Phase1-3 活劇! 新デザイン
時刻は、まもなく午後7時半。対策拠点室に、リョウが戻って来た。
「で……俺がコスプレをすることは決定事項なんだよな?」
「嫌でしたら別に大丈夫ですけど……」
「いや、もういい。俺がやらないといけない気がしてきた」
リョウは潔く諦め、コスプレをすることを容認した。
「こんな所で、今日はおしまいにしましょうか――――」
今日の活動を終了させようとしたその時。
例のサイレンが街中に響き渡る。
『非日常警報。非日常警報。小倉北区で非日常事案発生。現在、この地域に向けて移動中。八幡東区の警戒レベルは3です。至急、頑丈な建物の地下へ――――』
「北区か。早く手を着けないと北九州の経済が死ぬな」
小倉北区。そこは、北九州市の中心部だ。
「とにかく、急がないと!」
全員がデバイスを準備したが……
「待て。全員が向かって、全員がやられたら誰が戦う?」
「言われてみれば……そうですよね」
「タコの時の話もある。3人で向かった方がいい」
「分かりました。ここは、ミユさん、ミハヤさん、ヒカリさんの3人に任せてみましょうか」
全員がやられることを危惧したため、3人だけで現場へ向かうことになった。3人がそれぞれのデバイスのボタンを押す。
「任された!」
「3人で行くか」
「頑張ろー!」
『Go! RisingStreet!』
例の掛け声と共に、デバイスのレバーを倒して変身する3人。
「ミユ、なんかカッコイイよ!?」
「ミハヤだって、見事に決まってるよ?」
「流石ミハヤちゃん! なんでも似合うね! 水着以外!」
「うるさいっ」
女子会のような会話をしている3人に、リョウが通信で……
『早く行け! 急げ! 何をしている!?』
「「「急ぎまーす!」」」
声を荒げて、早く向かうように言った。ヒカリと、それに掴まったミユと、ミハヤが高速で移動する。
「はやーい!」
「車をどんどん抜かしていくよ!?」
「何か速度メーターがあるね……うおっ!?」
デバイスのバイザーのは、あらゆる情報が流れてくる。耐久力や気温、湿度などが載ってあり、その中に、速度メーターもある。その数値は……
「300km/h!?」
「「300ぅ!?」」
その数値は、山陽新幹線の最高速度と全く同じだった。気付けば、小倉駅より数百m西にある、西小倉駅前に到着していた。そこで、3人が目にしたのは……
「うわ、キモすぎでしょ……」
「怖いよぉ……ミハヤちゃん……」
非常に巨大なムカデがいた。駅の北にある、工場地帯を破壊し尽くしていく。あまりの図に、ミハヤとヒカリが怯えている。が。
「怯えちゃだめ! ここで怯んだら、北九州の経済が狂っちゃうよ!?」
そう言って、ミユが腰を叩き、武器である、2丁の銃を取り出した。システム変更後は、腰を叩くことによって、武器が出てくるようになっている。
「あーもう嫌だァ……」
ミハヤが、嫌がりながらも、杖を出す。そのデザインも、ミハヤの注文によって、『より魔法使いみたいな』見た目となった。
「じゃあ、私も!」
ヒカリが腰を叩き、弓を出す。従来のものよりも、少し大きめとなっている。
「さて、このムカデをどうしよっか」
ミユが、作戦を練っていると、通信が入った。
『聞こえるか? 聞こえていることを前提にして話す。俺のところに入っているデータから分析したが、八幡東区へと向かうパターンと、若戸大橋を伝って若松へと向かうパターンの2つがある可能性が出て来た』
「それで?」
『先にそこで倒してしまえば問題は無いが、もしもそれが難しい場合は、“戸畑駅付近からどう行くか“を通達した上で、連絡して――――』
「長ーい! 簡潔にまとめて!!」
リョウの、あまりにも長々しい指示に、ミユが痺れを切らした。
「わかり易く! 早く! 指示の鉄則でしょ!? 多分だけど」
リョウが若干固まり、少し経ってリョウからの指示が送られた。
『まぁ、何を言いたいのかというと、そこでムカデを倒して欲しいのと、それが難しいのであれば、報告して欲しいという事だ。これで文句は無いな?』
「おっけーです! まぁ、倒してしまえばいいんでしょ!?」
『そういう事だ』
「よーし! 3人で協力技で倒していくよー!」
「「らじゃー!」」
一方で、対策拠点室では……
「リョウくん、あの3人、楽しそうですね」
「何か勘違いをしている気がするが……まぁ、倒せるのならば、それでいいのだろうな」
この部屋には、リョウが作っていた巨大な機械があるが、それにはモニターが付いている。そこには、3人の体力ゲージと、位置情報、ムカデの推定体力などが載っている。
「現在地は、西小倉駅より西へ1km、西港付近だな」
西港。そこは、西小倉駅から西へ1kmぐらい進んだ所にある。〇ウン〇〇ンなどがある。
「お前ら、このまま進むと、戸畑に入る。そこに行くと、住宅地への被害は免れないぞ」
『わかってるよ! あ、ヒカリがムカデの脚を三脚貫いた』
「よし。その調子で動けなくさせろ」
『らじゃー!』
ミユ達は、小倉北区の隣の戸畑区に入るギリギリの所で、ムカデと交戦中。
ムカデがミユ達の方へと突っ込んで来るが、来た瞬間にヒカリが脚を矢で吹き飛ばす。
ムカデがヒカリの方へと向かう時に、ミハヤが闇魔法でムカデの脚を数脚消す。
その際に、ミユが胴体にダメージを与えていく。
「そろそろ行けそうだね。誰が必殺技を放つ?」
「ヒカリに任せるよ」
「任された! ここで輝く!」
ヒカリが、レバーを動かした。
弓を構える。その弓は、思わず目を瞑る程に光り、それ以上に眩しい光を放つ矢が生成されていく。
「ライトニングストレート!」
ヒカリによって放たれた矢は、光の速さでムカデに直撃した。その衝撃で、ムカデが爆散し、その残骸が建物のガラスや駐車場の車に当たっていく。
「結構めちゃくちゃになったけど……これでおしまいだね」
そうして、3人が変身を解除した。
『ムカデの生体反応が消えたことを確認したこれで終わりだ。今日はここで各自解散とする。時間も時間だしな』
「わかった。また明日ね、リョウ」
3人は、西小倉駅方面へと歩いて帰って行った。
対策拠点室。既に解散しており、残っているのはリョウとサユリだけ。
「リョウくん……少しお話があります。食堂は、一応21時まで空いているので、そこでお願いします」
「分かった」
2人で、鍵を返すついでに食堂へ。リョウにとっては、今日だけでもこれで2回目だ。
「綺麗ですね。星空も、街の光も。あ、全力のタメ口でも問題なしです」
「そうか。…………アヤカに見せたら、この夜景も汚く見えるのだろうか」
見上げるは、八幡の夜空。見下ろすは、八幡の街の光。少しだけノスタルジックな雰囲気が、食堂を包む。今ここにいるのは、リョウとサユリの2人だけ。
2人きりの会話が始まった。
「アヤカさんって、そんなに八幡が嫌いなのですか?」
「八幡どころか、北九州も、福岡も、いや、この人間世界も……だな」
「そうですか……何故でしょうか」
「人間が嫌いだからだろうな。昔からあいつはそうだった」
「そう言えば、同じ孤児院でしたね。どうしてあまり仲がよろしくないのでしょうか?」
「あまりにも子供臭いから言いたくない」
リョウがそう言った瞬間、サユリが微笑んだ。
「うふふ。そうですか。いつか仲良くなれるはずですよ」
「そうだといいな。で、話とは何だ?」
「そういえば、そういうことでここに来たんでしたね。話というのは……」
「何だ?」
サユリは、一旦深呼吸をして、思いっきり息を吸い上げて、全力で叫んだ。
「私と付き合ってください!!!!!」