篝のお守り
「わぁ、キラキラしていてきれい」
「いっぱいあるー!」
今日はお父さんのところで、霊力の扱い方を教えてもらうことになっている。
そして私と一緒に学びに来た杏子ちゃんの前に出されたのは、たくさんのキラキラしたビーズや玉でできた飾りだった。
「これでまずブレスレットや首飾りを作ってそれに霊力を込めてみようか。お守りにもなるからね」
「―――お守り」
お父さんの言葉に、思わず鬼灯からもらった腕輪を見やる。
「あぁ、それは鬼灯が?」
「うん」
「お兄ちゃんったら、いつの間に」
杏子ちゃんもじーっと見つめている。
「確かにお兄ちゃんの力を感じる。うぅっ」
何だか悔しそうでもあるが。
「そうだ。この腕輪のお返しに鬼灯にあげてもーーでも、鬼灯の方が強いからあまり意味はないかな」
この国の鬼でナンバー2の実力なのだ。私の霊力を込めたお守りをあげたとしても効果はないだろうから。
「いやいや、そんなことはないよ」
お父さんが優しく手を重ねてくれる。
「そうなの?」
「うん。確かに鬼灯は霊力が強いし、その腕輪は最強のお守りだけれど、鬼灯には篝ちゃんの霊力を込めたお守りが一番効くと思うよ」
「あ、それはそうかもね」
「うんうん。精神安定剤と言う点で」
「わかるー」
精神安定剤?つまりリラックスしてくれるということだろうか。それならば。
「うん、作ってみたい」
「ふふ、きっと喜ぶよ」
「うん」
私は簡単なブレスレットを作ることにした。球体のビーズの間に、青いキレイな勾玉を加えたブレスレットだ。
「こんな感じでいいのかな」
「うん!お姉ちゃん、かわいいよ!」
杏子ちゃんもブレスレットにしたようだ。杏子ちゃんのイメージによく合う赤い勾玉が加えられたブレスレットだ。
「じゃぁ、これに霊力を込めて行こうか」
「だけど、どうやって?」
今まで自分に霊力があったということすら驚きなのだ。使うと言ってもよくわからない。
「それじゃ、お父さんが一緒にやってあげるからね。杏子は氷菓と」
「はーい!」
杏子ちゃんが元気に手を挙げると、脇に控えていた氷菓が杏子ちゃんの側に腰掛ける。
「さ、篝も手をかざして」
ブレスレットに手を乗せれば、お父さんがその上から手を重ねてくれる。すると、何だか腕から指先へ温かいものが流れてくる気がした。
「何だか、温かい」
「うん。ひとによって違うのだけど。温かかったり、冷たかったり。篝は温かいと感じるんだね」
「うん」
「こうやって、少しずつ霊力を流していくんだよ」
「今、霊力が流れているの?」
「そうだよ。光が見える?」
「うん」
そう言えば、ぼんやりとブレスレットが光を帯びているような気がする。
そうして、ふっとお父さんの手が離れれば、すっと光がおさまった。
「はい、これで終わり」
「これで、霊力が宿ったの?」
「そうだよ。きっと篝の霊力だと鬼灯も気が付くから、すっごく喜ぶだろうね」
「う、うん!」
喜んでくれると、いいなぁ。
「こっちもできたー!」
と、杏子ちゃんが元気に声を上げ、隣で氷菓が微笑んでいる。
「これ持ち歩いちゃおう」
杏子ちゃんが早速手首にお守りを付ければ、
「ふふ、身に付けるだけでも効果があるからね」
そう、お父さんが微笑む。そう言えば、鬼灯から受け取った腕輪も。
腕輪に着いた鬼灯色の玉を優しく撫でていれば、
「篝」
不意に襖が開き、鬼灯が姿を見せる。
「今日は少し早く仕事が片付いた。お茶にしよう」
「ちょっとお兄ちゃんー!私がもう少しお姉ちゃんを独占するつもりだったのにー」
杏子ちゃんがむっとした表情を向ければ。
「ふんっ、俺から篝を独占だと!?100年早いわっ!」
「むきーっ!」
「ちょっとふたりとも、落ち着いてっ!」
あわあわとしていれば、お父さんからの助け舟が入る。
「まぁまぁ、落ち着いて。みんなでお茶にしようか。鬼灯もいい子にしなさいね」
「うぐっ」
そうして大人しくなる鬼灯は、やっぱりお父さんには頭が上がらないらしい。何だかしゅんとしながら隣に座られると、ついつい撫でたくなってしまう。
「そ、そうだ鬼灯。あの、これ」
どきどきしながら、先ほどのブレスレットを見せれば。
「これは、―――篝の霊力を感じる」
やっぱり、鬼灯には分かるんだ。
「そ、その。鬼灯には必要ないかもしれないけど、お守り、いる?」
恐る恐る問うてみれば。
「くれるのか!?」
しゅんとしていた鬼灯の顔がぱああぁぁっと明るくなる。
「う、うん!」
「そうか、嬉しい」
鬼灯は、私の手を両手で包み込むようにしてブレスレットに手を重ねる。
「これから毎日身に付ける」
「ま、毎日っ」
「あぁ、それに、篝の瞳の色だな」
鬼灯が腕輪を手首に付ければ優しくそれを撫でてくれる。
そしてそう言われて気が付く。青は、私がお母さんから受け継いだ色である。それに気が付けば、少し恥ずかしくも思いつつも、鬼灯の満面の笑みを見たら、やはりプレゼントして良かったと感じた。
「本当だ。精神安定剤だ」
「でしょう?」
「ふふふっ」
そんな呟きが聞こえ、やぱりみんなから見ても鬼灯がリラックスしてくれているのだと思い、ほっと安心しながらお茶を啜るのだった。




