Phase2-1 ゲー戦
ゴールデンウィークが終わり、5月7日になった。
教室の中で、リョウはこんなことを考えていた。
(ハヤト……普段は俺と同じぐらい静かなのにな……)
目線の先には、ハヤトがいた。
ハヤトは、本を読んでいる。リョウ達、望団が知っているハヤトではない。
昼休み。リョウが、ハヤトの元へ往く。
「話がある。弁当を持って大階段に来い」
「――分かった」
大階段。最近、望団の全員がここで弁当を食べている。勿論、ミヅカも居る。何故か、アヤカも居る。
「おっ、兄貴ー。その人は誰?」
ミヅカは、ハヤトの姿を知らない。
「とりあえず、あなたでも人を連れて来ることは出来るみたいね。それはそうと、誰かしら」
アヤカは、若干嘲笑いながら褒めた(?)。彼女も、ハヤトの姿を知らない。
「こいつがハヤトだ。泥棒猫だ。――デバイスを持っているなら見せろ」
「――ほい」
ハヤトは、持参していた風のデバイスを見せる。そこから、ハヤトとサユリの会話が始まった。
「ハヤト君……これ、どうするの?」
「持ち続けます。行橋の為に……」
「そうですか……。街を守る意思という点では、私たちと同じですね」
「……俺には、行橋を守るという責務があると思うんです。あの時から……そう思っていました」
「あの事情がある中では、『望団に入れ』と言うのも、あまり宜しくないですし……」
「きっと……入る時が来たら、入る事になると思いますよ。行橋に『非日常』が来たら、俺だけでも戦いますから……」
「……分かりました。また、機会があれば、一緒に……あれ?」
気付けば、ハヤトは立ち去っていた。
やや空気が重くなりながらも、9人は弁当を食べていた。
放課後。
リョウは、一旦西小倉で降りて、そこから歩いて10分のゲームセンターに来ていた。
(ゲームセンター……ミヅカと一緒によく来ていたな……最近は行かなくなったしな。何かしてみるか)
リョウは、e○スを買い、100円を数枚取り出して、ボン○ーガ○ルを始めた。
少しして、チュートリアルが終わった頃。隣台に、私服姿の男が座る。
リョウは、その男のプレイを横目で見ていた。
上手い。とにかく上手い。気付けば、相手チームに勝利していた。圧勝だった。
(随分とやり込んでるな……嘘だろ)
リョウは、その男の顔を見た。その男が誰なのかは、すぐに分かった。
「ハヤト、何故ここにいる」
その男とは、ハヤトだった。
「何だ、リョウか。……ゲーセンにいると落ち着く。嫌な事を、一瞬だけだが忘れられるからな」
「かなり上手いな。結構やり込んでいるな?」
「ああ。この界隈では、割と有名な人間だ」
と、ハヤトが100円を投げてきた。リョウはその100円を受け取った。
「お前がゲームを選べ。それに付きやってやる」
そして、リョウはこのゲームを選んだ。
「ここで○文字○か」
「こいつは、よく妹と遊んでいた。あいつの方がかなり上手かったが」
「そうか。とにかく、どっちが勝つかで勝負する。負けたら罰ゲームな」
「分かった。乗ってやる」
ということで、100円を入れる2人。対戦が始まった。
「リョウ、お前結構上手いぞ。それより上手い妹とは恐ろしいな」
「お前の方が上手い。全てにおいて無駄が無い」
互いに1歩も譲らない展開……だったが――――
――――ゲーム終了。結果は…………
「俺の勝ちだ。リョウ、何故右カーブで左に回った? 勿体無いな。それさえ無ければ勝っていただろうに」
「やかましい。記憶の中のコースがそうだったからだ」
リョウの負け。罰ゲームの内容は……
「今から、あるあるCityに行くぞ。そこで、俺が選んだコスプレ衣装を着てから家に帰ってもらう」
ゲームセンターのシャトルバスに乗り、北九州の中心駅、小倉駅へ。
そこから、新幹線口へ向かう。
あるあるCity。北九州のサブカルの中心である。駅から徒歩1分程度。広告の音声がよく聞こえてくる。
建物に入る2人。ハヤトが、リョウを待たせてショップに入っていく。
(勘弁してくれ……何を着させてくるんだよ……)
数分後、ハヤトがショップから出てきた。
「トイレで着替えて来い。楽しみに待っておく」
ハヤトは、コスプレ衣装が入った紙袋をリョウに渡し、トイレに行かせた。
トイレの中。
(何だコレ!? こんなの着て帰れって言うのかよ!?)
少しして、リョウがトイレから出てきた。
「お、来たか。似合っているぞ(笑)」
「何てものを着させて来るんだよ……お前なぁ…………」
非常に恥ずかしがっているリョウ。その姿は……
「何で魔法少女のコスプレなんだ……サイズが合っている分、かなり腹が立つ」
あまりにもお似合いなその姿。可愛らしく、尊い、ロリ系の魔法少女の姿。
そんなリョウの姿を見つけるや否や、スマホやカメラを持った人が殺到した。そうなる程、お似合いだった。
「ツーショットおなしゃーす!」「あの子可愛くない!? やばいくらい似合ってるよ!?」
スマホのカメラのシャッター音が鳴り響く。カメラのフラッシュも凄まじい。まるで、有名人を見つけた野次馬に囲まれたような状況だ。
こんな状況に耐えかねたリョウが、全力疾走で逃げた。ハヤトはその姿を見送り、こう考えていた。
(明日は学校でお祭りになるな……可愛かった。マジで男なのか?)
リョウは、着替えることを忘れ、走って改札を通り、門司方面の列車に乗り込む。売店の店員も、駅員もその姿を見ていた。
ステンレス地に、赤と青の帯の電車が4+4両で到着する。電車内に入り込んだリョウ。と、
(もう嫌だ……こんな姿……あっ、着替えなければ……)
コスプレ姿のままだということに気付いたリョウが、焦ってトイレに向かう。しかし、トイレは使用中。別の車両のトイレに向かおうとするが……
(うわ……行き来出来ねぇ……)
この車両(811系)は、編成ごとの行き来ができない。
…………つまり、門司までこの姿で帰れということである。
数分後、電車は門司に着いた。急いで駅のトイレに……
(なんで全て使用中なんだ!?)
全部の個室トイレが使用中。
(もういい。このまま帰ろう。それが罰ゲームだしな)
可愛らしく、尊く幼い(?)見た目のリョウが、家に帰ってきた。
「兄貴、おかえ……りぃ!?!?!?!?!?」
ミヅカが困惑している。
兄が、魔法少女のコスプレをして、鞄を持ちながら、右手に魔法のステッキ(ハヤトが買った、プ○キュ○の玩具)を持っているのだ。困惑するのは、当然のことだ。
「兄貴……ついに、女の子みたいな見た目を活かして……」
「ちがーーーーーーう! これは……」
「何が違うのwww これはどう見てもwww『正義の魔法少女☆』とかなんとか言いそうな見た目のコスプレじゃんwww」
ミヅカが笑い転げる。お手本の様な笑い方だ。
「ハヤトォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」
リョウは、その姿に仕立て上げた犯人の名を、泣きそうになりながら叫んだ。
一方で、行橋方面へと向かう電車の中では……
(Twitterを見てみるか……うっわ!? バズってるぞ!? あいつ人気者じゃん! 俺のセンスは最高かもしれんぞ)
ハヤトは、Twitterを見ながらそう思っていた。