りなさいね。もう少しで本番なんだから。」
「わーってるよ。部屋入ってくんなよ。」
「はいはいはい。ごはん冷蔵庫の中に入れとくね。」
「おう。」
階段のぼるのって面倒だよな。いっそ平屋にしたらいいのに。なんか同じようなこと考えてたような気がするな。なんだっけ。
こういうなんだっけの原因を突き詰めて、思い出すと、脳みその伝達神経が発達して記憶力とかがよくなるらしい。まぁ、思い出せないからいいや。
さて、机に座ってっと。今日何しようかな。物理はもういいから数学だな。いや、英語か?
得意を伸ばすのが大事っていうもんな。英語を伸ばせるだけ伸ばして、物理はもう捨てよう。こんだけやって成果がでねぇならおれから捨ててやるんだ。
よし、今日は英語の授業があったからカバンのなかに参考書が入ってるはず。参考書とかが増えすぎてカバンの中身を整理しないとやってらんないんだよな。
「よいしょっと。」
えーっと、3時限目だったから、この列にあるは…ず。あった。
14時8分。を見ていなくても今は14時8分だってわかる。
わかるさ。僕は記憶の伝達神経がおかしいんだ。必要のないものを消去することなく、すべてを思い出すことができる。人間の許容量なんてとうに超えているのにそれを感じさせるでもなく2分ごとの設定を際限なくぶち込んできやがる。
世界5分前仮説なんて考えたやつは頭がおかしいんだ。そんな仮説をきかなければ、多重に存在する2分間の世界線のすべてを認識することなんてなかったんだ。
なぜか経験したことがないのにそれを経験したような感覚を覚える。デジャブと呼ばれたり、正夢といわれるものの一種。もともと僕はそれが顕著だった。このあとに起こりえることがなんとなくわかることが多かった。彼女なんていないのに、彼女がいたような経験がある。馴れ馴れしく彼女だった者に話しかけてみたら、「キモっ」って突き放された。これだけはまだ許してない。
そして幼いながら僕は原因をたどった。「なぜなぜ」これを繰り返したとき、世界5分前仮説にたどり着いた。たどり着いてしまった。そして、それは自分の一部だったかのように伝達神経に悪影響を及ぼした。その時から僕の記憶力は特別性。
世界は2分ごとに変容する。あったかもしれない世界を2分ごとに切り替える。
他の人間は変容している事実に気が付かない。世界が変容したときに、記憶がその変容用の記憶になっているのだから。自分自身では記憶の欠落に気が付くことも、記憶の変化に気がつくこともできないんだから。客観的に世界の変化を見ている僕たちだけがこの不確実なシステムに気が付いている。
そして、僕は疲れた。2分ごとに移り変わる世界に、2分ごとに強制的に脳内にあふれる18年分のその“変容の場合の記憶”、2分ごとに移り変わる友達との関係、友人だと思っていた彼女と恋仲の可能性すらある。それを齟齬が出ないように演じ続ける。ずっとこんな生活をしているんだ。コミュニケーションに齟齬が出てしまうのもしょうがないと思う。
外界との交流をしなければいいんじゃないかって?馬鹿だな君は。世界の変容の設定は僕の意思じゃない。今回下校が3連続で続いたのは奇跡なんだよ。
前に部屋に引きこもって変わっていく時代設定と環境設定のなかでゲームをし続けようと思った僕は次の2分で学校にいたんだ。交流を絶とうにも世界の設定が許してくれない。くそだよ。
ん?待てよ。
待ってくれ。
素直に考えよう。
交流を強制されても、私は無視をすることができたはずなんだ。“どんなに気さくで隣の気味の悪いオタクくんにさえ声をかける人気者”の設定だって、僕は与えられた記憶とは違う意思を持っているんだから。そうだな。僕は設定を無視して役割をこなさなくてもいいはずなんだ。僕ならそうするんだ。だけど、そんな記憶は僕の中にはない。
ああ、わかった。なるほどな。面白くない冗談だ。
“世界の真実に気が付いた天才集団のひとり”の設定かよ。今何時だ。14時30分ジャストか。ここどこだ。まあいいか。この設定はあと2分しかないわけだ。
説明が難しいな。いままでの2分間パートや説明パートは“世界の真実に気が付いた天才集団のひとり”の設定を与えられた僕に与えられた記憶だったわけだ。実際の14時2分の僕は今回の記憶の14時2分の動きはしていない。14時30分に来る“世界の真実に気が付いた天才集団の一人”の設定のために与えられた、そのつじつまをあわせるための記憶ってわけだ。14時30分の僕にとっては与えられた記憶が過去に成り代わるんだ。それはそうだな。ああ、しょうもない。14時32分の僕は一般的な人間に成り下がるんだろうな。
ああ、確実に言えるな。この世界は2分前に成り立っている。世界5分前仮説は僕の存在をもって世界2分前事実であると決定したわけだ。次の僕は変容しているから説明なんてできないけど。
あ、14時32分。あれ、おかしいな。記憶が変わらない。でも情景は変わっている。おかしいな。
ああ、14時32分のための記憶だっただけか。いや、もしかしたら14時34分のための記憶かもしれない。僕はこの全能感が次の2分でなくなる恐怖におびえながら、2分を生きていくことになるのか。
僕が言ったのか、欠落した記憶を確認する方法は自分自身にはないって。
ああ、面白くない人生だ。これを聞いた君の記憶はいつのための記憶なんだろうね。知らない間にクラスの人がきえているかもしれない。知らない間に上司が入れ替わっているかもしれない。でも君には確認する方法はない。残念だったね。もしかしたら消えているかもしれない誰かに思いをはせながら生きる人生はとっても味気ないだろうね。
? ああ、もういいか。考えるのをやめよう。どうせこれも記憶なんていう曖昧なものであって、実際に行動しているわけでも何でもないんだから。
なあ、意味を見出せない人間の行きつく先はどこだろうな。
なんだよ。独り言だ。
14時46分の設定の記憶でした。