第2王子の話
「ま、正室と側室の子って言う違いはあるし、あんまり仲は良くない、ーーというかめちゃくちゃ悪いんだけどさ、その節はあのバカ兄がいろいろと済まなかったな」
「い、いえ」
震えが落ち着くと、何故かこのひとは自分と同じなのではないかと少し思ってしまった。それなのにこんなにニコニコとしている。いや、王族に対して不敬な考えだろうか。
「いきなり、すみません」
「いやー、いきなり突撃しちゃった俺も俺だしー。もっと楽に話していいよ」
「そうだぞ、篝」
「ぶっちゃけ、王族でも敬意を示すのが鬼の長の一族です。篝さまはその後継者の婚約者であり、長の姪っ子なのですから」
「血筋上も篝ちゃんも長の一族の一員だしな」
と、鬼灯、氷菓、砂月さんが順番に告げる。
「でも、私は混血で」
お母さんは人間なのだ。
「関係ない。鬼は同族を大事にするから。血が半分であろうと少しであろうと、鬼だ」
「反対に、同族を貶したり、苦しめた輩には容赦しない」
と、鬼灯と砂月さん。
「今回はさ、長も父上にはめっちゃ不機嫌だったそうだけど、俺と妹に免じてあのバカ兄と正妃に罰を下すことでお互い妥協したわけ。本来なら、鬼の長の姪っ子で、未来の義娘を害した行為に王族が加担しただなんてしれたら、最悪咲の国を鬼が見捨てかねない」
そう、第2王子が説明してくれる。
「鬼って、長の一族ごとにまとまっているとはいえ、鬼同士のコミュニティーは人間の国同士よりも強いつながりがあるのよね。だからひとつの鬼の一族が見捨てれば、未来永劫、国が亡ぶまでどこの鬼からも疎外されますね」
と、氷菓。
「だからさ、父上も必死なんだよね。それでもあのバカ兄は王族であるが故に死罪は免れた」
「し、死罪っ」
その言葉に、思わず息を呑む。
「ま、あのバカ兄は自分の身がかわいくて、光子だったっけ?その女が篝ちゃんにやらかしたことを一から100まで吐いたけどさ、あれはそれをその女の横でせせら笑っていたわけ。助けもせずにね」
確かに、あのひとが直接私に手を下したことはない。いつもただ、光子の隣で眺めていただけなのだ。時には笑みすら浮かべながら。
「だからこそ、父上は切れたんだよ。それが王太子の、将来王になるもののやることか。人間のやることかってね。もうあのバカ兄は王太子の位を剥奪されている」
あのひとは、もう王太子ではない。
「ギリギリ、王族としての首の皮は繋がっているけどね。だけど、正妃と別々に離宮に幽閉と言う形で隔離されている。俺が立太子すれば、正式に僻地に送られて生涯永劫蟄居になる予定」
そう、だったんだ。ということは、目の前にいるのは未来の王太子!
「その、ごめんなさっ」
「あ、あー、謝らないで!篝ちゃんはちっとも悪くないから!むしろ、ほかのさんにんからの視線が痛いから!どうか謝らないで!」
「う、あ、はい」
余計に困らせてしまっただろうか。
「篝が困っている」
「一体何しにいらしたのか」
「まぁ、その、スマンが俺もちょっとなーー」
「どっちにしろ俺の扱いがそのままで改善しないのだけど!?んっ、まぁ、そう言うことだ。長としてはもっと厳罰をと言う圧を放っていたのだけどな。近いうちに王族としての位も剥奪される。それをやるなら正妃も一緒にやることになるから、正妃の家への根回しを今やってるとこ。まぁ、正妃も一緒に道連れとすることで、何とか納得してもらったのが現状。篝ちゃんには色々と迷惑かけたけど、悪いようにはならないよ」
「は、はい」
こくんと頷けば、第2王子がひらひらと手を振ってくれる。
「で、何しに来た」
と、鬼灯がぶっきらぼうに問う。
「いや、だから遊びにきたのー!篝ちゃんを見に来たのー!鬼灯が溺愛してるって言うからぁ~っ!」
で、溺愛ってっ!?びっくりして鬼灯を見れば、ぎゅむっとそのまま胸元に抱き寄せられる。
「篝が減る!帰れ!」
「その理論はおかしいだろ―――っ!?あとな、招待状を持って来たのーっ!」
「あ゛?招待状?」
「い、妹がさ。久々にお茶に招待したいってさ。鬼灯と篝ちゃんを」
そう言って第2王子が招待状が入っていると思われる封筒を差し出してくる。どうして、私も?
「まぁ、これは王女と俺の個人的な茶会の誘い。他に出席者はいない。冬宮の術師は護衛として付くがな。ま、これはお詫びも兼ねた茶会ってことでさ」
お詫びーーこのひとたちが悪いわけじゃないのに。それとも、王族として必要なのだろうか。はっきり言って王城とか気が乗らないけれど。
「篝、嫌なら断っていい。鬼の長の一族と言うのは、それを蹴る権力も持ち合わせている」
それが、鬼の長の一族と言うもの。お父さんからもいくつか習ってはいるけれど、時には王族相手にも容赦がないと聞いている。それほどまでに鬼の各国内での影響力は計り知れない。
「で、でも。鬼灯が一緒なら」
それでも、鬼灯や長であるお義父さんには迷惑をかけたくないから。
「―――わかった。まぁ、招待は受けてやる。姫に罪はない」
「はぁ、良かったぁ~。お前ら俺にはこんなに厳しいのに、妹には甘いんだもんなぁ~」
そうなのだろうか。第2王子が脱力したようにへなっと笑む。
「姫さまはかわいらしいですもの」
「なぁ?」
「ちょっと、氷菓さんも砂月も何それ!?俺は!?俺だって冬宮で育ったんだよ―――!?」
「だから父上もお前が立太子することで手を打っただろうが」
「そうだけどぉ~」
第2王子は氷菓に出してもらった豆大福を口に放り込み、すっくと立ちあがる。
「そんじゃ、またな~」
そう言って手をひらひら振りながら去って行った。
「あの」
「篝、あれは気にしなくていい」
「扱いは適当でいいですよ」
「まぁ、昔っから冬宮で顔を合わせてきたから今更何だよなぁ」
何だか、適当と言うよりもむしろかわいがられている類ーーなのだろうか。
王族と言うことで驚いてしまったけれど。
「失礼な態度では、なかった?」
「問題ない。鬼の長の一族とはそう言うものだ。変に人間の王族相手に委縮することなどない」
そう、鬼灯がきっぱりと告げる。まだ慣れないけれど、それが鬼の長の一族。鬼灯の言葉にそれをひしひしと感じてしまった日だった。




