Phase4-1 開幕! 文化祭
「毎年恒例"北附スクールワンダーフェスタ"! 始まるぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
『うぇぇぇええええええええええええいッッッ!!!!!』
運動場に設けられた、巨大なステージ。その上で、おかしいテンションで開幕宣言をする校長。それに、熱狂的なテンションで盛り上げる生徒勢(一部、耳を塞ぐ生徒もいるが)。そして、蜘蛛の子を散らすように生徒が校舎に駆け込んでいく……。
こうして、北附の文化祭が始まった。
対策拠点室。ここの出店が噂になっているのか、生徒が殺到していた。
「リョウの魔法少女姿が……!?」
「めっちゃヤバいやん?!」
「絶対に可愛いけ! マジで!」
「開店しまーす!」
午前9時30分。メイド姿のミユの宣言によって、出店が開店した。
『来たァァァァ!』
礼儀正しく整列し、無礼に出店に入っていく生徒勢。
「何食べる?」
「ここはオムライスだろ! ド定番の!」
「「Go! RisingStreet!」」
2人の男子生徒が、店員を呼び出した。普段は変身する時の掛け声も、ここでは注文の合図として扱われることになっている。
厨房では、待機していた魔法少女姿のリョウと、バニーガール姿のミヅカが話し合っていた。
「うわっ……オーダー入りやがった……」
「いってらっしゃーい」
ミヅカは、リョウを厨房から押し出した。
「うげっ……」
『うおっ!?!?!?』
出てきた瞬間、店内にいた者の視線が、全てリョウに集中してきた。
(キャラ崩壊するが…………今、生きるためにはこれしかない…………どうにでもなれ)
リョウは覚悟を決め、喉仏を少し動かして…………
「はーい☆ 今向かいまーすっ!」
普段のリョウからは想像できない様な、高い声、明るい雰囲気、表情(子供っぽい見た目は、普段通り)。
魔法少女リョウ、再誕。
「ブフォッ!」
「え、ええええ!?」
「なんだ今のは!? 何がなんなんだ!?」
厨房にいた、調理係の男子勢3人(リョウも、一応男子だぞ)が、衝撃を受ける。
「リョウ!? 何!? 今の!?!?」
「ちょ……ありゃ強烈だ……」
「負けたぁ……」
「兄貴……1番楽しんでるじゃん…………」
強烈すぎるインパクトとギャップに、接客勢の女子4人(リョウの見た目は、限りなく♀に近い)が、混乱する。なお、サユリは開幕宣言のアシスタントをしていたので、まだ来ていない。
『おぉぉぉぉぉ!!』
キャラ崩壊したリョウの姿に、謎の盛り上がりを見せる客。
こんな状況を作りだしたリョウは……
(こっそり練習していてよかった……。キャラ崩壊してるが、今日だけの話だ)
スキップしながら、注文した男子2名の元へ。
「ごちゅーもんは、どうするのかな?」
「「ォムラァイスッ! ふたァつ!」」
「りょーかい☆ オムライスふたーつ! ピカピカルンルン♪」
完全に別人のテンションになっているリョウ。やっぱり、1番楽しんでいるのだろうか。
……厨房に戻ってきたリョウ。椅子に座り、仰け反る。
「何だこれ……」
「もうさ……全部兄貴1人でいいんじゃない?」
「何を言っている。お前達もやるんだぞ」
『Go! RisingStreet!』
「はーい☆ 待っててねー! …………結構呼ばれてるな。総動員だ」
5人が1斉に、注文を取りに行った。
「"ピリッと辛いフレアカレー"、待っててね!」
「"母なる海のアクアパッツァ"、暫しお待ちください」
「"闇に染まるバベルタワー"、待たないと殴るから」
「"輝く幸福のパンケーキ"、運んできまーす!」
「"納涼革命・アイスエイジスパーキング"、持ってくるから待っててね!」
その注文を受け取った調理係の3人は、慣れていないようで慣れたような手付きで料理する。
「うわぁ……なんで高校生がアクアパッツァを作らないけんのかよ……」
「ちょ、"バベルタワー"って何!?」
「ブルーベリー味のモンブランらしいぞ」
「「なんてもの作らせてくるんだ!?」」
グチグチ言いながら、仕方なく料理する3人。そこに、リョウがやってきた。
「ほら、早くしろよ。せっかく俺が教えたんだ。お手本通りの速さでやれよ?」
『出来るか!!』
3人が、苦言を呈した。なお、"お手本通りの速さ"は、オムライスであれば、3分で作り上げなければならない。
――――料理が完成し、5人がそれぞれの席に持っていくが……
「なんて目で見てるの!? くたばれ!」
ミハヤの怒号と共に、強烈な勢いのビンタが男子を襲う。3人分。
『ありがとうございまーす!』
「きっしょ……せっかく作ったんだから、さっさと食べて消えてよね?」
『はーい!』
この日の対策拠点室は、一言で言って、滅茶苦茶。3つ並べるなら、カオスで目が回りそうで普段のキャラとの寒暖差で風邪をひきそうで……やはり、滅茶苦茶だ。
開幕宣言のアシスタントをしていたサユリが戻ってきた。
「どうですか? 売れてますか?」
「あ、会長。まぁ、大体リョウのおかげで売れてるっぽいですね。こっちは面倒ですが」
「そうですか。では、私もお着替えしましょうか……」
更衣室(と言うのは、あまりにも簡易的すぎるが)の中に入り、サユリが着替える。
「どんな姿なんだろうな」
「期待してる?」
「まぁ…………うおっ!?!?」
「えっっっっっっっっ……」
「でっけぇ…………」
そのサイズは、全く合っていない。胸は大きくはみ出ており、脚は太腿がほとんど丸見えで、パンツも風が吹けばすぐに見える程に……。
とにかく"エロい"ナース服姿のサユリが、更衣室から出てきた。
「サイズ調整間違えていませんか……? かなり破廉恥な格好ですけど、問題なさそうですか?」
腕で胸を寄せ、下からのぞき込むような視線で、3人の調理係に質問する。
「大丈夫ですっ!」
「みんな喜びますよ!」
「最高ですっ! 今夜のオカz……ぐわっ!?」
「悪い子にはお仕置きが必要ですね……」
調子に乗ったことを言ったハヤトに、サユリが持っていた巨大な注射器が、制服のズボンを貫通して、"穴の中"に突っ込まれた。
「んぐぅ……」
稲妻のように走る痛み。ハヤトの足は、生まれたての子鹿のように震えている。
「「うわーお……」」
この凄まじい光景を、タクミとタツヤが苦笑いしながら観察していた。
「んがぁっ」
ハヤトから、注射器が離れていった。そのまま、ハヤトは失神してしまった。
「全く……この注射器は後でしっかりと洗っておきましょうか…… ね ぇ ?」
「「!?!?」」
サユリが、満面の笑みを浮かべながら、2人を見た。
「嘘!? ヤバくない!?」
「ひっさしぶりの大目玉だな」
「すっげぇスクープだ」
校内では、新聞部が校内新聞を配っていた。その内容は……
『超速報! 生徒会長兼望団団長・上村サユリと、望団団員・西原リョウが、夕日の差し込む食堂で、熱烈キッス!?!?!?』
告白した時にしたキスの写真も、そのまま載せられていた。
(サユリ……裏切り者には、公開処刑が相応しいよね……。もう、演劇部には予約を入れてるし…………)
新聞を配りながら、カスミは下衆な笑みを浮かべていた。