スモーク
今日も俺は下。
逆光だから顔見えねぇよな。
そんなことを考えてる間に、先ほどまで頭上にあった透明な液体は、体内に入るなりその冷たさを失い、ほとんど温度を感じなくなった。
同時に耳と脇はほじくれてしまう程あつく、躯体は直ちに捻れ腰が浮く。
声にならない吐息は相手を刺激し、互いの足が離れている時間を短くする。
裏腿に当たって生じる音はやや大げさと感じているようで、それに見合う刺激は流れてこない。それどころかこのエリアは曇ってなければ気持ちが昂ぶらないとさえ思う。
今回は俺の勝ちだ。
奴は俺の腰につよく打ちつけ、榁から退室していった。
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試合終了後の彼とはいつもスモーク越しに目が合う。消化試合の場合は試合中でもこちらを凝視する。この仕掛けに気づいているのだろうか?そろそろこのカラクリも仕掛け直さなければならない。
この榁は、2人ないし多くても3人程度しか入ることができない狭さだ。横板は黒く塗られていて所々燻んだ飛跡がついている。天井に鏡が設置されている榁もある。
建物には30榁用意されているが、すべて埋まることは少ない。それほどまでに需要はないのだろう。
彼がロッカーの鍵を返却しに来た。
いつも通り期間ひと月の招待券を渡す。
奴は無愛想に受け取ると、勢いをつけてドアを開けた。
まだ日が高い時間、強い光と蝉時雨がこちらまで飛び込んできたが、奴の姿が見えなくなると、それらは奪い去られたかのように、俺の周りには再び暗い静寂が戻ってきた。
それから次に奴をみかけたのは、急行待ちの電車の中だった。