初めてのお料理
※なお、レシピは作者の作り方を主体としているので細かいことは気にしないでください※
「あのっ、お料理を作りたくて」
その日、ねこたちがまどろむその屋敷で衝撃が走ったらしい。
「りょ、料理?今、お料理と仰いました?」
氷菓がガクガクしながら聞いてくる。
「あ、だ、ダメ?」
だっただろうか。最近読んだ小説で、手料理と言うものが出てきたので興味を持ったのだが。
「あぁ、そんなことはないよ。鬼灯に聞かれなくって良かった良かった」
と、お父さんがのほほんと告げてくる。
「そうですね。鬼灯さまが知ったら、屋敷の料理人が気に入らないのかと言う思考にチェンジしますからね」
「えっ、そんなっ!いつもとても美味しいのに」
「なら、ようございました」
「その、私が作るのは、やっぱりダメ?」
「そうですねぇ。鬼灯さまが知ったら指を怪我するなど物凄い過保護になりますからねぇ。あぁ、手料理についても事前に知識を植え付けておかないと」
「あぁ、それはぼくが説明してくるね」
と、お父さんが手を挙げる。
「なら、安心ですね」
氷菓が手を合わせてほっとした様子で微笑む。
「練習も必要だろうし、ウチの屋敷の厨房を借りるといいよ。鬼灯のお屋敷でやったらすぐにバレちゃうし」
「ですよね~。過保護暴走させますからね~。ここは、ナイショにっ!」
お父さんと氷菓の笑みに思わずゾクっと来たのだが何故だろう。
「じゃぁ早速厨房に行こうか」
お父さんに案内されて、厨房に向かえば。
「まぁっ、篝お嬢さまがお料理を!?」
「愛妻料理なんてステキね」
「私たちが手取り足取りお教えしますからね~」
と、お屋敷のみなさんは歓迎してくれているようだ。
―――でも、
「あの、お嬢さま?」
氷菓にも最初に呼ばれた気がするけれど。
『旦那さまの御子ですものっ!』
旦那さま、というのはこの屋敷の主であるお父さんのことだ。つまりは、みなさん私のことをお父さんの娘だと認めてくれているってこと?それはそれで何だか嬉しい。
「あの、でも、“篝”でいいです」
お嬢さま、だなんてちょっと恥ずかしい。
「篝もこう言っているし、そう呼んであげて」
お父さんがそう言うと、みな揃って頷き、
『承知いたしました、篝さま』
「は、はいっ!」
そうして事情を説明すると、
「それで、今回は何をおつくりに?」
「その、迷っていて。鬼灯はどんなものが好き?」
「多分篝さまが調理されたものなら何でも食べるでしょうねぇ」
氷菓の言葉にみんな揃ってこくんと頷く。
そう、なの?それならそれで迷ってしまう。
「鬼灯さまのお屋敷で気に入ったものは何かありますか?」
氷菓が問うてくれる。
「えっと、あの、サトイモが入った煮物が美味しくて」
『さ、サトイモの煮物っ!?』
何故か驚愕されてしまう。変、だっただろうか。美味しかったのだけど。
「初めてのお料理が、おふくろの味」
「いいじゃないの。かわいいわよ」
「そうね!最初は大変だろうけど、私たちが手伝うわ!」
そうして、氷菓も加わってくれてサトイモの入った煮物を作ることになった。
「そうそう、このお野菜はこうやって剥くのよ」
「こっちはこうやって角をとって」
「あらあら、初めてなのに上手よ~」
みなさんに教えてもらいながら、初めて握る包丁に緊張しながらも何とか下ごしらえを終えれば、コトコトと煮ながら煮物に味が染み込むのを待つ。
調味料での味付けはみなさん目分量のようで、初めての私には神業のようにまで思える。
「慣れれば大丈夫!」
と言ってくださるのだが、私にもできるようになるだろうか。
そうして煮物にしっかりと味が染みれば。
「完成ね~」
美味しそうな匂いを漂わせながら、初料理が完成した。
「あの、お父さんに味見を!」
「あら、そうねぇ」
「娘の手料理はまずお父さんよねぇ」
「鬼灯さまが悔しがりそう~」
ここで作らせてくれたお父さんにまず食べてもらいたいと思ったのだが。でも鬼灯にもこの後食べてもらうから大丈夫だよね。
ちょうど、鬼灯のお屋敷から戻ってきたらしいお父さんを捕まえて、味見をしてもらえば。
「うん、美味しいよ。篝。凜も昔よくこうして作ってくれたよ」
「お母さんも!」
「そうだね」
そう言うと、お父さんがなでなでと頭を撫でてくれる。
「あぁ、そうそう、鬼灯への刷り込みは終わったのだけど」
刷り込み?先ほど言っていた説明のことだろうか。
「鬼灯がめちゃくちゃ首を長くして待っているから、早くご馳走してあげようか。待ちきれずについてきちゃったから、そこの部屋で待ってるよ」
「へっ!?」
そんなに早く食べてもらえるとは思わなくて、ドキドキしてきた。
「だ、大丈夫、かな?」
「うん、もちろんだよ。お父さんが保証する」
「う、うん」
お父さんがそう言ってくれるなら。鬼灯も喜んでくれるかな。
お皿に煮物を盛りつけ、鬼灯が待つ部屋へ向かえば。
「あ、あのっ」
「篝、待っていた」
鬼灯の優しい笑みを見たら、不思議と気持ちが落ち着いた。いつの間にか、鬼灯の側がこんなにも落ち着く場所になっていただなんて気付いて、思わず頬がほころんだ。
そっと鬼灯の傍らに腰をおろし、盛り付けたお皿と箸を差し出せば、ゆっくりと鬼灯が受け取り口に含んでくれる。
「あの、美味しい?」
「あぁ、もちろんだ。最高だな」
「え、えっと、じゃぁ、これからも作ったら、食べてくれる?」
「あぁ、もちろんだ。むしろ食べない理由がない」
「そ、そう?良かった」
「あぁ」
そうして煮物を口に運ぶ鬼灯を眺めながらホッと胸をなでおろしたのだった。




