Phase3-2 激白! サユリの過去
サユリは、トイレで蹲り、嘔吐していた。
(あの人のことは……思い出したくないのに……辛いです…………)
そこに、心配して来たミユが声をかけた。
「大丈夫……?」
「大丈夫…………ですよ………………」
トイレの戸を開けて出てくる、青ざめた表情のサユリ。
「どこが大丈夫なの!?」
「はは……大丈夫……です」
壁を伝いながら、サユリが部屋に戻っていく。そのまま、サユリは話を始めた。
「あれから、もう5年ですね…………」
「5年前に何が……?」
床に座り込んだサユリ、ミユも横に座り、話を聞く。
5年前の中学2年でした私は、福岡市内に住んでいました。
そんな当時の私には、とある秘密がありました。
それは、付き合っては別れてを繰り返していたことです。
そうなった理由は簡単で、付き合った人は全員、自分中心の人でした。だから、付き合っては別れてを繰り返していたのです。
『敬語』の話がありましたが、それはここから来ています。男の人が怖くなっていったのが始まりです。
自分中心ですから、何をするにも命令口調。それに怯えて、私は本能的に、敬語を使うようになっていきました。
恋愛の価値観も、どんどん狂っていきました。
「付き合わなければいけない」。その時の学級は、3人に1人は誰かと付き合っている程でした。それに乗り遅れないようにと、私は焦って、ネットで交際相手を募りました。
でも、それは良くないです。ただただ、行為をしたいがために来る人ばっかりでしたし。
行為に付き合っていく度に、少しずつ自分が壊れていく感じがしてきました。
ある日、付き合った1人からこう言われました。
「親戚に、お前のこと言うわ」
それ以降、男の人が怖くなって、男の人とは普通に会話が出来なくなりました。
それについては、今は改善されました。ただ、問題はそこではなく……
「サユリ、男咥えてるでしょ」
…………カスミに、このことがバレてしまいました。
そして、取引を持ち込まれました。
「広められたくないのなら、毎月5000円ぐらい私に貢いでね」
広められたくないのなら、お金を出せと。親友だったのに、そう言われました。
仕方が無いので、毎月のお小遣いを全て、彼女に貢ぎました。
でも、その要求はどんどんエスカレートしていきました。
「7000円ね」
…………どうしようもないので、絶交すると言いました。
夏休みの間、彼女とは一切の会話をしませんでした。
ただ、その秘密はどんどん広まっていきました。
夏休みが明けて、学校に来ると……
『クソビッチ』だとか、色々言われました。
先生にも相談しましたが、『お前が悪い』と。
…………あまりにも酷い有様でしたので、福岡市から直方市へと引っ越すことにしました。
直方に来て以降は、そういうことは無く、普通の中学生として生活することが出来ました
ですが、気付けば全員に対して敬語を使うようになっていました。それが、今でも続いています。
北附に入学してきましたが、そこに居たのは、カスミでした。
目を合わせた瞬間、高校生活に対する希望が、全て絶望に変わりました。
入学式の日、2人で話し合いました。
「また会ったね」
「久し……ぶり」
「じゃ、取引開始」
予想通り、取引が始まってしまいました。
内容は、"プライベートで男性と接触しない"、"私(=カスミ)を親友として迎え入れること"、"生徒会長になること"です。
生徒会長だなんて、引っ越してから敬語を使うような私がするものではありません。ですが、仕方なく生徒会長になることにしました。
親友の件は、仕方が無いので昔のように接することにしました。
男性の件は、とにかく男子と接することを拒否していくことで、成立させていきました。
そんな経緯があって、今があります。男性の件は、"プライベートでは禁止"でしたので、望団の活動では、問題なく接することが出来ました。一見、普通の高校生活を送っているように見えますが、まぁ……そんなことがあって、怯えて暮らしてます。
「リョウくんの件がカスミにバレて、大丈夫かなと思ってますが、ここは親友として…………」
「馬鹿じゃないの!?!?」
「ふぇ?!」
これまでの話を全て聞いて、さらにサユリによる"親友"発言に、ミユが怒りを露にした。
「バカバカしいね。ふざけてる。明日、カスミを対策拠点室に呼び出して、聞き込みを行うから」
「そんなこと……」
「サユリの概念は狂ってる。それを正すことも含めて、やるから」
2人が部屋に戻ってきたが、そこには、床に寝そべって、いびきをかいているミヅカが。
「呑気に寝やがって……」
「まぁまぁ、お疲れなのでしょうから……」
翌日の放課後。学校にサユリは来ていない。
ミユは、カスミを対策拠点室に呼び出した。リョウを含め、ミユ以外の団員はいない。ミユが帰らせたからだ。
「話って何?」
とぼけたような顔で、カスミが話の内容を聞く。
「とぼけないで。自覚しているでしょ?」
「私は先輩なのにね。どんな口で――――」
「あなたみたいなあばずれ女を、先輩と言えるわけないでしょ!?」
「なっ!?」
カスミの発言を一蹴し、ミユが今思っていることを投げつけた。
「…………サユリから、私のことを聞いたみたいね」
「正解。で、反省するつもりは?」
「無いよ。そんなもの」
その瞬間、ミユが、カスミの腹部を静かに殴った。
「ここまでひどいのは久しぶりだよ。まるで、リョウの父親みたい」
腹部を抑えて唸るカスミを見下すように、ミユがそう言った。
「何を言っても無駄みたいだから、ここでおしまい。今後も、サユリちゃんに対する行為がエスカレートするのなら、"退学勧告"を出すから。特権でね。あ、鍵はあなたが返しておいてね」
「待って…………」
対策拠点室には、捨てられた様に、カスミが横たわっていた。