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第一話 海の体温
コポコポと空気が小さな泡となって口から宙へと漏れていく。
不思議と息苦しさは感じない。
ゆっくりと、しかし確実に深くへ落ちていく。抗おうとはせずただ重力に身を委ねている。深くへと落ちていく程に心地良さを感じる。
心と体が海に溶けて自分がどこまでも広がっていく感覚がする。
──このままずっと、落ち続けたい。
落ちていく程に辺りは闇に支配されていく。だが、深くへと落ちていてもなお頭上からは一筋の光がいつまでも僕を照らしていた。
その光のおかげか、海の中は冷たい筈なのに温かさを感じる。
自分という存在が曖昧になる。どこからが自分で、どこまでが自分なのだろう?
心地良い海中の音に耳を傾け僕は意識を手放した。