表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/56

突然の襲撃


姫さまと第2王子殿下とお茶菓子をいただいた後は、姫さまの宮のお庭を案内してもらっていた。その場には冬宮家でお会いした氷月ひづきさんも付き添っていた。氷月さんは冬宮家当主の息子さんで、姫さまの専属術師なのだそうだ。そして再びこの場で顔を合わせた時、「妹がいつも世話になっております」と言われてこてんと首を傾げていれば。


「あぁ、私の兄ですよ」

と氷菓に告げられ、思わずふたりの顔を見比べてしまった。

あ、ということは氷菓もあの冬宮家の当主・氷扇ひせんさんの娘と言うことになる。そう言えば氷扇さんと氷菓は少し似ているかも?


「あぁ、あの狸親父に似ているだろう?」

と、悪戯っぽく鬼灯が告げれば。


「心外です」

という答えが氷菓から帰って来て、それを見た第2王子殿下が失笑していた。


「俺は冬宮家で育ったからさ。今のめちゃくちゃ面白かった」

だそうだ。そう言えば第2王子殿下は氷菓とも親し気な気がする。


「兄さまにとってはもうひとつのご実家なのですよね」

そう姫さまが告げれば、「そうだよ」と第2王子殿下が姫さまの頭をなでなでする。


「殿下、せっかくのヘアメイクが崩れます」

だが、次の瞬間氷月さんに手をのけられていた。


「ひどいっ!やっぱり冬宮家の連中は俺に対して鬼やぁっ!」

「だから鬼ですって」

慣れっこな感じの氷月さんは呆れたような表情を第2王子殿下に向ける。


「兄さまと氷月はいつもこんな感じで、仲良しなのです」

「そ、そうなのですね」

姫さまが苦笑するのと同時に、私も自然と笑みをこぼした。そうして穏やかな時間が流れていた時だった。


「何か、騒がしいな」

鬼灯が怪訝な表情を浮かべる。


「まぁ、何が?」

姫さまが首を傾げ、そしてその瞬間、氷月さんや近衛騎士たちが姫さまの前を瞬時に固めれば。


「見つけたっ!」

その叫び声にビクンと肩が震えた。


何故、こんなところに!


「全部お前のせいだあああぁぁぁっっ!この役立たずがあああぁぁぁぁっっ!」

それは、いつも光子ひかりこの隣でほくそ笑んでいた。

だが、今は憤怒の表情を浮かべ、こちらに迫ってくる!?


「あのバカ兄貴がっ!」

第2王子殿下が吠えたその時。


「せっかく命だけは助けてやったものを、再び俺の篝に害をなすか」

鬼灯が私を背に庇い、地を這うような声を放つ。その表情はうかがい知ることはできないが、次の瞬間鬼灯の周囲を覇気のようなものが包み込み、そしてそれが憤怒の顔でこちらに突進して来ようとした元王太子のもとに叩きつけられ、哀れな悲鳴が轟いた。


「ふぎゃっ!!」


「捕らえろ!」

近衛騎士たちの勇ましい声と共に、その不躾な侵入者はいとも簡単に捕らえられる。


「恐らく侵入を手引きした協力者がいるはずだ!」

「はっ!」

残りの近衛騎士たちが一斉に散らばっていく。


「こちらは我らがおりますので大丈夫ですよ。姫さま」

氷月さんの声が聞こえる。


「い、いえ。私はっ、それよりも篝さまはっ」

「わ、私は大丈夫です。鬼灯がいますから」

「あぁ、篝には指一本触れさせない」

鬼灯の力強い言葉が響くと、姫さまもこくりと頷いた。そして第2王子殿下が前に進み出る。


「こういう時、殿下危険ですとか言わねぇの?お前ら」


「仮にもウチで鍛えたお方ですし、今更何かしようとなさるのなら徹底的につぶすまでです」

そう、氷菓がにこりとしながら告げれば。


「あぁ、そうだな」

「まぁ、俺は付き添ってやるから」

「―――砂月っ!!」

それでも一応砂月さんは第2王子殿下と一緒に取り押さえられている元王太子の前に仁王立ちになる。


「廃太子になり王族の資格も剥奪され、かろうじて命だけは繋がったというのに。あなたは妹を恐がらせ、あまつさえ今度は自らの手で鬼の長の後継者の婚約者に手を出すとは。あなたがこんなにも愚かだとは思いませんでした」


「ぐぅっ!貴様ぁっ!王太子は私だ!私が王太子なんだ!」


「まだそんな夢を見ているのですか。離宮に幽閉された時点でご自分の身の振り方を十二分に理解されると期待した私が愚かでした。今回のことは父上の、そして鬼の長の怒りを買うでしょう。その命を突きだすだけでは足りないかもしれませんね」


「わ、私は高貴な生まれだ!王族でっ」


「あなたはもう王族ではない。つまりは平民です。平民が姫の宮に侵入し、そして篝嬢に手を出そうとしたのですよ」


「あんなもの、ただの役立たずじゃないかっ!」


「だからあなたはどこまでも愚かなのだ。連れて行け。そのまま父上の御前までな」

『はっ、殿下』

第2王子殿下の言葉に、ぎゃぁぎゃぁと喚き散らしながらも、元王太子は引きずられて行った。


「篝、大丈夫か」

鬼灯の手が私の頬に優しく触れる。


「だ、大丈夫っ」

今は、ひとりじゃないから。みんながいるから。


「無理はしなくていい。あれはもう、二度と篝の前には姿を現さない」

そう言って鬼灯が私の身体を抱き寄せる。


鬼灯の腕は優しく私を包み込む。その優しさの中で目を閉じた私は、その時鬼灯がどんな表情をしていたかは見えなかったけれど。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ