【Side:鬼灯】 猫又会議
「何だか、頭が痛くて、だるくて」
祝言の儀の翌朝、篝が深刻そうな表情をして、俺を見上げてきた。
「最近は、調子が良かったのだけど、もしかして霊力の関係?」
いや、篝は霊力も気も安定している。俺が側にいるのだから当たり前だ。
「篝」
「ほ、鬼灯」
篝がごくりと唾を呑みこむ。
「それは、―――2日酔いだな」
「―――え?」
「昨日の酒のせいだろう。少し足元がおぼつかなかったのもある。叔父上に頼んで2日酔いに効く薬湯を用意してもらおう」
ぽふっと篝の頭に手を乗せる。
「少し、待っていろ」
「う、うんっ」
すると安心したように篝が頷いた。
寝起きはもう少し篝を堪能したかったが、まぁすぐ戻ってくれば問題ない。俺は早速叔父上の屋敷へ向かうことにした。
***
叔父上も予想はしていたらしい。既に起きていて、できたら知らせると言われ、少し叔父上の屋敷をぶらぶらしていたのだが、朝なのに途端に賑やかな声が聴こえてきて、そっとその声が響いてくる部屋を覗けばーー
「やっぱり難しいにゃ~」
「一回この姿にインプットしてたら体積減らすの大変なんだにゃ~」
咲の国で、特に鬼の居住区に日々暮らしている妖怪と言うのは大体肝が据わっているのだが、それでも何と言うか、人間の居住区にしろ鬼の居住区にしろ、あまり姿を見せたがらない。鬼にしろ、人間にしろ、そこで暮らしていくためにこっそりひっそりと暮らしているのである。
国に危害を加えるような凶悪な妖怪とは違い、とても慎ましやかに暮らしている。
「でも、篝ちゃんにはこの姿でも猫耳しっぽ萌えしてもらいたいにゃ~」
だから、積極的に妖怪の姿を現そうとしているのも珍しい。
叔父上の屋敷の猫又たちはその中でも、普通の猫を気取って屋敷の中で堂々とくつろいでいるが、やはり妖怪側の姿を見せるのは、特有のこっそりひっそり体質的に勇気がいることらしい。だからたまにしっぽを元の二股に戻してみるとかこそこそしたものをやり始めると思いきやーー
「こんな若い男の姿じゃ鬼灯さま激怒にゃ~」
「嫉妬半端ないにゃ~」
「うぐぐ、かつて万が一の際に若いイケメンの方がウケがいいと固定したのがあだとなったにゃ~」
その部屋では、口調からも想像がつくと思うがーー叔父上の屋敷に生息している猫又たちがいた。それも、普通の猫のしっぽを二股にするーーという感じではなく。
猫耳しっぽを生やした若い男ーーそれも爽やかイケメンたちがポージングを決めていたのだ。そしてその脇には、何故か幼女の姿に猫耳しっぽを生やしたメスの猫又たちがいる。
「でも、わたちたちはもうマスターしたから行くにゃ~」
「とうかが薬湯届けに行くって行ってたにゃ~」
「篝ちゃんのお見舞いにゃ~」
そう言って、とたとたとこちらに向かって歩もうとしていた猫又たちは、気配を消してじっとその様子を見ていた俺の存在に気が付いたらしい。
『にゃにゃ~~~~~~っっ!!?』
みんな見事にびっくりしてしっぽの毛が逆立ったな。
「そもそも、メスは幼女の姿になる必要があったのか?」
以前は妙齢の侍女の格好に化けていなかったか。
「幼女の方が猫可愛がりしてくれる確率あがるにゃ~」
まぁ、猫だしな。
「メスだから問題ないにゃ~?」
「まぁ、そうだな」
若い猫耳しっぽ男が篝に群がるよりはいい。まぁ、実年齢はうんと年上なのだが。
「れっつらご~にゃ~!」
意気揚々と向かうメスたちに対しーー
『うぐああぁぁぁ~っ!羨ましいいぃぃぃ―――っ!!!』
オスたちがめちゃくちゃ悔しがっていた。
「あぁ、鬼灯。薬湯できたから行こうか。あれ、猫又たちその姿に化けたの?何だかかわいいね」
薬湯をこしらえてきた叔父上が、猫耳しっぽ幼女たちの行進を見て微笑ましそうに眺めている。そして、一方で項垂れているオスたちにも目を向ける。
「あれ、君たちも化けてたの?珍しいね~。君たちは行かないの?」
そのままの姿で行かせられるかぁっ!!
ついついくわっと圧を放てば。
『にゃにゃっ!?』
ぽふっ
ぽふっ
ぽふぽふっ
びっくりした若い猫耳しっぽ男たちはーー
次の瞬間、猫耳しっぽ幼児の姿でびくびくと脅えていた。
「できたじゃないか」
「でもそれ、すっごい荒療治だねぇ。ほら、君たちもおいで」
叔父上が手招きすれば。
「ふえぇ~、とうかにゃ~」
「だっこにゃ~」
叔父上に群がりふるふるしている。
「ふふ、ほら」
俺が叔父上から薬湯の入ったボトルを受け取れば、叔父上が2匹ほど抱っこしつつほかの猫又幼児たちを引き連れて歩いていく。
そんな様子を見ながら俺も自分の屋敷へと戻り、篝がまつ寝室へと向かえばーー
「にゃ~」
「会いにきたにゃ~」
猫又幼女たちが早速群がっておりーー
「お、お父さんのところの猫又ちゃんたちっ!?」
「にゃ~」
「だっこにゃ~」
猫又幼児たちも加わっていた。
「か、かわいいっ」
篝は目をキラキラさせながら猫又たちの頭をなでなでしており幸せそうだ。氷菓も俺から薬湯を受け取り湯呑に注ぎつつ和やかに微笑んでいる。
氷菓から湯呑を受け取り、薬湯を飲んだ篝は、猫又たちに癒されのほほんとしておりかわいらしい。叔父上も篝と一緒に猫又たちをかわいがっておりーー
「ふふ、いつも一緒に遊んでる子たちだよ?」
『あ、バラしたにゃ~』
叔父上の言葉に猫又たちがびくっとなっていたが、篝はいつも叔父上の屋敷で戯れている猫たちだったと知り心底驚きつつも嬉しそうにしている。
「何だか解せんな」
幼児は幼児で、篝がめちゃくちゃ構うのが嬉しそうなんだが。
「鬼灯さまったら、相変わらずなんですから」
と、氷菓がため息をつくのだが。
いつの間にか篝の周りには再びねこバリケードが築かれており、俺はいつもの場所に収まった。
「ひゃっ、鬼灯ったらっ!」
「猫又たちだけ、ずるいからな」
そう言って、篝を後ろから抱きしめ、首筋に顔を埋める。
『抜け駆けされたにゃ~っ!!』
と、猫又たちが絶叫したもののーーいつも抜け駆けしまくっているのはそちらだろうと内心呟いた。
 




