Phase3-1 不在! 生徒会長
サユリの家にリョウ達が行ってから日が経ち、月曜日。
文化祭まで、残り1週間。普段は、『左側』が文化祭を行う1週間後に行うのだが、今年は『あっちに抗ってやる』という生徒会の意向により、『左側』と同日開催となった。
その放課後。雨が降り、湿気の多い夕方。
「すっげぇ量のダンボールだな」
「これを使って、対策拠点室を彩ると。面白そうだね」
目の前に積まれた大量のダンボールに、タクミとタツヤが呟いた。
「ヒカリ……こんな量の綿……どう運ぶ?」
「台車とか借りないとね」
目の前にある、巨大な綿の塊をどう運ぶかを、ミハヤとサユリが考えていた。
「リョウ、持ってきたか」
「わざわざ一旦帰ってから、持ってきたんだ。ジュース奢れよ?」
コスプレ衣装が詰め込まれた紙袋を持ったリョウと、ハヤトが談笑(リョウは笑っていないが)していた。
「承諾得られたねー!」
「よく『メリーゴーランド』で通ったね」
「それもこれも、全て私の権力……」
「せこくない?」
「まぁね」
権力で企画(偽)を通らせたミユとミヅカ。2人は、対策拠点室に戻って行っていた。
アヤカは、そんな2人を見て、こう思っていた。
(望団……楽…………いや、馴れ合いだわ、あんなもの)
一瞬、『入団』の二文字が脳裏に浮かんできたが、すぐに否定した。
――――そんな『日常』に足りない人物がいる。
絵に描いたようなおっとり系のキャラで、気付けばリョウと付き合っていた生徒会長兼、望団団長。
上村サユリ。その姿がない。
「何故、サユリは来なくなった……?」
リョウが、その理由をミユに聞いた。
「――――リョウのせいだよ。多分」
「何故そう言える……?」
そう言った瞬間、ミユが激怒した。
「まーだ自覚がないの!? 誰にでも言えないことなんていっぱいあるでしょ!? それを無理矢理吐き出せって言われても苦しいだけだし、ましてや『敬語を使う理由を言え』って……。そう考えると、本当に……リョウって性格が捻くれてるよね」
リョウは捻くれている。ミユはそう言った。
「それが、学校に来なくなる理由になるのか?」
「なるでしょ。サユリちゃんは、自分のことを言われることが嫌いなの。例え、それが賛美であろうとも」
「何故そうなった?」
「そんなの、私が知っているわけないでしょ」
「知りに行くか?」
「私とミヅカで行くよ。リョウが行っても、展開は同じだから」
流れで、ミユとミヅカが再び直方へと向かうことに。
ミユが、サユリの自宅のインターホンを押す。
「ごめんくださーい」
すると、サユリがドアを開けて出てきた。
「あ、こんにちは……」
サユリの部屋の中。
「サユリちゃん、リョウのことはどう思う?」
ミユがタメ口で質問しているが、これはサユリとの仲が良いからである。
「しつこいな、とは思います」
「何で、別れようとはしないの?」
「リョウくんは、しつこいのですが……それ以上に、心の中にある優しさというかなんというか……」
そう言った瞬間、ミヅカが口を挟んできた。
「本当に、兄……兄貴のことが好きなんですか?」
「はい」
「……なぜ、『心の中にある優しさ』が分かるのですか?」
「簡単なことですよ。リョウくんは――――」
その理由を、リョウの正体や過去などを交えて話した。
「知っているのですね。兄貴の過去も、私たちの過去も、何から何まで」
「はい。あと、ミヅカさんとの会話からそう思ったとは言っていますが、過去などを交えては……話してません」
「…………兄貴に、あの時の話をするのは少し気を付けた方がいいかもしれません。特に、父親の話なんかは……」
「雰囲気が重いよ? 少し軽くしていこうよ」
部屋の中が、雨によって湿気た空気のように重たい雰囲気を醸し出しているので、ミユが話題を急転換させた。
「カスミさんとの話でもしましょうよ」
ミユが話題の内容を口に出した瞬間に、サユリが腹と口を抑えて、部屋を出た。
「え、ちょっと!?」
「まさか……地雷……!?」
その察しは正解だった。
サユリは、トイレに向かい、その場で嘔吐した。
(何を言い出すと思ったら……あの人の話を……。思わず吐いてしまいましたね……どう言いましょう……)
リョウは、自宅でニュースを見ていた。内容は、『東山政権再開』だ。
『脳震盪で倒れてから7年の月日が経ちましたが、ついに東山首相の政権が戻ってきます!!』
ニュースに映るのは、東京の大通りで大々的にパレードを行う総理大臣。
その名前は、東山カズヒロ。巨大な山車の上に立ち、沿道にいる国民に手を振る。その国民は、親指を下向きに立てている。中指を立てる者もいる。
そんな映像を見たリョウは、こう思っていた。
(また、クソ野郎の独裁政権が始まるのか。今の総理の西岡は粛清コースだな)
夕飯の肉じゃがを作っていたリョウは、菜箸を握りつぶす程に苛立っていた。