Phase4-2 代役! ガサツな演劇
出店を営業する望団。そこに、演劇部の生徒が駆け込んできた。
「うへぇ……望団の皆さん、急遽代役を頼むことにしました。8人と……あ、もう1人いますね。楽屋までお願いします!」
『はぁ!?』
唐突に、代役を頼まれた。仕方が無いので、団員とミヅカは、演劇部員について行った。
「えー……地域の演劇隊に出演要請をしていましたが、急遽取りやめとなってしまいまして、その枠が9つあるんで、望団の8人と、プラスの1人ということで探してました。もう、私から勝手に決めますんで」
そうして、適当に配役を決めて行った。決められた配役の紙が配られた。これが、その配役だ。
リョウ……主人公・児島イシヅ
サユリ……ヒロイン・坂出
ミヅカ……児島の妹、シオカ
ミユ……坂出の恋敵、宇多津
タクミ……児島の恋敵、妹尾
タツヤ……妹尾の友人、早島
ハヤト……坂出を襲う(性的な意味で)男
ミハヤ……謎の力を持つ占い師
ヒカリ……幸運を呼ぶ少女
(紙には、『岡山と香川の駅名ばっかりだが……気にするな!!』と、書かれている)
「仕組んでいないか……?」
「どうですかね……?」
色々仕組んでいそうな役割だが、どうしようもないので台本を受け取ることにした。
9人は、台本を読み合わせていくが…………
「おい、これ……」
「まさかこれって……」
リョウとサユリが、台本の中にある『児島と坂出が///』……それを見て、震えていた。
「まぁ、任せるよ」
「やるかやらないかはそっち次第だしね」
間もなく劇の時間。果たして、急遽割り当てられた役割をこなすことが出来るのだろうか……?
『11:30より屋外ステージにて、演劇部+αによる演劇会を行います。主役は、演劇部ではなく……あの集団です!』
校内放送で、劇の開始予告が行われた。それは、ステージのある運動場にも、聞こえていた。
「どっかの劇団の代わりに、誰か出るらしいよ?」
「あ、そうそう。望団のコスプレ喫茶が臨時休業って」
「絶対それだ」
一般客も見受けられるようになった観客席。ざわついている所に水を差すような音量でブザーが鳴った。
『ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――』
「「「うるせーよ!」」」
『ゥゥゥゥゥ…………』
一斉に来たクレームによって鳴り止んだブザー。そのブザーを鳴らしていたのは……
「リョウくん……長すぎますよ……30秒はうるさいです」
「……こうゆうのはよく分からないな」
リョウだった。出番が少し後の方なので、こうしてブザーを鳴らしていた。サユリも、その横にいた。
演劇部によって、開始宣言が行われる。
「北附恒例、演劇会を開始しまーす!」
「また迫真の棒演技だろ」「半角カナが沢山飛びそうだな」「録画してるかー?」
どうやら、この演劇はかなり酷いものらしい。
「酷い言われ様だな」
「まぁ……どうしようもない程に棒ですからね。だから、業者に頼んだのでしょう。それが回ってきたのですけどね……」
「やるしかないか」
「ですね」
2人は、ステージの方へと向かっていった。
(これより先は演劇である。よって、役名で通していくこととする。なお、役者が演劇部員の場合は、括弧付けで表記する。また、この劇は章分けされているので、その都度空白で分けていく)
時は、20xx年。この世界では、『強制恋愛法』なる法律によって、人口増加を企んでいた。それを利用した、『望まぬ結婚』が社会問題になっていた――――
「妹尾、坂出狙ってるんだよね?」
「そうだ。早島、お前は誰を狙っている?」
「誰でもいいよ」
「奥手だなぁ。んな事言ってたら、東山政権の粛清を食らうぞ」
「うるさーい」
妹尾とその友人、早島は、そんな話をしながら街を歩いていた。ら……
「シオカ……お前、物買いすぎだぞ」
「いいじゃん~。そんなケチケチなことを言ってたら、坂出さんに嫌われちゃうよ? いくら法律でも、兄妹同士の恋愛は禁止だし」
「黙れ」
「お前、坂出狙ってるな!?!?!?」
「「誰だ!?!?!?」」
……プロローグ終了。ステージの裏に戻り、次のシーンまで待機する。
……裏方で待機するリョウとタクミ。
「何で、俺とお前が恋敵同士にならなければならない?」
「しーらね。でも、会長を少し狙っていたのは事実だなぁ」
「そのつもりで演技をすればいいだろ。その方が、本気に見える」
「サンキューな。ここではライバル同士だ」
……ステージで準備の手伝いをするミヅカとサユリ。
「兄貴のこと……頼みます」
「そうですね。少し後に、アレが待ち構えてますし」
「あそこに私が居たかった……」
「いや、ダメですからね!?」
「ちぇー」
数分後、劇が再開した。
坂出。彼女は、街の有名人である。何をしているかというと、よく迷子と優しく接しているのだという。
そんな彼女を巡って、児島と妹尾が争うのだ。
「あの子は俺のものだ」
妹尾は、腕を組んでそう言い張る。
「ふーん……お前如きが付き合えるわけがない」
鼻で笑い、妹尾を馬鹿にする児島。
「あぁ!?」
「んだと?」
まるで、ヤクザ映画のような睨み合いをする2人。それを止めに入ったのは、黙って聞いていたシオカと、早島だった。
「はいはいストップストップ」
「みっともないぞー」
「「チッ……」」
児島と妹尾は、舌打ちをして別れていった。シオカと早島は、それぞれついて行くべき者についていった。
あまりにも早いが、これで第1部終了。ちなみに、この劇は4部構成である。
「兄貴……これで私の出番はおしまいなの!?」
「タクミ!? さすがにこれで終わりっていうことは……」
「「ああそうだ。こんなにガサツな劇なんてやりたくないけどな」」
ミヅカとタツヤの出番は、あれで終わってしまったらしい。
第2部。
坂出は、迷子になった子供(部員)を交番に連れていった。その帰り。
「坂出ェ! 少し児島をチラチラ見てたでしょ!?」
ヤンキーみたいに呼び出したのは、ある意味坂出の恋敵の、宇多津。
「もう勘弁してくださいよ……」
「勘弁だぁ!? 児島と結ばれるのは私よ!」
「そんなに言うのでしたら……あの占い師に聞いてみましょうか」
胡散臭い見た目のテントの中に、2人は入っていった。
「「ごめんくださーい……!?」」
そこには、謎の魔法陣を書いていた占い師
「よくぞ入ってきた……おお、この魔法陣が導く運命は……坂出とやらと、児島とやらがくっつくだそうな。どちらかが死ぬまでな。……んで、要件は何じゃ?」
「「もういいよ!」」
「あァ!? ……(あ、素が出ちゃった……)……そうか。気をつけてな」
(素を出していたが)占い師は、2人を見送っていた。
「もういいよ! 私の負け! もう嫌だ~」
何故か泣きながら走る宇多津(演者の本音が出ていそうだが)。それを見送った坂出。と、ある少女が近付く。
「わたしは、"はっぴーがーる"。おねぇちゃんのねがいを、なんでもかなえてあげる」
「本当かな~? じゃぁ……『あるべき運命』を叶えてください!」
「はーい! ちゃららららら……ちゃん! はい、かなえた! じゅっぷんからいちじかんごにおとずれるよ! ごっどぶれすゆー!」
「ありがと~」
その少女は、走ってどこかへと行ってしまった。
「今日は……児島くんの家に行って……思いを……キャッ!?」
緑のマントに身を隠した何者かに襲われる坂出。マントの中に引きずり込まれた坂出。
「ぐへへへへ…………」
「んっ……やめて……下さい……」
緑マントは、あんなことやこんなことを……
(本 気 で や ら な い で よ ね ぇ ?)
(ごめんなさい……)
マントのゴタゴタが収まり、坂出が走って逃げていく。それを追う緑マント。驚く周辺住民(部員)。
まもなく結末。果たして……?
ステージ裏で、サユリがハヤトに説教をしていた。
「普通、あんな所で本気で胸を揉み下す人がいるわけないじゃないですか……。ズボンまで下ろしてましたし……」
「リアリティを追求しすぎました。本当にすみません。柔らかかっt」
「ハヤトくんは変態ですっ!」
「ぐはぁ!」
綺麗な音のビンタが、ハヤトに襲いかかった。
ミユ達は、ミヅカと話をしていた。
「私も出番が終わっちゃった」
「本当に雑な展開だね……」
「これじゃあ、ある意味恒例行事になるのも納得するよ」
「んで、あの結末」
『ガサツだぁ……』
3部。
「助けてー!?!?!?」
(迫真の演技で)助けを求める坂出。
「まてぇ……」
何かしらの化け物みたいな声で、坂出を追いかけ回す、緑マント。
そこに、走ってこちらへと向かってくる姿が。
「おらぁッ!!」
「うがァっ!?!?」
華麗な飛び蹴りを、緑マントに浴びせたのは、児島だった。
「大丈夫か?」
「はい」
そして、感動のフィナーレへ。
『なんじゃこりゃー!?!?!?!?!?』
観客も、裏にいた出演者も、一斉にツッコミを入れた。
「脚本は誰だよ!?」
「ガッバガバじゃねーか!」
「洒落じゃなく『内容がないよう』だぞ!」
大ブーイングと、笑いの嵐。丁度通りがかったアヤカも、その光景を嘲笑しながら見ていた。
(馬鹿馬鹿しいわね。こんな茶番をするくらいなら、少しは学級に貢献すればいい話なのにね)
ハヤトは、ステージ裏で脇腹を抱えながら座り込んでいた。
「本気で飛び蹴りするな……いてててて…………」
「すまない。つい、本気でやってしまった」
「もういいや。もうすぐ、アレだな」
「ガチでしなければならないのか?」
「だぞ」
何かを決めたかのように、リョウがステージに上がって行った。
ついに最終章。とは言えども、こんな
やることはただ一つだ。
「児島くん……一緒にいたいです」
「口が……寂しがっている」
「じゃあ、埋めましょうか……」
顔をギリギリまで近付ける2人。
(マジでやるのか?)
(見せつけましょう。私たちの愛を……演技でもない、本当のキスを……!)
しっかりと抱き合い、児島と坂出は口付けをした…………
「え、ちょっと!? 台本通りじゃないよ!?『ディープキス』だなんて書いてないよ!?」
……2人は、舌を絡めあっていた。抱き締め合い、マイクは、唾液の音を生々しく拾っている。
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?』
「まさか、校内新聞のあれって事実なのか!?」
「うおぉ……すっごくエッチな音だ……」
カスミは、これを見ていたのだが……
(ここまでするとは……。完全に、私の負けみたいだね……。私のものにはならない…………っぽい)
何かを諦めたような顔で、その場から立ち去った。
2人は、2分以上キスし続けている。そして、サユリがリョウを押し倒す形で、ステージの上で重なる。
「一緒になりたい……」
「……分かっt」
「ストーーーップ!」
と、ここで演劇部員や、望団員(+ミヅカ)がステージの上に駆け上がってきた。
「色々ヤバいよ!? ある意味公然わいせつだし、"利用規約違反"になるし……」
メタい話が出たが、とにかく、2人を引き離す。
「どいてください! ここで、私から話があります!」
どかそうとする者を払い除けて、ステージ上でサユリはこう言った。
「この通り! 私と西原リョウくんは! 熱い熱い愛のもとに! 交際しています! 文句ありますか!?」
『え……いや……無いです』
「それだけでした! 望団のコスプレ喫茶は、14時に再開します! 来てくださいね! 以上!!」
声を上げ過ぎて、息切れするサユリ。そんなサユリの背中を軽く叩くリョウ。
「よく言った。この宣言は、俺にはできない。お前は、俺を遥かに上回る精神力があると思うぞ。今までで気付いていなかっただけであって」
「そうみたいですね。もう……恐れるものは何もないですっ!」
2人は強く互いの手を握り締め、ステージ中央の階段から堂々と退場した。拍手で見送られながら。
次の話で、Twitterで言っていた"衝撃展開"となります。
投稿は、7月14日(日曜日)です。
平和に文化祭が終わると思うなよ