表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/55

Phase3-3 脱行橋

――――スズカの首が、ハヤトの前に転がる。


「スズカ……どうして……」


その妹の表情は、変わらない。


「スズカぁ……何か言ってくれよ……」


その妹は、何も答えない。


「スズカぁっ……」


抱き締めた妹の頭は、何を言っても反応しない。


「最後はハヤトだぁー! 台に上げろー!」


力が抜けたハヤトを、2人の市民がギロチン台に引き連れていく。


(もう全てを失った……。家族が殺されて……故郷に捨てられて……もう生きる理由が無いかもな…………)


ハヤトが生きることを諦めていたその時。


「どけええええええ!」


市民を掻き分けるように、リョウがギロチン台の方へと向かった。


「ハヤト! 死にに行くのはまだ早いぞ! 俺にとって、お前は……」

「俺は……?」


リョウにとってのハヤト。それは……


「初めての『友達』……だ! 俺はお前に救われた身だ! だから、今度は俺がお前を救う! だから……生きろ!!」

「っ!?」




ハヤトの脳内には、スズカとの会話の記憶が映し出されていた。


「兄ちゃん? 約束だけど……何があっても、普段通りでいてね? もう、あの時みたいにくよくよする兄ちゃんは見たくないから」

「そうか……。何があっても……か。」




何があっても。その言葉を思い出したハヤトは、死んだ目から光を取り戻した。


(スズカ……お前からそう言われたし、リョウからも生きろって言われたし、俺は家族の分まで……お前の分まで……!!)


ハヤトは、自分自身を引きずっていた2人の男を蹴り上げた。


「ぐはぁッ!?」「貴様ァ……!」

「黙れェ!!」


自分を拘束していた2人の男を殴り飛ばし、ハヤトはリョウの元へと駆け抜けていった。


「へぇ……。あなたの口から『友達』という単語が出てくるとは思わなかったわね。面白いことに……」


リョウの口から飛び出てきた言葉と、それが引き起こした結果に、アヤカが少しばかり感心していた。




リョウ達は、全力で市民から逃げていく。


「どこまで走るんだ……もうそろそろキツイぞ」


リョウの手を繋ぎ、無理矢理自分の足を動かすハヤト。死にかけた筋肉や関節が、悲鳴をあげている。


「おんぶだ。乗れ」


リョウは、ほぼ動けなくなったハヤトを乗せて走り続ける。子供が大人を背負っている様な図であるが、リョウは未だに元気だ。


「あなたがそんな事をするとはね。別人でしょ」


アヤカは、自分が知っているリョウとは全く違うリョウを見て、困惑している。彼女にも、まだ疲れは無い。


「とりあえず、小波瀬西工大前に行く。そこから電車に乗って逃げる」


小波瀬西工大前駅。そこは、行橋の次の駅。その駅がある苅田に逃げ込み、そこから逃げる作戦だ。


「分かったわ。そこまで、大きな道を通らないようにしないといけないわね」


苅田に入ったとしても、国道10号線といった大きな道路は、行橋方面から来る車が非常に多い。暴徒化した市民が追って来やすいため、非常に危険だ。


「リョウ……頼む……もう行橋は……俺が居るべき場所じゃない……。というか、居られない…………」


疲労などが重なり、ハヤトが寝込んでしまった。


「俺の上で寝るな……。まあいい。生き延びてやる」


苅田に入り、田畑が左右に広がる道を走っていく。


「先が……長く見えるわね」


長い直線の道。住宅地が向こうに見えてくる。大した距離ではないが、直線道路だからか、道のりが長々しく感じられる。




一方、その頃。西原宅では……


ミヅカは、何となくニュースを見た。一応、リョウが行橋に行っていることは知っている。


『行橋駅付近の上空から見た映像です。市民が、望団のメンバーと思われる3人を追っています。――――』


そのニュースの内容は、暴徒化した行橋市民が、望団を襲撃しているというものであった。


その映像の中で、市民に追われているのは、リョウ、ハヤト、アヤカである。アヤカは望団員ではないが。


「兄貴……大丈夫かな……」


その映像を見る度に、ミヅカの心配が加速していく。と、ここで電話が鳴った。


「もしもし? ……会長! 兄貴達を……兄を……助けてください……」


電話の主は、サユリだった。




電話の向こう側では……


(この状況……一体何が起きているかが分かりませんが……今はミヅカさんを落ち着かせるのが先決ですね)


混乱したミヅカを、どうさせればいいのか悩んでいたサユリが、ミヅカを落ち着かせるという選択をした。


「ミヅカさん、ここは一旦落ち着きましょう。あのリョウくんのことです。絶対に生きて帰ってきますよ。絶対に」

『そう……ですよね! 兄k……兄のことですからっ! 絶対に死んだりしませんもん!』


兄は死なない。ミヅカは、その確信を再確認した。


「良かったです。リョウくんには……あ、携帯を持っていませんでしたね」


未だに、リョウは携帯を持っていない。


『あー……いつも買うように言っているんですけどね……。ここは北原家の方に頼み込んでおきます。では、私は玄関で兄を待っておきますっ!』


そうして、サユリとミヅカの通話が終了した。


(一先ず、ミヅカさんの不安を払拭できたところで……文化祭の書類でもまとめておきましょうか)


ソファーにくつろいでいたサユリは、自分の部屋へと向かい、文化祭の書類をまとめ始めたのであった。




小波瀬西工大前。どうにか、リョウ達は駅構内へと入場することが出来た。次の電車は15分後。


「行橋から電車が来るから……あいつらが乗っていないか心配だ」


リョウは、不安を口から漏らした。漏れた不安を聞き付けた駅長が、3人を呼ぶ。


「ちょっとこっちに来てくれんか」


言われるがままに、3人が駅員室へと入り込む。


「君たち、ニュースになっていた子だね? 今はバレたらまずかろう。そこでだ。預かり期限が切れた忘れ物の服が何故か大量にあってな。だから、好きな物を選んで変装していってくれ。ちなみに、欲しければ全てやるわい」


ということで、3人が変装する。


リョウは、パーカーを主体とした服装にし、ハヤトはカジュアル系。アヤカは、クールな感じで着こなしている。リョウはパーカーのフードとマスクで顔を隠し、ハヤトは帽子を深く被り、アヤカは長い髪を結び、メガネをかけた。


「さぁ、これで逃げていけ。生きてけよ?」

「…………ありがとう」


リョウが感謝の言葉を呟き、3人が3番のりばへと向かう。


「あなたが感謝の言葉を伝えるとはね……。今日のあなたは、少し可笑しい様な感じがするわ」

「――そうなのか」

「――そうよ」


3人は、謎の雰囲気の中で電車を待っていた。


――電車が来た。座れない程度に人が乗っている。


――電車が動き出す。ふと改札を見てみると、駅員らが手を振って見送っていた。


「リョウ……俺は事実上、住まいを失った。この先はどうすればいい?」


――事実上、住まいを失った。行橋という故郷から迫害され、住むべき場所に住めなくなってしまったハヤト。そんなハヤトに、リョウがこう言った。


「なら……今日は俺の所に泊まれ。安全は保証する。お前の住んでいるマンションよりも、セキュリティは頑丈だ」

「なっ……!? いいのか……?」

「ああ」



「――――ありがとう」



ハヤトの目からは、涙が若干溢れていた。そして、彼は嬉しそうに口角を上げる。


(私が知っているリョウが……少しずつ壊れて行っている……。良い事なのだろうけどね……)


アヤカは、やはり不思議そうに2人を見ていた。


――――そんな3人を乗せて、電車は門司へと向かう。リョウの自宅がある最寄り駅へと。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ