Phase2-3 突撃! 上村邸
振り向いたカスミに、ミユが質問する。
「会長とは……どういう関係ですか?」
カスミが、それに答える。
「親友だね。小学校時代からの」
「へぇ……それで――」
「世間話をしている場合ではない。サユリはどこにいる?」
ミユを遮る形で、リョウが質問した。
「帰るって言ってた。多分、あなたのせいだね。色々しつこく言ったっぽいし。見ていたし」
「見てた……か。帰ると言っていたんだな?」
「うん。って、まさか、追いかけるって言うの?」
「普通だろ。行くぞ」
「兄貴!? 普通じゃないよ!?」
「あんた、それじゃあストーカーでしょ!?」
カスミが止めようとしたが、リョウはせかせかと歩いて、ギャラリーを後にした。それについて行くミユ達。
「私、先輩だよ!?」
「黙れ。お前はその辺りで、大人しく写真でも撮ってろ。親友がなんだか知らないが」
「えぇ!?」
振り向いた下級生から、上から(物理的に言うなら、下から)目線で、そう言われたカスミ。ただ指をくわえて見ているしか無かった。
リョウ達について行くハヤトら5人。
「俺達が行く必要はあるのか……?」
「流石に……僕達も加わると多すぎるね」
「そうだね。少し自重した方がいい気がする」
ハヤト達5人は、リョウについて行かないことにした。
福岡県直方市の中心駅で、筑豊地区の交通の要衝である、直方駅。よくある田舎の街の様な場所の中に、その駅がある。そこに到着したリョウ、ミユ、ミヅカ。
「幾ら何でも、まずくない?」
心配そうに、リョウについて行くミユ達。
「これは俺の問題だ。お前達は口出しするなよ」
「でも兄貴、家も知らないのに……」
「仕方ないから、私が印をつけた地図を渡した」
「うっそだぁ……」
ミユは、サユリの家を知っているらしく、その場所を記した地図をリョウに渡していた。
「日ノ出橋……そこを渡ればいいのか」
日ノ出橋。一級河川である遠賀川に架かる大きめの橋だ。そこを渡り、住宅地へ。そして……
「ここか。普通の家屋だな」
黒い壁に白い屋根。少し大きな庭。表札には、『上村』の文字。……サユリの家に着いた。
「待っている暇はない。すぐに行くぞ」
「「え!?」」
到着直後に、インターホンを鳴らすリョウ。と、2階の窓からサユリが顔を出した。
「あ、開いているので、上がってきてもいいですよ」
「ならば、上がる……」
「「おっじゃましまーす!」」
ミユとミヅカが、嬉しそうに家の中へと入っていった。
「おいおい……」
リョウも、サユリの家の中に入っていった。
「会長~~! 兄貴をよろしくお願いしますぅ~~!」
「なんで泣いているんですか!?!?」
ミヅカが、べそをかきながら、サユリに抱きついた。
「まぁ、それはそうと、話があってきた。昼食の時、なぜ俺との関係を言わなかった?」
「それは……言いたくない……です」
「それは何故だ?」
「え……」
質問攻めするリョウに、ミユが口を挟む。
「ちょっと、言い過ぎじゃない?」
「あ……悪い癖だな」
自分の癖に反省するリョウ。改めて、質問する。
「少し言葉を変えて……何故、関係が明らかになるのを避けようとする?」
それの回答を、サユリが言った。
「…………生徒会長らしくないのと、受験生なのに恋愛しているなんて思われたくないのと、色々言われることが嫌なのと……」
「それだけか?」
「え……?」
「本当にそれだけか?」
「は……い」
「そうだとするならば、お前は愚かだ」
「「うわぁ!?」」
先輩に向かって、『愚か』という言葉を、そのままぶつけるリョウ。ミユとミヅカが固まる。
「隠し事というのは、『バレたら身に危険が及ぶ』か、『バレたらあったものを失う』程の理由が無いと、する物では無い。『プライド』とか『立場』で選ぶ物では無い。それらを聞く限り、命に関わるわけでもなければ、地位を失うなんて物でもなさそうだな」
「……すみません」
サユリが謝った直後に、ミユが怒鳴った。
「あーもう! もっと単純に話し合えないの!? こんなの、ただの『謝らせる作業』だよ!?」
「…………」
そう言われたリョウは、少々不服そうな顔立ちになった。気を取り直して話の続きを始める。ミユとミヅカは、黙ってそれを聞く。
「ともかくだ。事を言うことは、別に恐れるものでもない」
「そう……ですね。少しクラスの友達に言ってみます」
「そうか。……やはり気掛かりなのだが、何故俺達に敬語を使う? 不安だけでは収まらないがする……」
次の議題は、サユリの敬語についてだ。『不安だから』という理由で敬語を使っていると、昼休みに説明していたが、リョウは、理由はそれだけではないと思っていた。
「それは…………誰かに……聞かれていそう……だから言えない……です」
「何を言っている?」
「以前、何者かに盗聴器を仕掛けられたことがあって……そう思うように……」
「馬鹿らしい理由だな。ならば、外で……」
「今日は……帰ってください」
「は?」
「帰ってください……!」
「何を言って――――」
「帰れって言っているんですよ! しつこいのは大嫌いです!! 勘弁してください!!!」
普段からは想像できない程に、声を荒げて、帰れと言うサユリ。
「ふざけ――――」
「お邪魔しました!!」
「兄貴、ここは撤収だよ……!」
ミユとミヅカに抱えられて、半ば強制的に家から出ていった。
2人に引き摺られながら、リョウはこう思っていた。
(結局、癖が出た……。どうして……いつもいつも……俺は執拗いんだ……)
「何でだよ!? どうしていつも俺はこうなるんだ!? 糞が!!!!!」
直方の住宅地に、リョウの叫びがこだました。
「言いすぎてしまいました……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………」
サユリはベランダに出て、柵に掴まり、雨に打たれながら、リョウに謝罪し続けていた。
――――家の前にはもう、リョウ達はいない。サユリの声も、雨音に打ち消されていた。