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さまざまな短編集

日本に来た潜水艦物語

作者: 仲村千夏

 ドイツの潜水艦は優秀だということは前大戦から世界に知られている事実だ。

 つい先日にそのドイツから無償で最新鋭の潜水艦が二隻送られてきた。

 荷物を運ぶように送られてきたわけではなく。実際に動かして大西洋、インド洋、太平洋と海を渡ってきた。それも戦火が渦巻く海原をだ。

 日本とドイツは世界と戦争をしていた。

 そこでドイツは日本に潜水艦量産のため二隻を無償で提供を申し出る。

 日本としてもこんなおいしい話を見逃すはずはなく二つ返事で了承し出迎えの準備をひそかにしていた。

 そんな中二隻とも無事に日本にたどり着いたことはとても幸運だったに違いない。

 到着した二隻のうち一隻を解体研究に回し、もう一隻は航海テストに使用するということになった。

 ドイツ語であるため慣熟航行という意味でも最も重要だった。

 その栄誉ある艦長に今回、私が選ばれたのだ。


「カミヤマ艦長サン。具合ハイカガデスカ?」

「ギュースト艦長。いい感じです」

「ソレハヨカッタ!」


 流暢な日本語で話しかけてくる白髭の将がこの潜水艦を日本まで運んでくれたカルロスト・シキ・ギュースト艦長。

 御年四五歳で大西洋では輸送船三〇隻以上を沈めている猛者だ。

 中には戦艦も沈めたと言っている。本国でも英雄の一人であるとして鉄十字章が与えられている。

 

「この潜水艦は素晴らしいです。さすがはドイツですな」

「イヤイヤ、コレモイイデスガ。本国デハ最新ノモノガマダアリマス」


 それもそうか。技術大国ドイツにかかればこの潜水艦を優に超す艦をつくれるはずだ。

 しかし、日本には伊号型潜水艦がある。

 性能はドイツの方が優れているが、今まで使って来たものを今すぐに捨てますというも下策だ。

 併用して効果的に敵を叩くことができれば問題はない。

 その研究の第一歩でもある。


「貴国ノ兵タチモ勉強熱心デ、順調デス」

「海軍の中でも潜水艦、ひいてはドイツの潜水艦となると目の色を変えて学ぶ奴らですからな」

「サスガデス」


 ドイツびいきしている奴らばかりが選ばれた今回の潜水艦訓練は予想以上に上達が早い。

 ドイツ語なんて習ったことのない乗員が大半を占めているのだがな。

 私はドイツに潜水艦の勉強で派遣された経験があるから少しはしゃべったりしてわかる。

 それも込みで上からは名指しでこの役が言い渡されたっけ。

 まぁ、いい。ここから洋上航海も数日後には出来るだろう。


「艦長! みんな大体把握できました!」

「よし、出港準備にかかれ! 時間は最初だからかかっても仕方ないから丁寧にな!」

「はい!」


 これで日本の水兵は優秀で勤勉ということをギュースト艦長以下クルーに見せることができた。

 訓練航海後、ドイツクルーは帰国の途につく。

 帰国は日本の伊号潜水艦に乗って逆ルートでドイツへ帰って行った。

 その後はというと。

 実際に送られた潜水艦は二隻とも戦闘に参加することなく東北の港で終戦を迎え、アメリカ軍の手によって海没処分となる。

 カミヤマ艦長とギュースト艦長のその後はというと。

 カミヤマ艦長は伊号潜水艦に乗り込んで太平洋の海で回天や通商破壊作戦に従軍。最後は呉軍港で終戦を迎える。

 ギュースト艦長は無事にドイツに帰国したと同時にキール軍港から新型Uボートに乗り込み大西洋で暴れまわりその名を轟かせたが、最も有名な艦長オットー・クレッチマーの記録は超えられなかった。

 終戦後はドイツに留まり潜水艦士官として海軍に在籍した。そこでクレッチマーの部下になったとも。


 二人が再開したのは終戦後三〇年経ってから。

 お互いに白髪となっていたが、その目は輝きを失ってはいなかった。

 二人はキール港、呉港、そして潜水艦が沈んでいる位置に立ち寄り友情を深めた。

 たった数日の関わりから始まった潜水艦乗りの話。


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― 新着の感想 ―
[一言]  御参加ありがとうございます。  史実でもドイツから日本に送られてきたUボートがありましたから、もしかしたらこんなドラマもあったかもしれませんね。
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