Phase1-1 計画! 模擬店
お待たせ致しました。Act3開幕です!
5月29日。望団の今日の活動は、帰ってきた中間テストの結果を見せ合うことから始まった。
リョウのテストの結果を見て、ミユが苦笑する。
「リョウ……やっぱり国語と英語が……」
「……勉強自体に興味が湧かない。だから勉強も……」
「ふざけんなあああああ!?」
リョウの発言に、ハヤトが激昂した。ハヤトは、例の事件の後、望団に入りたいと言い、そのまま入団している。
「いやいや、興味無いとか勉強してないとか言っていて!? 何で数学IもAも100点満点なんだよ!? 俺とか欠点ギリギリだぞ!?」
そう言って、ハヤトが2つのテストを見せる。数学Iは42点、Aが45点。ちなみに、欠点は共に40点。
「そう怒るな。俺だってそれ以外はギリギリだった。まぁ……」
「とにかく……リョウくんとハヤトくんには追加で勉強が必要ですね……」
「「はぁ……」」
机に伏せる形で崩れていく2人を、他の団員が苦笑いしながら見ていた。ちなみに、他の団員は……
「流石タツヤくん……タクミくんが言っていた通り、ほぼ満点ですね……字を綺麗に書く練習が必要かもしれませんけど。読めずに減点になった箇所が見受けられますし」
「気を付けておきます」
タツヤを筆頭に、皆が結構高い点数をマークしていた。
「まぁ、そんな嫌らしい話は置いておいて、この時期がやって来ました……」
『この時期……?』
1年生の団員が息を呑ませる(リョウ除く)。そして、サユリが机を叩いて、勢いよく立ち上がってこう言った。
「文化祭ですっ!!!!!」
普段は、あまり大きな声を出さないサユリだが、今回は何故かテンションが違う。リョウが、その疑問をぶつける。
「何故そんなにノリノリで……」
「楽しいじゃないですか! しかも、生徒会長であるのはこの私……! つまり、思いっきり楽しめという事ですよね!?」
「………………」
あまりの気迫に、リョウが黙り込んでしまった。
「で、何故それをここで?」
タクミが、サユリに質問する。
「今回の文化祭では、クラス対抗の模擬店での売上競争をメインとしていますが、部活動生の方でも、対抗で売上競争を行っていきます。勿論、望団も例外ではありませんよ?」
「よし……そうと決まれば、店のネタを決めるぞぉぉぉぉぉ!!」
『おー!!』
リョウ以外の団員がこの流れに乗った。一方で、リョウは……
(どういう流れだ……土曜日にしなくてもいいから休ませて欲しいものなのにな……)
机に伏せたまま、こんなことを考えていた。と、ミユがいきなり肩を組んできた。
「まーまー、そんなにむっつりしないでよ。楽しんじゃおうよ? 年1のイベントだし」
「面倒だ……で、どうするつもりだ?」
リョウは、嫌がりながらも話に参加することにした。
どうするか。サユリの回答は……
「何かしらの喫茶店で考えてみましょう。望団には、リョウくんがいますし……」
「俺が接客をするのは確定事項……か?」
「もちろんです」
「うわぁ……」
リョウは、何かを察したような顔立ちになった。
サユリは、直方方面へと、真っ白な電車に乗って帰宅していた。座席に座っているサユリは、とあるノートを取り出した。
(今日から、文化祭の計画が本格始動しますね……。しっかりしていかないと)
『望団ノート』。そのノートに、今日行ったこと、話し合ったことを書き記していった。
直方駅から歩いて7分ほどした場所に、サユリの家がある。
帰宅したサユリは、家族と食事をし、風呂に入り、今日の復習をする。模範的な高校生の生活習慣だ。それを終えて、電車内で書き記したものとは違う、別のノートを取り出した。
「さーて……模擬店の許可をするかどうかですね……」
『文化祭ノート』。それに、文化祭についてのあれこれが書き記されているが、サユリは、その中の『模擬店依頼』というページを開いていた。
「きっと、案が変わるでしょうけど……まずは、化学部の『化学カフェ』からいきますか。……あら、調味料を全て化学反応で…………流石に危ないので却下ですね。次に物理部の『フィジックスコロニー』……ピ〇ゴ〇装置などで楽しませていくようですね。これは認めましょうか。そして……」
サユリは、1時間近く模擬店の善し悪しを決めていた。気付けば、23時になっていた。
「あら、いつの間に……。しっかり寝ておかないとですね……今日はこのくらいにしておきましょうか」
そのままベッドに向かい、照明を落として就寝した。
その頃、リョウは……
「まさか……またこれを着ることになろうとはな」
「兄貴、やっぱり似合ってるよ?」
「最悪だ……」
以前、ハヤトに着させられた魔法少女のコスプレを着させられていた。ミヅカに。
「話し合いの場に居なかったけど……私も参加したいなー」
「参加するということは、望団に入ることになる。お前だけには……戦って欲しくない。だから、望団に入ることは認めたくない」
「えぇー……ま、多分認める日が来るんじゃないかな? 多分だけど」
「そんな日が来ないようにするのが……今の俺の役目だ」
リョウがコスプレから寝巻きに着替え、2人は就寝した。
翌日の7時半に招集をかけられた望団。リョウに付いていくように、ミヅカもいる。
「少し早いのですが、今日は皆さんに任務を与えてみます」
「おお、それは何ですか?」
タクミが、ノリノリで聞く。ミユも、食い気味で話を聞こうとする。
「まぁ、簡単なことです。出来るだけ多くの模擬店の情報を収集してきて欲しいのです」
「え? その辺の情報は掌握しているんじゃないのですか?」
ヒカリが、疑問を提示する。それに、ミユが回答する。
「まぁ、模擬店は当日にならないと何をするかが分からないからね。事前に提出した内容と全く違うパターンが半数以上だし」
「なるほど、真実を話しているところを盗み聞きしろということですか!」
「正解です! ……では、ネタ探し開始です!」
『いぇーい!』
リョウ以外がノリに乗っている。リョウは、かなり混乱している。
(どういうことだ!? そんなに興奮するものでもないだろ!? 何なんだこれは……)
北附の校舎は、地上4階の建物が3つ連なる『教室棟』と、体育館とグラウンドが3つ(用途別)、何故か床が回る食堂や、図書室などが存在する『多目的棟』、学校なのに存在し、職員室も存在する『駐車場棟』が敷地内にある。敷地内では、そこら中に生徒や職員が歩き回ったりしている。さらには、隠れる場所も多い為、盗み聞きが容易に出来る。
ミユとミヅカが、教室棟Aを巡回している。1年の教室が主に存在し、音楽室や美術室もここにある。
「吹奏楽部が会話しているところを狙ってみようか」
「よーし。『北原特権』で保健室から入手した聴診器を使おう……」
「特権? 何それ?」
「まぁ……そのまんまだね。ある意味脅しかな」
「「wwwwwwwwww」」
聴診器を持って、大きな声で笑う2人を、周りの生徒は引いた目で見ていた。
教室棟B。タクミとタツヤが巡回中……なのだが。
「普通に歩き回っても何も得られない。換気ダクトから聞くぞ」
「ぇえ!?」
何故か鍵が空いていた機械室から、天井にある換気ダクトに入り込む2人。アクション映画さながらの匍匐前進をして、2-4の教室『の上』へ。
「黙って聞いとけよ……」
「そりゃ黙ってるよ。見つかったら、いろいろまずいから……」
耳をすませて、そこのクラスの会話を聞く。
「結局、出すやつは何にするんだよ」
「書類上はクレープ屋にしておけ。だが、実際は……」
「メイド喫茶だろ?」
「バカっ! 廊下に声が漏れたらバレるだろ!?」
「漏れるわけないだろ。ここの防音は最強と言われてるからな。うるさい先生の怒鳴り声さえも跳ね返す程だし」
「天井の裏に先生がいる訳でもないしな」
(ざーんねんでした……天井に俺達がいるんだよなぁ……。あー、面白すぎるw)
「えぇ……」
タクミが、不気味な笑みを浮かべていた。タツヤは、そんなタクミに引いている。
多目的棟。ここでは、ミハヤとヒカリが巡回中。
「朝に食堂に行く人が少し多いみたいね。そこがチャンスかな?」
「行ってみようか」
床が回転する食堂に入る。まるで、百貨店のそ〇うの最上階の開店レストランのような食堂である。
「うっわぁ……すごい景色……」
「何もかもがお見通しだぁ……」
そこから見える景色に見とれていた2人。……本来の任務を忘れていた。
グラウンドや体育館を巡回中のハヤト。
「しんどいかと思ったが……運良く、練習中の部活が少ないな。…………意味無いんじゃないか?」
部活中の部員に事を聞く訳には行かず、盗み聞きできるようなタイミングも無い。ハヤトは、ただただ朝の学校を散歩している様な状況に陥っていた。
駐車場棟を巡回するサユリ。サユリは、何故かリョウを引連れている。
「ここを巡回する意味はあるのか……?」
「あるかもしれませんよ? 思いがけないことからチャンスはやって来るのですから」
生徒が来るはずもない駐車場を歩き回る2人。気付けば、屋上階に出ていた。そこで、2人は丘の風を感じていた。
「心地よい風が吹いていますね」
「……そうだな」
「そう言えば、リョウくんに相談があるのですが……」
「何だ……どうでもいいことはやめて欲しいが……」
相談することを、サユリが口に出した。
「もしも……」
「もしも……何だ」
「私が……」
「どうなるんだ」
「死んでしまったら……」
「!?」
「………望団はどうなりますか?」




