2日目の宴
2日目の夕食も宴で鬼の長の一族の代表と子女たちが集まっていた。鬼灯曰く、「交流会とか、色々と名を付けてはいるが、ただ宴がやりたいだけだ」だそうだ。まぁ、隣の席に座ったお義父さんからまた小突かれていたが。
今晩も、周りには縹花お姉さまや萌黄ちゃんが来てくれて、楽しくお話をしていた。その時、縹花お姉さまが名前を呼ばれて振り返る。
「あら、椿ではありませんの」
縹花お姉さまに“椿”と呼ばれたのは、中性的な見た目に見えるものの、衣の着付けから男性だと分かる。薄紫色の髪に赤い瞳、桜色の角を持つ美しい顔立ちの青年だった。
そして、その隣には杏子ちゃんと同じくらいの年齢の少年がいる。灰色の髪に、赤い瞳、そして桜色の角を持っている。
「柊も一緒ですのね」
「どうも」
椿さんの隣でぶっきらぼうな感じで、少年ーー柊くんが返事をする。
「どういたしましたの?今、素晴らしき妹たちを楽しんでおりましたのに」
「ふふ、鬼灯がお嫁さんを迎えると聞いて、見に来たんだ」
椿さんがふんわりと微笑む。
「まぁ、むさくるしい男なら面会お断りですがーーまぁ、椿ならいいでしょう。こちらへ」
「ありがとう、縹花姉」
座る動作まで洗練されている椿さんが、縹花お姉さまの傍らに腰掛けてにこりとこちらを向いて微笑む。柊くんはその後ろから様子を窺っているようだ。
「なかなかかわいい子だね」
「いえ、そんなことっ」
何だか、椿さんがステキすぎて、ついつい照れてしまう。
「鬼灯は嫉妬深いでしょう?目つきは悪いんだけど、篝ちゃんの前では別人のようで驚いたよ」
「えっ、その、嫉妬ですか?」
「もう、椿ったら。そこはツッコんではなりませんのよ。そこが篝ちゃんのかわいらしいところです」
「鬼灯ったら全く、罪だよねぇ?杏子ちゃん。よく見張っておいて」
「うん、椿お兄ちゃんがそう言うなら任せて!」
杏子ちゃんもやる気なようである。
「―――ったく、じゃじゃ馬め」
「おらっ、今何つった柊!」
杏子ちゃんが膝立ちになり柊くんを指さす。
「事実だろうが、少しはおしとやかにしたら?」
「その言葉、そのまま返すから!少しは椿お兄ちゃんを見倣ったら!?」
「は、はぁっ!?その、そんなっ、俺が椿兄みたいになるなんて」
杏子ちゃんと勢いよく言い合っていたのだが、急に柊くんがしどろもどろになる。
「こら、柊。女の子にはもう少し優しく言わないと」
椿さんが優しくたしなめれば、
「そうですわ。わたくしの妹に何と言うっ」
「うっさい妹好きの変態女!」
縹花お姉さまがツンと呟けば、柊くんがそう吐き捨てる。
「んなっ、浅緋の同類のような言い方をしないでくださいなっ!?」
浅緋さんと同類ってーーその、シスコンってこと?あれ、でも縹花お姉さまも私たちに本当の妹のように接してくれてーー。
「お姉ちゃん、そこ悩んじゃダメだよ」
と、杏子ちゃんに止められる。
「んだよ、騒いでいると思ったら。お前のその妹好きと妹萌えとどう違うの?」
そんなぶっきらぼうな声が響いたと思えば、縹花お姉さまの後ろにグレーの髪に黄水晶の瞳、そしてダークグレーの鬼角を持つ青年が立っていた。
妹萌えーーとは浅緋さんのことーーだよね?
「全っ然違いますわよ!わたくしはお姉さまとしてですねっ!」
「さっき浅緋が“俺はお兄ちゃんとしてだねっ”とつらつら述べていたけどな」
「んなっ!!」
青年の言葉に縹花お姉さまが言葉を詰まらせる。縹花お姉さまと浅緋さんは、割と息が合っているのだろうか。
「お姉ちゃん。あのひとは灰斗。星鬼だよ」
そう、杏子ちゃんが教えてくれる。星鬼と言えば、最も南に位置する星の国で暮らす鬼の一族である。
「おう、杏子だったか?呼び捨てにすんなよ。マセガキめ。鬼灯にほんっとそっくり」
と、灰斗さんがへらへらと笑いながら告げる。
「兄妹だもんっ、悪い?」
「いや?面白いからいいや。鬼灯の嫁も見れたし、俺はもう寝るわ~」
そう言って手をひらひら振りながら行ってしまった。
「いや、寝るの早くない!?」
と、杏子ちゃんはツッコむもののーー
「どうせ酒飲んでたんですわね。あの酒豪め、ですわ」
そう、縹花お姉さまが吐き捨てる。
「鬼って酒豪が多いんだよ。鬼灯もーーあれ、いつの間にかどっか行っちゃったみたい」
本当だ、お義父さんは隣で朱月さんや他の長と話し込んでいるが。
「あれ、柊こんなとこにいた。杏子と菫と一緒だったんだ」
そうこうしていれば、夕緋くんがとてとてとやってくる。
「あ、夕緋兄さま」
夕緋くんに菫ちゃんがぺこりと挨拶する。
「俺、こんな妹が欲しい」
「ちょっと、夕緋くん。菫ちゃんはわたくしの妹なんですからあげませんわ!」
そう言って、縹花お姉さまが菫ちゃんを抱きしめる。
「あぁ、やっぱり夕緋くんもシスコンに傾くのかな。妹萌えに」
そう、椿さんがぼそっと呟いていて、ハッとしてしまった。
い、遺伝っ!!




