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鬼灯とお守り


ここは、どこだろう。何か柔らかいものに包まれている。


ここが、天国というところなのだろうか。


不意に髪を優しく撫でる感触を覚え、うっすらとまぶたを開けば、あの夜に見た篝火のような瞳が私を捉えた。


「―――っ」

声が出ない。


「無理にしゃべらなくていい」

そう、あの夜と同じ優しい声が響く。―――あの時の。

私を見降ろすのは、黒い髪に黒い2本の長い角を生やしたーー美しい鬼であった。


どうして鬼が私を助けたのだろう?


ぼうっと彼を見上げていれば。


「心配しなくていい。俺は鬼灯ほおずき。ここにいれば、安全だから」

そう、鬼灯が優しく告げれば、何だか心がすっと楽になる感じがした。


「それから、これを」

鬼灯は私の手を優しく取り、その手首に金色の環にその名の鬼灯色の宝石のついた腕輪を嵌める。


「これは、お守りだ。俺の霊力が込められている」

鬼灯の、霊力?鬼は生来霊力の強い種族だ。だから彼が霊力を持っているのは何ら不思議なことではないけれど。


どうしてそんな霊力が込められた腕輪を、私に?


「今は、ゆっくりと休め。それが一番だ」

鬼灯の掌が、優しく私の額を撫でる。こんなに優しく撫でられたことなんて、初めて。ーーそのはずなのに、どうしてかとても懐かしい。やがてうとうととし出せば、自然と夢の中へとまた落ちていった。


―――


「―――かがり

誰かが私の名前を呼んでいる。


かがり、早く篝に会いたい。俺の篝」

誰?小さな男の子の声に聞こえるが、その声は“鬼灯”のもののように聞こえた。


―――


ハッとして目を開ければ。傍には見知らぬ女性がいた。


「あぁ、目を覚まされたのですね。具合はいかがですか?少し起き上がれそうですか?」

優しく問いかけてくれた女性は、青い見事なロングヘアーにアイスブルーの美しい瞳、そして青い鬼角を持つ20歳前後の美女であった。


彼女に背を支えられて、ゆっくりと身を起こす。


「私は氷菓ひょうかと申します。お嬢さまのお世話を担当させていただきますので、よろしくお願いしますね。今、のど越しのよいものをご用意しますからね」

え、それって、食事ってこと?食事が、もらえるのだろうか。

それに、“お嬢さま”って。

それは元来光子に許された呼び名。私はただの“役立たず”だったのに。どうして、私をそう呼ぶのだろう?


呆然としながら氷菓さんを待っていれば、果物をすりおろしたものを持ってきてくれた。


「これなら、食べられそうですか?」

こくんと私が頷けば、氷菓さんが笑顔で頷いてくれた。

スプーンを握り、ゆっくりと口に含めば、リンゴの甘酸っぱい風味が口の中に広がる。


―――美味しい


今まで食べた中で一番おいしく感じた。


「ゆっくりで、いいですからね」

氷菓さんが私の頭を優しく撫でてくれて、何だか年上のお姉さんのように感じた。光子とは違う、とても優しいひとだ。


ゆっくりではあるが、リンゴのすりおろしを食べ終われば、氷菓さんが私の身体をいてくれた。傷痕だらけの、身体。でも氷菓さんは何も言わずに優しく拭いてくれて、代わりの寝巻を着せてくれた。


「何かあれば、このベルで知らせてくださいね。すぐに参りますから」

と、氷菓さんがベッドの脇にベルを置いてくれる。


私がこくんと頷けば、横になるのを手伝ってくれて、また優しく頭を撫でてくれた。


こんなに優しくされて、いいのだろうか?


そう思いつつも、また眠気が襲ってきて、そっと目を閉じたのだった。



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