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海の体温、君の温度  作者: 結紀ユウリ
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第四話 当たり前の日々

 バタバタと廊下を走る音がする。


 音は段々とこちらの教室へ近づいてくるようだった。


 『こらあ!廊下を走るんじゃあない!』

 『すんませーん!』


 遠くで聞き覚えのある声が響く。

 このやり取りも、覚えがある。

 

 ん……。

 そろそろ帰りの支度しないと。


 パタン、と本を閉じる音が放課後の静まり返った教室に響いた。

 

 足音がハッキリと聞こえるようになってきた。

 と、次の瞬間。


 ガラッ!と勢いよく教室の扉が開けられた。

 

 「わりぃ、冬夜!待たせたー!」

 「おかえり、夏樹」


 教室に入るなり、夏樹は両手を合わせて頭をぺこぺこと下げた。


 今日は課題どのくらい出たんだろう。

 いつものことだが、今日は少し長かったようだ。

 

 「思ったより遅くなっちまった」

 

 教室の時計を見ると時刻は17時30分を指していた。

 確かにいつもより30分程長い。

 こってり絞られたんだろうな。

 

 「佐伯めー……課題の量だけじゃなく余計な話がなげーんだよ、ったく」


 夏樹がぶつぶつと悪態をつく。


 「何度も同じ話をしていて飽きないのかねー」

 

 何度も同じ話をすることになったのは、夏樹の行いのせいだとは思うけど。


 佐伯先生も大変だなあ。ただ、面倒見はいいと思う。


 「本、読んでたのか?」


 夏樹がちら、と僕の手の中にある本に目をやる。


 「うん。いつものこと」


 「ははっ!確かにそうだった。冬夜が昔からずっと大切に読んでいる本だもんな、それ」


 『海の体温』


 本の表題にはそう書かれていた。

 幼いころから家にあった本だ。


 僕はこの本を何度も何度も繰り返し読んでいる。

 読み終えたらまた最初から。


 それは、唯一僕の手元に残された兄との大切な繋がりだから。


 「うん」


 僕は夏樹の言葉に頷いて、きゅっと本を抱き締めた。


 「っと、話すのは帰りながらにすっか」


 「うん」


 僕たちは他に誰も残っていない教室を後にした。


 窓の外は真っ赤な夕焼けが夜との狭間へと移り変わり始めた頃だった。

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