Phase1-3 協力戦
月が変わり、5月1日。この日も、望団は『訓練』を行っていた。
訓練とは言っているが、『戦闘のための訓練』ではなく、『戦闘後の負荷に耐えるための訓練』である。
内容は、『登下校に使う坂を、走って10往復する』、『体操部の鉄棒を借りて懸垂』など。
それが結構キツイらしく……
「慣れないよぉ……キツすぎるでしょ……こんなメニュー考えたの誰??」
ミユを始め、タツヤ、ヒカリ、サユリが疲れを見せていた。
「誰が考えたって……私だけど? 昨日も一昨日も言ったけど」
あのメニューを考えたのは、ミハヤである。当の本人は、疲れていない。
「ヒカリちゃん……なんでミハヤってあんなに体力あるの?」
「独学で陸上とかしてたからね……実はスポーツ万能だったり」
それを聞いたミユが納得した。そして、リョウとタクミは……
「リョウ、その見た目で結構体力あるな。多分、俺より上だぞ」
「この見た目とはどういうことだ。……何故こんな体力があるかは知らん」
この2人も疲れていない。タクミに関しては、納得の体力(見た目が運動部な感じなので)ではあるが、リョウに関しては、謎。本人もよく分かっていない。
この光景をこっそり見ていたミヅカ。彼女は、こう思っていた。
(さすが兄貴。私には出来ないことをやってのける。でも、なんであんな体力があるんだろう……?)
ミヅカにとっても、その体力の話は謎であった。
午後3時。今日は、ここで解散となる……はずだったが。
「うわっ!? またか!?」
例のサイレン。非日常警報……というもののサイレンだ。
『非日常警報。非日常警報。八幡東区の警戒レベルは1。至急、頑丈な建物の中へ避難し――――』
しかし。学校からは、虫も怪獣も見当たらない。その件も、警報の中で言っている。
『現在の状況は、巨大な蝶が、小倉南区内を行橋方面に向けて飛行中。羽からの風で、被害が発生している模様』
「南区か。急がないと大変なことになるぞ」
小倉南区は、北附のある八幡東区から数km離れた場所にある。そこを、巨大な蝶が飛行しているという。
急いで集結した7人が、デバイスのボタンを押し……
「「「「「「Go! RisingStreet!」」」」」」
「……え?」
リョウ以外が掛け声と共に、レバーを倒す。リョウも混乱しつつ、レバーを倒し、変身完了。と、ここでミハヤが疑問に思ったことをぶつけてきた。
「あんたさ……いい加減にデザインの変更を反映させて欲しいんだけど……」
デザインの変更は、リョウの物とハヤトが奪った物以外は反映されていない、というか、手をつけていない。
「また今度にさせてくれ。お前が考えたやつは、特に面倒だからな」
「はいはい分かりました。とりあえず、どう追いかけるの?」
ミハヤ以外はあまり気にしていなかったが、当の本人はかなり不満を抱いていた。どう追いかけるかは……
「僕の氷の道で行きましょう!」
ということで、タツヤが氷の道を作り、7人を氷の壁で押していく。かなりのスピードだ。
到着した。場所は、小倉南区で1番利用者の多い下曽根駅より、北に400m程だ。
「飛んでいる……刃物では厳しいか」
仕方なく、氷道の上から、リョウとミユのみが、銃で攻撃する。が……
「まずいよ! 風で飛ばされちゃうよ! 氷だから、余計滑って落ちそうだよ!」
通信を聞いたサユリが、2人が落ちかけたところを、鉄の足場でフォローする。
「連絡機能があって良かったけど……これだとキリがないですね」
「くそ……風のデバイスがあれば、こいつなんか簡単に堕とせるのにな……」
悩む一同。蝶は、行橋方面に向けて飛行する。現在、下曽根駅から下って一駅の、朽網駅付近。もう少しで苅田町に入り、そこから数km先は行橋だ。
「どうするんだよ……大分県内に入っても終わらないぞ……」
全員で必死に追跡していたその時。
「行橋は……俺が守るッ!!!」
謎の残像が蝶を横切る。その残像を切れ目にして、蝶が真っ二つになり、堕ちる。
「あれは……ハヤト!? どういうつもりだ!?」
その声を傍受したハヤトは、リョウ達の元へ。
「行橋を守るためなら協力する。それ以外には協力しない」
そう言って、行橋方面へと行ってしまった。
「西空ハヤト……あんなことがあって間もないのにね……大丈夫かな……?」
「あんなこと……?」
『あんなこと』。リョウは、その事を知らなかった。
「いいえ……なんでもないです。あの事を教えたら、ハヤト君に気を使わせてしまいそうだから……」
6人は、一応言わずにしておくことにした。
ミヅカは、リョウ達を追って、電車で下曽根方面へ向かっていた。
(兄貴……大丈夫かな……?)
下曽根駅に着いた。が……
(帰って行ってるじゃん!!)
反対側の電車の中に、リョウ達がいた。急いで降りたが、電車は行ってしまった。
(……まあ、無事ならいっか)
その日の夜。リョウとミヅカは、ニュースを見ていた。
『あの事件から2ヶ月が経ちましたが、未だ犯人逮捕には至っておりません。今年の3月1日に……』
ニュースを見ながら、ミヅカが話を切り出す。
「兄貴……アレから2ヶ月だってね。兄貴は知らないだろうけど」
「何だそれは?」
「やっぱり。まぁ、あれを見てたら分かるよ……」
2人は、ニュースをじっと見ていた。
3月1日の行橋駅前。
日曜日で賑わう駅前。受験シーズンだからと、学生は塾に行ったり、模試に行ったりと色々重なり、駅が混雑していた。
そんな日常は、改造チェーンソーを持った何者かによって、破壊されてしまった。
中津方面から電車で降りた男は、リュックサックと、白いパーカー姿。サングラスとマスクを着けて、身元が判明しないようにしている。
その男は、リュックから改造チェーンソーを取り出す。通常よりも、コンパクトだった。
それを起動させ、振り回す男。
電車の車体が傷付き、手当り次第、人を切っていく。
――――何人も、何十人も殺された。
7人で行動していた学生も、1人を残し、みんな殺された。
生き残った学生は、ただただ泣くしかなかった。
――――そんな内容だった。そして、生き残った学生が、テレビ局に送った手紙が紹介される。
『あの事件の犯人が捕まったら、真っ先に俺と話し合わせて欲しい。そいつが奪った仲間の夢は、とてつもなく大きかった。それを教え込ませたい。だから、早く捕まって欲しい』
「その学生は……仲間を失ったのか」
「そういうこと、兄貴」
(大切な人間を失う……俺達も、そいつと似た感じなのか……)
その少年と、少し境遇が似ている。リョウはそう考えた。