Phase3-2 再・協力戦
「あいつが怯んでいる間に攻撃し続ける」
怯んだカマキリに対し、リョウとハヤトが集中攻撃を開始した。
「面倒だし、ここで必殺技をかますか」
「……潰す」「荒らす!」
2人がレバーを動かす。リョウは、エネルギーを溜め続ける。ハヤトは、風を起こしていく。
だがしかし。
「なっ!? 飛んだ!?」
カマキリがまさかの飛行をした。
「おい!? 必殺技はキャンセルできるのか!?」
「落ち着け。レバーを元に戻せばいいだけだ」
レバーを元に戻し、カマキリを追う。進行方向は小倉方面。
「俺の奴では時間がかかるし、うるさい。お前に掴まっていく」
「まじか。それで、もっとスピード出せと」
「ああ」
リョウがハヤトに掴まり、ハヤトが速度を上げて、カマキリを追っていく。
一方、アヤカは下曽根駅付近にいた。
(非日常事案があったらしいけど……行橋方面のようね。ハヤトが交戦しているであろう……え?)
アヤカの目線の先には、巨大なカマキリが飛来しており、その後ろからハヤトと、それに掴まって移動するリョウの姿があった。見てみると、かなりシュールな光景である。
「仕方ないみたいね。ここで行くしか……」
アヤカが、持っていたデバイスを装着し、ボタンを押す。装甲は生成されておらず、数字がアヤカの周りを飛び交っている。
「そういえば、なにか掛け声が決まったらしいわね。まぁ、私には関係ない話だけど」
そして、レバーを倒す。しかし、アヤカの場合はここから先が長い。数字が全て0になり、そこから次第に1になっていく。1の部分から装甲が形成されていく。
「これは本当に……時間がかかるわね。サンドイッチを丸ごと食べるぐらい時間がかかる。後で文句でも言っておこうかしら」
レバーを倒してから1分半後に、ようやく変身が完了した。
下曽根から上って一駅、安部山公園前付近。
「くたばれぇぇぇぇぇ!!」
ハヤトは、リョウが掴まっている状態で、カマキリに突っ込んだ。カマキリは、転倒して動けない。
「ここから、どんどん殺っていくぞ!」
「分かった」
2人は、動けなくなったカマキリを攻撃し続けた。
「「今度こそ……」」
「潰す……!」「荒らすッ!!」
レバーを動かす。必殺技を再び……
「ダメだ! 起きやがった!」
「それでも行くぞ! もたついている暇は無い!」
再び起き上がったカマキリ。2人は、レバーを戻さず、必殺技を放つことにした。
「突っ込むのは危険だ。それを考えて攻撃しろよ?」
「分かった。アレを吹っ飛ばすから、お前が撃ち殺してくれ」
ハヤトが、風を呼び起こす。その風で、木々が吹き飛ばされていく。
「あまり被害は出すなよ……」
「あれくらいは仕方ない。コラテラル・ダメージってやつだ」
呼び起こした風は、カマキリを吹き飛ばす。
「それで、俺が撃ち落とす……か」
エネルギーを溜め、その全てをカマキリにぶつけていく。
「これで終わりだ」
その攻撃を受けたカマキリは、そのまま海に落下した。
「生体反応が消えた。これでおしまいだ」
デバイスには、生体反応捜索機能がある。普段はそれを使い、『非日常』が終わったかどうかを確認している。
「そいつがあるなら確実だな」
「まあな……あれは誰だ?」
誰かが近付いて来ている。その誰かの声が聞こえてきた。
「あれとは、物みたいな言い方をしてくるわね。とりあえず、私の出番は無しということでいいかしら?」
接近してきていたのは、変身済みのアヤカだった。
「お前か。もう戦闘は終わった」
「そう。私はここで……まだ『非日常』は終わらないようね」
「え、まじかよ」
地鳴りとともに、凄まじい土埃が舞い上がる。今度は、巨大なカブトガニだ。南方500m先にいる。
「曽根干潟から来たのか……?」
曽根干潟は、日本有数のカブトガニの生息地。そこから来たという事しか思い浮かばない。
「ここは……仕方が無いから、お前にも協力してもらう。アヤカ、いいな?」
「あなたと戦うのは全く持って不本意だけど……まあいいわ。協力する」
「おい、俺を置いて話を進めるな。まあいいけど」
ハヤトは、アヤカとの面識は無い。それでも、協力することにした。
「行くぞ……!」
3人が、カブトガニがいる方へと移動する。
「こっちに来るみたいね。電気で縛っておくわ」
アヤカが、デバイスで電気属性を選択し、電流でカブトガニを拘束する。
「動けないなら、ここで必殺技だ。言っていなかったが、1度の使用で必殺技が使えるのは3回だ」
「つまり、これがラストか。2人で行くぞ」
レバーを動かした。風に乗り、2人がカブトガニに突っ込む。
「おりゃああああああ!」
ハヤトが、高速でカブトガニの甲を破壊する。その切れ目に向けて、リョウが銃弾を撃ち込む。
「これで終わりだ……。くたばれ。面倒臭い事させやがって」
銃弾を撃ち込まれたカブトガニは、そこから膨張し、爆散した。
「うっわ……残酷な画だ……」
「もう少し、マシなやり方があったでしょ……」
周囲一帯には、爆散したカブトガニの肉とか甲とかが散らばっていた。
「そういうやり方だから仕方が無いだろ」
3人は、行橋に戻って来た。ここで変身を解除する。
「行橋の人間は、俺たちをどう迎えるのだろうな」
「怖い事言わないでくれよ。故郷から締め出された感じがするかもしれないだろ」
「そろそろ行橋に着くようね。というか、何故あなたたちはそう恐れているのかしら」
行橋の人間は、リョウとハヤトの戦闘中に野次を飛ばしていた。だから、2人は何を言われるのかと恐れていた。特に、ハヤトは。
行橋駅付近に到着した。そこで待ち受けていたのは……。
「ふざけるな! 人殺し!」「何が行橋隊だ! カマキリを放置してんじゃねーよ!」「出ていけ! 消え失せろ!」
石や枝などを投げつけて来る市民だった。
「酷い有様ね。一体何をしたらこうなるの?」
「知るか。カマキリに気付かないで、少し遅れて手をつけた結果がこれだ」
リョウとアヤカが会話をしていた。その横で、ハヤトは……
「これは……どうすればいいんだ……」
跪き、頭を抱えていた。
――――時間が経つに連れ、次第に市民が暴徒化する。とある市民が、メガホン片手に手を振りながら駆け込んできた。
「おーい! 西空ハヤトの家族を連れて来たぞー!」
「「「!?」」」
その市民の発言に、リョウ達が驚愕する。その発言通り……
「ハヤト! これ、どういうことだ!?」
「一体何をしたの!?」
「父さん!? 母さん!? 何が……ッ!?!?!?」
ハヤトの両親が、巨大な十字架に貼り付けられていた。さらに……
「ぉ兄ちゃん……助けて……」
「スズカ……!? おい! 俺の家族に何をするつもりだ!?」
急いで作ったのか、雑な仕上がりのギロチン台には、体を固定されたスズカがいた。
「何故そんなものがある!?」
「ある物は有効活用だぁぁぁ!」
『西空一家に裁きを! 西空一家に裁きを! 西空一家に裁きを! ――――』
そう言いながら、暴徒化した市民がハヤトの両親に包丁などを投げつけていく。包丁は、両親に次々と刺さっていく。
「ざまぁないね!」「ゴミクズの親はヘドロ野郎だ!」「恨むなら息子を恨め!」
「嘘だ……全部……全部……うっ?!」
あまりの惨状に、ハヤトが嘔吐した。そんなハヤトに、リョウが肩に手を添えた。
「止めさせたいが……デバイスは使用済みだ。突っ込んでも、返り討ちに遭うだけだ」
「そんな……」
ハヤトは、血塗られた十字架を見た。包丁まみれの両親だったものがそこにはあった。父親の右足はちぎれ落ち、母親の頭と体は、脊髄だけで繋がっていた。
「何をしている! 止めろ!」
警察が暴徒化した市民を沈静化させようとするが、装甲車を走り回らせる市民もいるため、まともに動けない。
「さーいごにー! 妹の、西空スズカの断罪を始めまーす!」
『おおおおおおおおおおおお!!!!!』
有名人がライブでも始めたかのような盛り上がりを見せる駅前。狂った市民が、スズカの処刑を祝っていた。
「止めろぉぉぉぉぉ!!!」
「待て! 近付くと危険だ!!」
「特攻に意味は無いわ! 戻りなさい!!」
ハヤトが、市民の方へと走って向かった。リョウとアヤカが止めようとしたが、振り返ることも無く、ハヤトは走り続けた。
「あいつ、どんどん近づいているぞ! いいタイミングだ!」
「お兄ちゃん! 私のことはどうでもいいから逃げて! お兄ちゃんが死んだら、行橋隊はどうなるの!?」
「お前が死んだら、俺はどうなるんだよ!!!」
ハヤトがギロチン台の目の前に辿り着いたその時――――
「お兄ちゃ 」
「…………ぁ」
「「な……」」
――――その台の刃が、重力に従って、台のレールに沿って、垂直落下した。市民の意思を示すように。