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龍の娘  作者: 久遠ニイナ
7/10

第一章 龍の牙 柒

蘭と武蔵が木々の間を走り抜けていると、突然それを遮るかのように一本の矢が二人の目の前の土に突き刺さった。


「蘭!」


 武蔵は反射的に蘭の前に躍り出て、刀を抜いた。蘭も身構える。

見知らぬ土地の森の中で、突如襲撃されるのは不利だ。息を殺し、敵の居場所を探ろうと目を走らせる。風が木々を揺らす音以外何も聞こえない。


「気配はあるのに・・・」


 蘭は怪訝に首を傾げる。がさがさ、と大きな物音と共に前方の枯れ草が揺れて敵が現れた。


「あんた達が敵だね!!」

「ぶっ殺す!!」


 しゃしゃり出たのは10歳程の2人組だった。2人とも小さな弓矢を構えている。可愛らしい顔立ちに似合わず、汚らしい恰好をしていた。


「刀をしまいな、兄ちゃん」


リーダー格の女子が声を張り上げた。隣の男子が弓をさらに張る。


「待て。俺らの敵って・・・」

「この子たち・・・?」


蘭と武蔵は顔を見合わせると同時に吹き出した。自分達の顔の高さには到底届かない身長、視線を落とさないと見つけられない。


「何笑ってんだ!」

「あたいらは本気だよ!かんちゃんの為ならなんだってするって決めたんだ!」


 強張った小さな敵を前に刀を持て余した武蔵は、空いている左手で頭を掻いた。

子どもというのは癒しを感じさせるどうもこう・・・・


「かわいいわね」

「ん、かわいい」

「あんたもちょっと前まではこんな感じだったわよ」

「はあっ?何言ってんだ」

「ちょっとお!無視しないでよね!!」


 可愛らしい子どもたちがむっと強がっている様子がおかしくて、蘭は意地悪く笑みを浮かべたまま圧力をかけた。


「あのね、お嬢ちゃん。あたし達が何者か知っててぶっ殺すとか言ってるの?それならただのバカだわ」


 刀を構えていた武蔵の腕を押さえ威嚇を止めるよう指示を出し、蘭が子ども達に近づく。


「悪いけど、あたしは一瞬であんた達の息の根を止めることが出来るの。始末屋だから」


 2人組が蘭の不敵な笑みに恐れを抱いて一歩後ずさりした。子ども好きな武蔵は2人組が哀れに思えて刀を鞘に納め、その場にしゃがみ込む。蘭に任せていたらいつまで経っても心を開いてもらえなさそうだ。


「君らの目的は生贄の子の救出か?」


子どもたちと目線を合わせて優しくと話しかける。警戒されないように、ゆっくりと。


「かんちゃんは生贄なんかじゃない!!大人たちの都合で殺されるんだ!!」

「大体、うちの村には生贄の風習なんてないよ!!」


 先ほどの少年と同じ内容の発言を聞いて、武蔵は頷く。


「そうだよな。じゃあ詳しく話を聞かせて」

「だから、あたいらはあんた達の敵でー」

「敵じゃないかもしれない」

「えっ?」


 武蔵の一言に素っ頓狂な声が上がった。


「たぶん、俺達は君らの敵じゃない」






「れーん!!ただいまー!」


 またたびが空中にポンっ!と現れ、蓮の胸に飛び込んだ。


「おう、戻ったか」


よしよし、と蓮は子猫の頭を撫でて、自分の肩に乗せてやる。一連の流れを初めて目撃したかんすけは目を輝かせた。


「うわあ、かわいい!そしてだあれ?」


わたくしの式神であるまたたびです。まあ、陰陽師の仕事で使役している式神の息子で、まだまだ式神見習いと言ったところですが」


銀の丁寧な説明にふうん、と相槌を打ったかんすけは、握り飯最後の一口を飲み込んだ。


「お兄ちゃんの式神なのに、蓮に懐いてるんだね!」

「・・・・・」


 銀がきょとんと瞬きしたのを見逃さなかった蓮が、ニヤリと目を細めた。


「言われてやんの」

「黙りなさい」

「のうのう、ちょうさけっかほうこくしてもよいかの?」


人間のやり取りに割り込んできたまたたびは、呆れ顔で主人2人を交互に見る。


「おう、わりぃな」

「どうぞ」


「まず、ばけぎつねはおらん。そんなそしきはない。そしていけにえをささげるふうしゅうもない。あと、このわっぱは”かがみのこ”じゃ」


 淡々と報告を終えたまたたびは任務完了!とばかりに蓮の頬に頭をこすりつけた。蓮は眉を潜めて、またたびの言葉を反芻した。かがみのこ・・・・香我美の子・・・・!


「・・・おう・・・やっぱそうか」

「そうでしたか。我が一族の者でしたか」

「なになに?全然わかんないんだけど・・・」


 またたびの説明ではピンと来なかったかんすけが、蓮の顔を見上げる。


「お前うちの一族の人間らしいぞ。よかったな」

「・・・えぇっ・・・!!」


 理解してかんすけがのけ反る。


「ぼくが、あの香我美一族の・・・?」

「ああ、だから蘭はかんすけの事を感知出来なかったんだ。あいつの感知能力は、基本的に香我美と異なる気配を読み取るやつだから」

「では早速この縄を切って、連れて帰りましょう」


 銀が脇差を抜いてかんすけの拘束を解いている間、蓮はあごに手を添えながら考え込んでいた。


「なあ、銀。あのクソ坊主、かんすけが香我美一族の人間だってわかってたんじゃねえかな」

「ほお、鋭いですね。蓮様もそうお思いですか」


 あるじの言葉に感心した銀が満足気に笑みを浮かべる。


「最近この村は飢餓の呪いがかかっているとのお話しでした。坊主達の法力ではどうにもならない、と嘆いておいででしたが―」

「その呪いってやつはたぶん”凍雲”の仕業だな。あいつら、香我美のいる場所片っ端から飢饉の呪術を放ちやがってるし」

「そうですねえ。この話しは農民でも知っておりますし、村に香我美がいると考えるのは自然なこと。そして」


 銀が自由になったかんすけの頭をポンポンとでた。



「どういうわけか不自然すぎる程に私達とかんすけを引き合わせた」


 わざわざ生贄の場所を教え、森の中で香我美の子を引き渡す意味。


「妖刀“龍の牙”が目的か?」


 いや違う。龍の牙が目的なら寺で眠っている時に盗みを試みるはずだ。わざわざ人気

《ひとけ》のないこの森に誘い込んだとしたら。


「これは・・・香我美狩りだ・・・!」


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