Phase3-3.5(Nogata Side) 絶望! 追い詰められた3人
2匹のムカデは、鹿児島本線上を、それぞれ別方向に進む。
リョウを中心としたグループは、博多方面に向かうムカデを追っていた。ムカデの速度は非常に速く、なかなか追いつくことが出来ない。
「速すぎるよぉ!!」
「なんだあれ……特急超えてるぞ。てか、もうキツいぞ」
「もっと頑張れよ」
ハヤトに掴まるリョウとミユ。移動は、ハヤトに任せっきりだ。
数分経ち、3人は黒崎駅に到達した。黒崎は、北九州の副都心である。利用者も結構多い。そんな駅に、巨大ムカデは、隣の建物と駅舎に挟まって動けなくなっていた。
「今の内に、どうにかしよっか」
「じゃあ、細かく……」
「馬鹿か。ムカデの生命力は異常だ。元々異常なのに、ここまで大きいムカデの生命力は想像つくだろ。原型を留めないほどに潰さないと駄目だ」
「エグいけど、仕方ないね」
3人が、総攻撃を開始した。後部から、ハヤトが脚を断ち切り、その後に、ミユが胴部を一つ一つ、水圧で潰していく。それをリョウが焼却処分する。そうする内に、体長300m近くあったムカデは、200m程になっていた。
「とにかく、地道にやれば絶対に勝てるぞ」
「作業だぁ……」
「時間がかかるが……仕方ないか」
ぶつぶつ言いながら、一つ一つ処理していく3人。しかし…………
「ッ!? 急に動きが……!? まずい!!」
突然暴れる巨大ムカデ。その動きで、駅舎を破壊してしまった。ムカデは、そのまま逃げていく。
「嘘だぁ!? 待って!!」
「掴まれ! 急いで追いかけるから!」
リョウとミヅカは、ハヤトに掴まって、再び追跡を開始する。
折尾駅付近。ムカデが、ここから博多方面に行くか、直方方面に行くかだが…………
「左に行っている……まさか、直方に……!」
ムカデは、直方方面へと向かう。直方。そこに住んでいるのは…………
「サユリが住んでいるな。結構まずいことになったぞ」
「ちょ、早くしないと!」
「俺みたいに故郷を失わせはしない! 急ぐからな!」
ハヤトが、速度を上げていく。追われるムカデは、周囲の木々を蹴散らしながら、直方へと移動する。
「待て、害虫野郎ォ!」
「ちょ、速すぎるよ! 落ちちゃう!」
「我慢しろ! 今落たら、ダメージで変身解除してしまうぞ!」
線路上を、架線等を破壊しながら暴走するムカデ。それを、騒々しく追いかける3人。
「もうすぐだ! 覚悟しろ!!」
「よっしゃ行けぇぇぇぇ!」
「待て! 動きが変だ!!」
ムカデが、急にスピードを落とした。それから方向を変え、リョウ達に突っ込んできた。
「うおぉ!?」
「え!?」
「退けッ!!!!!」
その動きに適応できなかったミユとハヤト。その2人を押し飛ばして、リョウが身代わりとなり、ムカデの突進を正面から受け、500m程飛ばされた。ムカデは足を止めて、苦しむリョウを物色している。
「リョウから離れてよ!!」
「この野郎!!」
ミユとハヤトが攻撃を仕掛けるが、ムカデは体をムチのようにしならせて、2人を打ち飛ばし、払い除けた。雑木林の中に飛ばされた2人も、動けずにいた。
(嘘だ……このまま変身解除しても…………俺はこいつの餌となって終わるのか…………?)
怪我はないが、その衝撃で動けなくなったリョウ。手も、足も、首さえも動かない。
(また、こんな構図か……。俺って、よく死にかけるよな……。油断しすぎなのか……?)
またも、全てを諦めかけているリョウ。目は既に死んでいる。体を動かす気力も失った。考えることも辞めた。それ姿はまるで、生きているだけの屍であった。
(…………もうダメか)
ムカデが、リョウを捕食しようとした時。
夕日の光を反射する、銀色の何かが前を横切った…………いや、"銀色の誰か"が、リョウの前に立った。そして、ムカデを斧で払い除けた。
「まさか…………」
既視感のあるその姿。それは正しく……
「遅れてしまって…………ごめんなさい」
鋼のデバイスを両腕に着け、敬語を使う女。優しい声音で、時々威圧をかける女。
――――そう、上村サユリだった。