Phase2-4 行橋隊
集まった9人は、駅前広場で話をすることにした。それぞれ、多々あるオブジェクトに腰を掛ける。
「ハヤトくん。聞きたいことは山々ですが、まずはデバイスの件です。なぜ、あなたはそのデバイスを奪ったのですか?」
なぜ奪ったのか。その理由はリョウを含め、団員全員が知らない。
「以前、協力した時に少し漏らしたが……理由は簡単だ。行橋を守るためにこいつを奪った。行橋隊の最後の生き残りとして……ここを守る責務が俺にはある」
「なっ……行橋隊……!?」
「兄貴……本当に何も知らなかったんだ。まぁ、前にやってたニュースは色々ぼかしてたし……全部教えてあげる」
世間知らずのリョウに、ミヅカが行橋隊の事を教える。
『行橋のためなら、死ねる』
そのスローガンの元、行橋の治安を守っていた自警団があった。
それが、行橋隊。
隊員は6名+1名。
『司令』のコウイチ、『追跡』のシンジ、『諜報』のミツヒロとトキヒデ、『策士』のダイシン、そして『戦闘』のハヤト。それに追加して、『司令補佐』のヒロノ。
行橋は事件が比較的少ない。それも、彼らが事件の匂いを嗅ぎ、それを未然に防いでいたからであった。
ただ、これは裏向きの顔。
表向きの顔としては、『ゲーマー集団』。
あらゆるゲームの大会に出場し、賞金をかっさらっていった。行橋隊の資金は全てここから来ている。
『格闘』のコウイチ、『レース』のシンジ、『STG』のミツヒロとトキヒデ、『パズル』のダイシン、そして『ワイルドカード』のハヤト。それに追加して、『アクション』のヒロノ。
行橋隊の構成は、こうでもあった。
しかし、2019年3月1日。
行橋隊の本来の活動を知った暴力団員が、行橋隊を壊滅させるために、小倉へと遊びに行く行橋隊を狙った通り魔事件を起こした。
丁度トイレに行っていたハヤト以外の隊員は、武器のチェーンソーの餌食となり、即死してしまった。さらに、犯人は調子に乗って、他の乗客も襲い続けた。
犯人は、情報役と実行役の2人。情報役は捕まっていない。実行役は捕まって『いた』。しかし、まさかの脱走により逃走中だ。
隊員は、全員が北附第1志望で、全員合格していた。
行橋の高校ではない理由は『北九州市をもっと知りたい』からであった。
しかし、ハヤト以外は全員死んでしまった。
北附に入学したのは、ハヤトだけであった――――
「そういうことか。理解した。今までお前が誰とも話さなかった理由を」
「そういうことだ。…………もう思い出したくない。あの時のことは……」
ハヤトの頭の中で描かれていたのは、事件当日の行橋駅構内。
トイレを済ませたハヤトが、ホームで待っている他の隊員と合流しようとした。
電車が到着し、少し焦るハヤト。
しかし、ホームからチェーンソーの音が。そして、生々しい音。悲鳴……が途切れる。
急いでハヤトはホームに向かう。
階段を上り、すぐ目の前に広がっていたのは、首が無い死体と、近くに転がる頭部、血の海と化したホーム、血塗られた電車、そして、さっきまで隊員だったものが、辺り一面に散らばっていた。
ホームの向こうには、駅員に取り押さえられた犯人。
――――ハヤトの目は、死んでいた。
――――ハヤトの思考は、止まっていた。
――――ハヤトの中にあった、あらゆる物が砕け散った。
「ああああああ! もう思い出したくない! どうしてああなったんだよ! 全部俺のせいだったのか!?」
ハヤトが混乱した。頭を抱え、その場で蹲る。
「落ち着いて! 無理に思い出そうとしたら苦しいだけですよ!?」
必死に、サユリが落ち着かせようとするが……
「当事者じゃないのに何が分かるんだよ! その日はどうせ、呑気に勉強やらしていた癖に! 傍観者が口出しするな!!」
「ちょっと! 待ちなさい!!」
ハヤトは、走って帰ってしまった。
「これ……どうすれば……いいんですか…………」
サユリは、頭を抱えて泣いてしまった。
ミユが近付き、サユリの頭をさする。
「また……次があるから……大丈夫だから……」
この現状を見たリョウは、
「すまない……」
と、静かに呟いた。
その日の夜。リョウはベランダに出て、考え事をしていた。
(この事態を引き起こしたのは、恐らく俺のせいだ……。あんなことを言ってしまったから、あいつの記憶を引き起こしてしまった。そこから……)
「あ、また考え事してる」
いつの間にか、ミヅカが隣に座っていた。
「ハヤトのこと?」
「ああ。こうなったのも俺のせいだと思ったから、考え事をしていた」
俺のせい。リョウの頭の中には、それしか無かった。
「まぁ、そうだろうね。ただ、ハヤトの自爆もあるだろうけど」
「それでも、きっかけを作ったのは俺だ。ミヅカ、俺に出来ることは何か無いのか?」
どうすればいいのかと、リョウがミヅカに問う。
「2人で話し合えばいいんじゃない? 兄貴とハヤトは、結構いい感じの仲だと思うよ」
「いい感じ……なのか?」
今まで、友達という概念を無視した生活を送っていたリョウにとって、『いい感じの仲』というものは、理解できるものでは無かった。
「そうだよ。仲良くないと、一緒にゲームなんてしないでしょ?」
「そうなのか……。ということは、例のコスプレもか?」
「まぁね」
いつもの様に、2人は談笑していた。
(ミヅカだけには……本来の俺を見せられるんだよな……だけだからな……)
一方で、ハヤトは布団の中に篭っていた。
「あああぁぁぁ…………」
ハヤトは唸っていた。大きな溜息と、大量の涙を流しながら。
「糞が……早く捕まれよ……何なんだよ…………」
ハヤトは、事件を起こした犯人のことを、非常に恨んでいた。