鬼の交流会
到着初日の夜は、交流会との名目での宴であった。会場には、様々な色の角の鬼や、その側仕えたちがおり、鬼灯が手を引いてくれていなかったら、広い宴会場の中で迷子になってしまいそうだ。
「篝、俺たちの席はここだ」
「うん」
鬼灯と並んで席に着けば、そこには豪華な料理が盛りつけられたお膳が置かれている。お義父さんは鬼灯の右隣、杏子ちゃんは私の左隣に腰掛ける。
氷菓と砂月さんは傍に控えてくれている。
お茶やお酒のお代わりなどは氷菓たちに頼むそうだ。とは言え、私はお酒は飲まないのだけど、鬼灯やお義父さんの席にはお酒も用意されている。
黒鬼の座る場所は、今回のホストである赤鬼の長である朱月さまたちのすぐ傍で、鬼の長の一族の影響力の順番に席が設けられているそうだ。なので黒鬼の隣は、白鬼。白鬼の白夜さんが初老の男性と共に座っている。
「白夜さんの隣にいらっしゃるのは」
「確か、白夜お兄ちゃんのおじいさまだよ」
と、杏子ちゃんが解説してくれる。
「そこは俺の役目だ、杏子」
「いいじゃない、お兄ちゃんのケチー」
ぷくーっと頬を膨らませる杏子ちゃんはやっぱりかわいらしい。なでなでと頭を撫でてあげていれば、後ろから鬼灯に頭をなでなでされた。
「鬼灯ったら」
「杏子ばかりずるいからな」
「お兄ちゃんったら、独占欲強すぎー」
「これくらい普通だっ!」
「まぁまぁ」
いつものふたりの様子に苦笑する。
「あちらの方は白夜の祖父で、現白鬼の長代理の白蓮さまだ」
そう、鬼灯が補足してくれる。
「代理?」
「白夜が成人するまで、代理を務められていた。白夜はもう成人だから、そろそろな。ま、直に分かるだろう」
そう、鬼灯が告げる。
咲の国では、20歳で成人となる。それは他の国々の多くで同じである。白鬼が暮らす雪の国でもそうなのだろう。
つまり、白夜さんが長を継ぐってこと?
「あの、鬼灯は?」
「俺か?俺は父上が現役の間は楽をするつもりだ」
そう、鬼灯が告げれば。
「こら」
隣に座るお義父さんに頭を小突かれていた。
「いたっ」
「ま、白鬼の家は複雑だったからな」
そう、お義父さんが漏らす。それは一体?
「大きな声では言えないが」
鬼灯が耳元に口を近づけてくる。少しドキッとしてしまったがーー
「(白夜の両親は、父上や他の長たちから追放を告げられている。アイツらは幼い白夜を相当虐めたらしいからな)」
それって、白夜さんが言っていた、ご飯を抜かれたり、閉じ込められたりって言う?
「(そのことが、既に隠居していた先代長の白蓮さまが知るところになり、また、父上たち他の長も問題視して追放したんだ。全ての悪行を合わせたら、到底許されるものじゃなかった)」
じゃぁ、聞いた以上のことを?
「(今はしがない田舎で幽閉生活を送っている。それが彼らに与えられた罰だ。その後は白夜が成人するまでは白蓮さまが代理を務められている)」
「そう、だったんだね」
「まぁ、今はもう気にするな。今は白夜も信頼できる者たちに囲まれているからな」
「そう、なんだ。良かった」
白夜さんにも、安心できる場所ができたんだ。そのことにとても安心感を覚えた。―――私も、そうだったから。私も鬼灯に拾われて、周りに信頼できる鬼たち、家族に囲まれているから。
「ちょっと鬼灯さま。随分と見せつけてくれますわね」
「ひょ、縹花お姉さまったら、やっぱりやめた方が~」
私たちの席の前に、ふたりの鬼の女性が立ちはだかった。彼女たちも、長のご令嬢なのだろうか?




