Phase2-2 大説教?
「兄貴~~。そんなに落ち込まないでよ」
リョウは、体操座り(体育座りのこと。福岡ではそう言う)の状態で、頭を抱え込んでいた。
「なんでこんな姿にならないといけないんだ。糞が」
魔法少女のコスプレのまま、リョウは少し泣いていた。
ミヅカは、とりあえずスマホを見る。Twitterを確認すると……
「兄貴……これで有名人だね……!」
「どういう事だ……うっわ!?」
今のリョウの姿が、Twitterのトレンド1位になっていた。#尊いロリ魔法少女 などと言われている。要は、バズっている。
「どうすればいいんだ!? 明日学校に行っても問題無いのか!?」
完全に涙目になったリョウは、非常に混乱していた。
「有名人になったし、いいんじゃない? そもそも、望団自体が結構有名だからね。兄貴はあまりテレビを見ないけど、結構ニュースに出てきてるよ?」
ミヅカが、フォローになっていないフォローをする。
「畜生畜生畜生畜生畜生…………」
リョウは、そう言い続けた。呪文のように。
……翌日。リョウは勿論、制服姿だ。ミヅカと共に登校する。
「ミヅカ、本当に今日は大丈夫なのか?????」
「大丈夫だって。そんなに恐れても、何もならないよ」
電車に乗り込んでいく。車内にはミユがいた。
「あ、リョウ。おはよー。――――昨日のアレ……目覚めちゃった??」
「そう言ってくると思った。あれも全て、ハヤトのせいだ。最悪だ」
やっぱりか、と言わんばかりの表情をするリョウ。
(あー…………逃げたい降りたい学校行きたくない…………)
曲線のポールに沿うように、崩れ行くリョウ。ミヅカとミユを含め、乗客がその有様を見ていた。
小倉に着いた。アヤカが乗り込んで来る。
(うーわ……今一番会いたくない奴が乗り込んできやがった……)
リョウの目は、死んでいた。リョウは、まるで生きる気力を失った生き物のような目で、アヤカを見つめた。崩れたまま。
「ちょっと……どういう目で見ているの? 今日のあなたは、かなり変ね」
「そうだよかなり変だよ全部あの野郎のせいだよ糞が」
念仏を唱えるような声で、リョウがハヤトに対する恨みをアヤカにぶつけた。
「それよりも……昨日のアレ。あなた、本当は自覚しているのでしょう?」
「うるせーよ! 何が『尊い魔法少女』だよ! クソッタレ! ……あっ」
西小倉に着いて、ドアが開いた瞬間、リョウが叫んだ。乗客も、駅にいた人々も、全員がリョウ達を見た。
リョウの顔は、かなり赤くなっている。そのまま、空いた座席に座り、頭を抱え込んだ。
「何が魔法少女だ……もう嫌だ」
その様は、どう見ても泣いている子供の姿だった。
「こんなリョウ……見たことない」
「流石に、情けないわね」
「兄貴……今日、大丈夫かな?」
昼休み、教室にて。
リョウは、椅子に座っているハヤトの前に立った。
「ハヤト、ちょっと来い」
リョウは、かなり怒っている。教室にいた生徒全員が、そのオーラを感じていた。
「――――要件は……」
「しらばっくれるな! お前のせいで……お前のせいで……俺の何かが……!」
ハヤトを睨み、拳を握り、下から目線(物理的に)で恨みをぶつけるリョウ。
「まぁ、いいじゃないか。素晴らしいきっかけになったはずだ。自分の殻を……」
「何が『殻』だ! ふざけるな!」
怒り狂うリョウ。あまりにもその声音が凄まじかったため、通りがかったサユリが駆けつけた。
「あらららら……何をしているんですか」
サユリが近づいたことに気付いた2人。この時、リョウはハヤトに殴りかかろうとしていた。
「ぁ……会長」
「…………」
「あなた達、生徒会室に来なさい」
2人は、サユリに渋々付いて行った。
生徒会室。ここで、サユリの説教が始まった。
「喧嘩……のきっかけは、予想出来ています。例のコスプレの件ですよね?」
「知っている……だろうな。あんなに盛りあがっていたら」
サユリも、例の件を知っていた。ただ、ミユやアヤカのように、おちょくることは無い。
「馬鹿にしない……のか?」
「こんな状況で馬鹿にする人がいてたまるものですか。そして、ハヤトくん。あなたが、コスプレをさせたことも知っています」
「なぜ知っているのですか……?」
サユリはその場に居なかった。しかし、この件を知っていた。
「私の友達が、この件について嬉しそうに語っていたからです。どうやら、その場にいたようですね」
「あ……その手があったか」
「何を納得しているんだ。俺のプライドを根こそぎ奪っていった癖に」
サユリの話に納得したハヤト。そんなハヤトを睨むリョウ。
「リョウくん……いい加減、ハヤトくんを睨むのを止めなさい」
「………」
リョウは、ハヤトから目を逸らした。
(うわぁ……調子に乗りすぎたかな……少しやばいな)
ハヤトは、今更ながら自分の行いを悔やんでいた。
「とにかく、今すぐにとは言いませんから、出来るだけ早い内に仲直りすること。いいですね?」
これで説教が終了した。
放課後。対策拠点室では……
「あんた、少しは仲直りしようとしなさいよ……」
ミハヤがリョウに話しかける。事情はミヅカから聞いていた。
「あいつがコスプr」
「あんたが勝負をして負けたからでしょ……。バカみたいな話だね」
やや険悪な雰囲気になって来たので、ミハヤと共にいるヒカリが間に入る。
「まあまあ、その辺で。そんなに怒らないでよ」
「ヒカリがそう言うならね……」
ヒカリのおかげで、この場はどうにかなった。
十数分後、7人が集まった。
「では……今日の議題は、『変身時の掛け声』をまずは決めていきましょうか。ハヤトくんの件は、その後にしましょう」
掛け声。日曜の朝のライダーで例えるならば、「変身」とか言うアレである。
「そんな物は必要……」
「雰囲気作りは大切……で す よ ね ?」
「うっ…………」
必要無いと言い張るリョウに、サユリが威圧で話を通させる。リョウはしばらくの間、黙り込んだ。
「とは言っても、既に決まっているようなものです。以前、試しに合わせてみた、ミハヤさんとヒカリさんの掛け声。それを採用します」
「「え……アレを??」」
アレ。蝶を追う時にも使った、『Go RisingStreet』と言う掛け声。
「おー。それにするなら、望団のスローガンは『RisingStreet』だね!」
「名案ですね、ミユちゃん。そうしましょうか」
成り行きで、掛け声とスローガンが決まった。全員納得した……訳ではなく、リョウはあまり納得していなかった。
(そんな物……決める必要が無いのにな…………ミヅカなら、ノリノリで賛成するのだろうけどな。……またサユリの威圧が飛んでくるし、否定はしないでおこう。グレーゾーンということにしておこう)
リョウは、黙り込み続けていた。
「あら? リョウ君……それはともかく、『RisingStreet』とは、どういう……」
サユリは、『RisingStreet』の意味が気になっていた。ということで、その意味をミハヤとヒカリに聞いた。
「ぇ……『成長する』とか何とか…………響きがいいから、何となく決めました」
「ミハヤちゃん……。まぁ、そういうことです」
その意味を聞いたサユリは、納得したのか、首を縦に振り続けていた。
「タクミ……これ、どう思う? 僕は結構いいと思うけど」
「こいつは面白い。もっと楽しくなってきたな。掛け声があると盛り上がる」
タクミとタツヤも、納得していた。
「変身する時は、そう言うんだね!? 気分が上がりそう……あれ? リョウ?」
ミユも納得しているが、リョウは……
「あら……寝ちゃっていますね」
「あんた……もっと真面目に話に参加しなさいよ……」
「リョウらしいね……退屈な時は、寝る時があるから……」
リョウにとって、この話は退屈の極みであった……。
ハヤトは、電車の中でこう思っていた。
(リョウ……少し申し訳無いことを……以前も、ダウンさせて、放置してと滅茶苦茶な事をしたしな。何か償いをする機会はあるのだろうか…………)
そして、かつての友達と、恋人の名前を思い出した。
(コウイチ……シンジ……ミツヒロ……トキヒデ……ダイシン…………俺は今、孤独なんだよ。帰ってきてくれよ……ヒロノもさ…………)
座席に座っていたハヤトは、前屈みになった状態になっていた。彼は、涙を流していた。