篝と初めてのお買い物
「ここが、街」
今日は杏子ちゃんと氷菓と一緒に、お買い物に来ている。途中まではお屋敷の馬車に送ってもらい、街の入口でおろしてもらったのだが。
今まで見たこともないようなひとの群れ。鬼が多いが、たまに私と同じように角のないひともいる。人間か、私のような混血なのかもしれないけれど。それにたくさんのお店が軒を連ねていて、思わず目移りしてしまいそうだ。
「さ、お姉ちゃん。行こっ!」
「うん」
杏子ちゃんが手を繋いでくれて、一緒に街の中へと繰り出した。
「まずはお財布だよねー。雑貨屋さんに行こうか」
「うん」
杏子ちゃんに連れられてやってきたのは、たくさんの小物が並んだ雑貨屋さんと呼ばれるお店だった。
「お姉ちゃんは四角いお財布よりもがま口財布だと思うんだ」
「あ、それは私も思います」
杏子ちゃんと氷菓のおススメなら、それにしようかな。がま口財布の売り場に行けば、かわいらしい小ぶりなお財布がたくさん並んでいた。生地も鮮やかで色々な模様がある。
「何がいい?」
「う~ん」
いくつか見てみれば。ひとつのがま口財布に目が留まる。
「これが、かわいいと思う」
かわいらしい鬼灯柄に、思わずそれを手に取れば。
「うぐっ、お兄ちゃんの餌付けが進んでいるっ」
「まさかそこまで鬼灯さまの所有欲が浸食しているなんて」
えぇと、餌付け?所有欲?
「に、似合わないかな」
「いえ、とっても似合ってますよ」
「そう言わざるを得ないっ!お兄ちゃんめ~~~っ!」
何故か杏子ちゃんが悔しがっている。
レジで氷菓に教えてもらいながらお金を出し、お釣りをもらう。
「お釣りはお財布に入れておいてくださいね」
「うん!」
初めてのお買い物だったけれど、氷菓のお陰で無事にできた!
「お姉ちゃん、何かお揃いのもの買おうよ」
そう、杏子ちゃんが誘ってくれる。
「氷菓」
氷菓にいいかどうか確認すれば。
「えぇ、もちろんです。是非今回のお買い物の記念に」
「記念」
「そうだよ、お姉ちゃん!お姉ちゃんの初デート!」
「は、初デート?」
「あら、これはまた鬼灯さまが嫉妬しそうですね~」
のほほんと氷菓が微笑む。
何はともあれ、杏子ちゃんとお揃いの髪飾りを選んで購入し、髪につけてもらう。かわいらしい花の髪飾りだ。
「おふたりとも、お似合いですよ」
氷菓に褒められ、杏子ちゃんと一緒に顔を合わせて微笑み合う。
そうしていれば。
「ねぇ、君人間?珍しいね」
「俺たちと一緒に遊ばない?」
何故か私に声を掛けてくる鬼の男のひとたちがいてーー
「ちょっと、お姉ちゃんは私とお買い物を楽しんでいるんだから!」
「何だぁ?このおこちゃま」
「お嬢ちゃんには興味ないから。俺たちはこのお姉さんと」
「お姉さんと、何か?」
その時、男のひとたちの前にずいっと氷菓が身体を乗り出す。
「凍らせられたいということでよろしくて?」
その瞬間、まだ雪の季節には早いはずなのだが、妙に冷たい風が吹いた気がした。
『ひええええぇぇぇっっ!?』
そしてその瞬間、私たちに声を掛けてきた鬼の男のひとたちは一目散に逃げていく。
「あの、氷菓」
「まぁまぁ、気にしないでくださいな。ささ、行きましょう」
「あぁ、うん」
「さすがは氷菓。すごい」
杏子ちゃんが感心するように、やはり氷菓はとても頼りになる。一緒に来てくれて本当によかった。
「そうだ、鬼灯さまにお土産を買われてはいかがでしょう」
「お土産!」
「まぁ、それで少しは機嫌も直るでしょうし」
「さすがは氷菓。そこまで気を回せるなんて。これでお兄ちゃん対策も完璧だね!」
鬼灯対策って、一体??
でも、鬼灯にお土産を買いたいという気持ちもわいてきた。いつももらってばかりだから。
途中和菓子屋さんに立ち寄り、かわいらしい栗の形のお饅頭に目を奪われた。
「鬼灯は、こういうのは好きかな?」
「えぇ、篝さまがお選びになったものなら、きっとお喜びになります」
「あぁ見えて、お兄ちゃん好き嫌いないもんね。なんでも食べるから、何でも」
杏子ちゃんもそう言ってくれるなら。
こうして、鬼灯へのお土産や、お父さんへのお土産も購入し、再び馬車で屋敷に戻ったのだった。
お土産をお父さんに渡せば、とても喜んでもらえて、鬼灯が迎えに来るまでお茶の時間を楽しんだ。
そして時間になり鬼灯が迎えに来れば。
「篝、街は楽しかったか」
「うん」
回廊を歩きながら、今日のお買い物の話題に移る。
「それと」
ちょっと気恥ずかしけれど、そっとお菓子の入った紙袋を掲げる。
「それは?」
「お、お土産。鬼灯に」
「俺に?」
「そ、その、好きじゃなかったら、私が食べるからっ」
「いや、嬉しい。篝がくれるものなら、何でももらう」
そう言って、鬼灯が紙袋を受け取りぽふっと抱きしめてくれる。
「う、うん」
「ありがとう、篝。でも今度は、ふたりで行こうな」
「鬼灯とーー、うん!」
こくんと頷けば、自然と笑みがこぼれる。
「ですがおふたりとも、お夕飯の時間が迫っておりますので、ひとまず回廊でイチャイチャするのはお控えくださいな」
「イチャッ」
氷菓の声が聞こえてハッと息を呑めば。
「別にいいだろう。俺は常にこうしていたい」
と、鬼灯に更にぎゅっと身体を抱き寄せられる。
「ほらほら、まずはお着替えしましょうか」
そう言って、渋々鬼灯が抱擁を緩め、それぞれ着替えを済ませればふたりで夕飯を囲むのであった。




