会合の知らせ
作者のしたことが。鬼灯へのご褒美を忘れていたとは(;´Д`)ぐはっ。
「さ、篝。頼む」
「そ、そのっ、緊張してっ」
「約束だっただろう?前回はねこバリケードのお陰で感動のお帰りのキスを逃してしまった」
「うっ、うん」
そう言えば、そうだった。朝の口づけは鬼灯が毎日してくれる。お帰りの口づけはなんだかんだで鬼灯も緑鬼の件の後片付けが忙しそうで先延ばしになっていたのだった。
「緑鬼の件も無事片付いた」
確か、緑鬼の長さんが、翠姫一行を無事に連れて帰って行ったと聞いた。鬼灯は翠姫さんが十分反省しているようだから安心していいと言っていた。
いろいろとあったけれど、いつか翠姫さんと和解することもできるのだろうか。
「篝、何を考えている?」
「えっと」
つい考えこんでいたことに気が付き、ハッとして顔を上げる。
「あのっ」
きょろきょろとあたりを見回せば、いつも通り後ろに氷菓、そして鬼灯の傍らには砂月さんがいる。
「その、みなさんが見てる、前ではっ」
そう言いかけた時。
「うごぁっ!!」
砂月さんがいきなり叫び、思わずビクンと肩を震わせる。そして横では、後ろを向いている氷菓と何故か床に伸びている砂月さんがおりーー
「あの、砂月さんは大丈夫?」
「鬼は丈夫なので大丈夫ですよ。さ、私は見ていませんから。もちろん砂月も」
確かにふたりとも後ろを向いてくれている。砂月さんは伸びているようにも見えるのだけど?だけど、氷菓も気を遣ってくれているんだ。
「ほら、篝。俺にご褒美をくれ」
「あぅっ」
緊張、する。鬼灯のように口に?あぁ、でもこの間杏子ちゃんに借りた恋愛小説には確かっ!
「ほ、鬼灯。目を、つぶって?」
「目を?あぁ」
鬼灯が瞼を閉じてじっと立っている。立ち姿も、き、きれい。あぁ、そうじゃない。鬼灯に、そのー、ご褒美をっ!いつも守ってもらって、優しくしてもらってばかりいる。私も、鬼灯が喜ぶことができればいいのにと思っていた。鬼灯のためになるなら!
よしっ!
そっと、唇を鬼灯に近づけていく。
―――そしてっ
ちゅっ
唇に柔らかい鬼灯の頬が触れる。な、滑らかで、柔らかい!何か感動してしまった。
ハッとして思わず鬼灯の頬から唇を放せば、ゆっくりと鬼灯が瞼を上げる。
「あの、その、大丈夫だった?」
「大丈夫どころか」
な、何かまずかった!?
「最高だ」
ふんわりと微笑む鬼灯の顔を見て、ほっと胸をなでおろす。
しかしその時。
ちゅっ
唇に、柔らかい感触がおりてくる。
「ひぁっ!?」
「ふふ、礼だ」
わ、私がいつものお礼をしようとしたのに、またお礼をしてもらってしまった。ど、どうしよう。
「明日からにも、よろしくな」
「あ、明日も?」
「ダメか?」
「ダメじゃ、ないっ」
「できれば、唇にも」
「えっ!?」
「鬼灯さま?無理強いはいけませんよ?」
いつの間にかこちらを向いていた氷菓が、にこりと微笑んでいる。
「無理強いではっ」
「そ、そのっ、そう言うのじゃないからっ!」
慌てて答えれば。
「では、ゆっくりと段階を踏んでくださいな。ささ、夕食の準備は整っておりますから、早くお入りくださいな」
氷菓に促され、ふたりで居間に足を向ける。
「あ、あの」
「どうした?」
「砂月さんは、大丈夫?」
廊下で未だに伸びている砂月さんを示せば。
「あぁ、今日はそう言う気分なのだろう。暫くあぁしておいてやれ。それも主人としての福利厚生だ」
福利、厚生?私は床で伸びている砂月さんをもう一度見やる。
「そ、その、お大事にしてくださいね!」
そう言って、居間に入れば氷菓がにっこりと微笑みながら襖を閉じて去っていく。
外からずるずると何かを引きずる音がしたのだが、鬼灯に声を掛けられハッとして顔を上げる。
「そう言えば、今度紅の国に行くことになった」
「あ、お義母さん、故国の?」
「そうだ」
赤鬼と呼ばれるお義母さんの故国は、ここ、咲の国から隣の隣くらいにある国である。
「そこで鬼の長の会合がある。そこには長の子女も同行することが多い。長たちは会議だが、子女たちは交流の意味で集まる。母上は叔父上と共に咲の国で何かあった時のため残るが、篝は俺と父上と一緒に行こう。ついでに杏子もいっしょだ」
杏子ちゃんも!
「でも、私も同行していいの?」
鬼の長さんたちが集まるような場にーー
「当たり前だ。俺の婚約者なのだから。むしろ篝と離れるなんて、俺が無理だ」
そ、それはっ!私も鬼灯がいなかったら寂しくーーなると思うけど。
「だから、一緒に行こうか」
「う、うんっ!」
長い間春宮家からも出たこともない私にとって、他国に行くことなんて想像もできないけれど。鬼灯や杏子ちゃん、お義父さんも一緒なら、安心できる。
今からでも、そんなところなのかとても楽しみだ。




