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【Side:鬼灯】 事件の裏側で


付き合いもあるからとあちらの要求に大人しく付き添い、視察とは名ばかりの翠姫の街歩きに同行してやった。しかし邸に戻るなり疲れたから休むとあっさりと離れたかと思えば。


篝の腕輪には俺の霊力がふんだんに注がれているから、発信機代わりにもなる。恐らく寝室にいると思い向かっていれば、篝が寝室に行ったっきり戻ってこないと氷菓と杏子が探しに行こうとしていた最中に出くわし、何かあったのかと急いでむかった。


あの女、あることないこと喚いて、更には篝にとってはつらい記憶の春宮家でのことまでつらつらと。思いっきり覇気を浴びせてやればすっかり顔面蒼白になった翠姫を砂月に連れて行かせた。


篝は俺の腕の中で疲れたようにぐったりと眠っている。


「鬼灯さま。申し訳ありません。私と言うものが付いていながら」

氷菓が申し訳なさそうに首を垂れる。


「いや、氷菓はいつもよくやってくれている。俺もあの女から目を離すべきじゃなかった。氷菓だけの責任ではない」

「鬼灯さまっ!」


「むしろ!あの女何!?いくら長の娘でも、他国の鬼の長の屋敷で騒ぎを起こすなんて!」

杏子がぷくっと頬を膨らませる。


「本当に、いい度胸をしているな」


「お、お兄ちゃん?」

「鬼灯さま、杏子さまの前ですよ」


「む」

氷菓に言われて、ついつい覇気を駄々漏れにしていたことに気が付いた。まずい、つい恐がらせたか。


「ふたりとも中に入れ」


「ほら、杏子さま」

「う、うんっ」

氷菓に促され、杏子がもごもごしながら付いてくる。はぁ、杏子はまだまだ子どもだから、あまり恐がらせるなと母上から言われていたのを思い出す。それでもこんな俺に兄として懐いてくれるのは不思議なものだな。―――最近は篝を独占するなとぽかぽかやってくるが。


篝を布団に横たえる。


「氷菓、杏子。暫く篝を預ける」


「お兄ちゃん、またどっか行っちゃうの?お姉ちゃんはーー」

杏子が俺の服をひょいっとつまむ。


「案ずるな、すぐに戻る。ただ、今回の決着も付けなければならない。それだけだ」


「ーーお兄ちゃん。わ、わかった!それまでは私がお姉ちゃんを独占するんだから、早く戻ってきてよね!じゃないと、お姉ちゃんの一番は私になってるかもしれないから!」

んなっ。


「お、お前な」

「ふふっ」

氷菓がくすくすと笑うのを見て、でかかった言葉を呑み込む。


「篝の一番は、俺だ。忘れるな」

「ふーん、どうだか!」

全く、コイツは相変わらず生意気な。まぁ、でも、―――悪くはない。


俺は寝室を後にして、父上の元へと向かった。


「父上」


「鬼灯か。報告は、聞いた」


「あれは今は?」


「付きびとと共に見張りを付けて隔離している」

ふん、それだけで済まされるとは。俺としては牢屋にぶち込んでくれても良かったのだが。


「至急、縁の国の緑鬼の長を呼びつけた」

「まぁ、そうなるだろうな」

鬼の長の一族の、それも長の息子である俺の婚約者、魂の伴侶である篝に手を出せば当然、長が呼び出されることになる。それもウチは“黒鬼”。鬼の長の一族の中でも最も歴史が古い。

鬼の中でも影響力が強い。そんな一族の伴侶にーー篝自身、黒鬼の血を引いているというのに手を出すとは。


「命が惜しくはないのか」

馬鹿な女だ。


「それをどうにかできる自信でもあったのだろう。あぁいうのは、昔もあった」


「それは、叔父上の」


「―――」

叔父上は優秀なひとだが、絶対的な力を持つ父上に比べれば力は弱い。そして娶ったのは人間の凜さん。昔はあれこれ言う輩もいたのだとか。


「全てねじ伏せたが」

だが、それでもまた、そのように見くびる者がいたとはな。


「後は長が到着するのを待つだけだ。もう下がれ」


「―――わかった」

父上なりに、篝のことを心配しているのだろう。そろそろ篝が目を覚ますかもしれない。俺も戻ろう。篝の元へ。


***


すとん。と、襖を開ければ。


「なーぅ」

「にゃぉ~ん」


「ねこちゃんたち♡」

ドテッ。


そこには、猫又どもの楽園が広がっていた。まぁ、篝の前では相変わらずしっぽを1本にして擬態しているようだが。


氷菓と杏子、そしていつの間にか来ていた叔父上とともに、篝の周りを固める猫又たち。


「鬼灯!」

そして俺に気が付いた篝が嬉しそうな表情を浮かべる。


「あの、お父さんのお屋敷から、ねこちゃんたちも来てくれたの」

「そ、そうか。良かったな」

どうしよう。俺が抱き着くスペースが、―――残っていない!!いや、待てよ?


「お兄ちゃん、座らないの?」

篝の側で本を読みながらみかんをつまむ杏子。いつの間にひとの寝室にみかんを大量に持ち込みやがった。


そうだ。待て。一か所残っているじゃないか。俺は篝の後ろに回り込む。


篝が不思議そうに俺を振り返る。


篝の後ろに置かれた枕を取り除き、そして後ろからぎゅむっと抱きしめた。


「うん、これでいい」

「ほ、鬼灯っ!」

頬を赤く染める篝は、やはりかわいいな。篝の首筋に顔を埋めれば。


「そ、そんなっ!ねこバリケードがああぁぁぁっっ!」

ふっ、やはり杏子の策略だったか。まだまだ甘いな。


「まぁまぁ、今回は鬼灯の勝ちってことで」

普通のねこに擬態する猫又のをかわいがりながら、のほほんとしながら叔父上が告げる。いや、いつも俺の勝ちだが。


ぷくーっと頬を膨らます杏子の頭をなでながら篝が微笑む。まぁ、こういう賑やかなのも、悪くはないかもしれないな。




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