Phase1-2 行橋戦
「泥棒か。それを返してもらおうか。さもなければ…………」
「殺す、か。お前の思考は読める。同じクラスだしな」
「同じクラス…………お前、俺以上に静かな…………」
リョウと同じクラスに居るこの男。普段は静かで、誰とも話さないが…………
「面白いことになったな。俺は西空ハヤトだ。普段はこんなことはしない。ただ、これは頂く」
そう言って、デバイスを取り付けて、ボタンを押した。
「おい!? それを室内で使ったら……」
「なにかまずいとでも? こんな掛け声を言ってた奴がいたな…………Go,Rising Street……!」
ハヤトがレバーを下げた。
「止めろ! ――――風がッ!?」
ものすごい風。リョウが、廊下まで吹き飛ばされた。
――――白地に、緑の帯。そして、スカーフ。ハヤトが変身していた。デバイスの改良を、2番目に行った為、ミヅカの時とは違い、まるで山手線のE2〇1系の様なヘッドライトの追加と、その姿の変化がある。
「では、ここで帰らせてもらう。いつもの時は、そっとしておいてくれ」
「待て! 仕方ない。力尽くで……!」
リョウも、急いで外に出る。しかし、2,3時間前に、実験的に変身したばかりだ。
「頼む……使えるようになっていてくれ……」
ボタンを押す。デバイスが反応した。赤い光がリョウを包む。
「よし、いけるな」
そして、レバーを倒し、変身した。
その姿は、白地に赤帯。そして……
「なんでパーカーなんだよ……あいつらめ……」
白地に赤帯のパーカー。これが、リョウのスーツの新デザインのようだ。ほぼ全て、ミユの趣味嗜好。
(付いて来てるだろうな…………うーわ。マジで来てやがる……無線かなんか知らんけどうるさいな)
「通信機能で俺の声が聞こえるはずだ。しつこいのが嫌ならば、諦めてデバイスを返せ」
かなり手を抜いて移動しているハヤトを、全力で追いかけてくるリョウ。爆風を利用しているので、非常にうるさい。だから、ハヤトはすぐに気付いた。
「どーせなら戦ってやるか。俺のホームグラウンドでな」
2人の距離は変わらず、そのまま南下していく。
「どこまで行くつもりだ。いい加減諦めろ」
「――そろそろ着く頃だな。あの公園で戦うぞ」
2人は、とある公園に到着した。
「ここは一体何処だ。教えろ」
「教えよう。此処こそが、我がホームグラウンド、行橋だ!」
行橋。そこは、北九州から25km南下した場所にある、北九州のベッドタウンである。そこが、ハヤトのホームグラウンド。
「この公園は、『行橋総合公園』だ。ここで、こいつの力試しだ。遊具は壊すなよ?」
「そんな事どうでもいいから……!?」
予兆もなく、いきなりハヤトが攻撃してきた。
「前回使ったと思わしきデータが残っているから、これの使い方はよーく分かる。バイザー……じゃねえな、ゴーグルか。そこに情報が流れてきているから、丸分かりだ」
(こいつの手に渡るくらいなら、弄らなければよかったな……結構厄介だ)
そのまま、ハヤトは攻撃を続ける。リョウは、その攻撃を受け流していく。
その攻撃は、ミヅカの時と同じく、スピード重視の格闘技。
格闘に飽きたらしく、ハヤトはこんなことを言い出した。
「武器が欲しいな……格闘はあまり得意じゃないんだよな。せめてナイフとかあればな。それだったら、レプリカで鍛えてるけどな」
「…………!」
その発言に、リョウが固まった。
「この、よくある反応……あるな? ナイフが」
ハヤトが、適当に腰を叩く。すると……
「うわぁ!? ダガーナイフだ! しかも2つ! よっしゃぁぁぁぁぁ!」
嬉しそうに、ハヤトがナイフのプラグをデバイスに挿す。
(うわぁ……バレてしまった……改良後の武器の出し方が……)
今までは、変身直後に武器が出てきていたが、改良後は、腰を軽く叩いてから武器が出るようになっていた。それがバレた。リョウが焦る。
「俺には、勝利の風が吹いている……! お前の状況は、まさに『風前の灯』だな!」
ハヤトがレバーを倒す。
「荒らす! トルネードカッター! 回避は不可能!」
「もう我慢出来ない……いや、今までよく我慢できたな、俺……。――――潰す!」
リョウが武器の銃を出し、レバーを倒す。
「そんな物に……!」
ハヤトの両手にはナイフ。ハヤトは、ナイフを構え、高速回転しながらリョウに突撃する。
リョウは、銃を構える。威力を溜め続け、それを放つ。
「「くたばれ!」」
そして数分後。リョウは、遊具の上で意識を失って倒れていた。
「――――ッ!? 俺は……ここは? ッ!? ハヤト! ここは何処……手紙……?」
目を覚ましたリョウ。そこにはハヤトはいない。代わりに、手紙があった。
『これを読む頃には目を覚ましているだろう。まぁ当然か。
それはともかく、俺の攻撃は、お前に思いっきり当たった。だから、そうやって倒れている。
家に運ぼう……と思った。ただ、親がうるさいから、仕方なく――――』
「何がうるさいだ!! 侮辱しやがって!! 放置しただけだろうが!! あの野郎……!! 覚えとけ!!」
リョウが激昂し、手紙を破り捨てた。それを、堤防から海に放り捨てた。
(帰るか。バスがあるといいが……)
試験的に追加した、デバイスの検索機能で、ここからの交通機関を探したが……
「何も無いのかよ……歩いて行橋駅まで行くか」
1時間後。公園から数km離れた行橋駅に着いたリョウ。時間は、午後10時だ。
(あっ、あいつらに連絡していないな。一応言っておくか)
通信機能を使い、ミユに連絡する。ちなみに、リョウは携帯を買うつもりは一切ない。ミヅカは持っているが。
「ミユ、やられた。風のデバイスを盗られた。犯人は、西空ハヤトだ。俺と同じクラスだ」
それを聞いたミユは、最初にこう言った。
「盗まれたじゃないよ! いきなり走っていって……追いかけたけど、既にいなくて…………心配したんだから………………私も、ミヅカも、話を聞いたみんなも………………」
ミユは、泣いていた。声だけでわかる程に。
「とりあえず、俺の家に帰る。また明日な。俺は無事だ」
(ミヅカに心配かけているしな……小倉までは特急に乗って行くか)
リョウは、乗車券と特急券を購入した。
――――特急が来る。闇に紛れて来る、黒い車体。その車体を、駅のやや緑っぽい照明が照らす。
(携帯を買っておいた方がいいかもな……)
そう思いながら、特急列車の中に乗り込んだ。
電車は、小倉に着き、そこで乗り換えて、門司に着いた。
リョウは、走って自宅マンションに向かった。
(兄貴……大丈夫かな……遅いなぁ……)
ミヅカは、リョウを心配して待っていた。と、玄関のドアが開く音。ミヅカは、それに反応して、走って玄関に向かう。
「遅くなって済まない。ただいま」
「兄貴……! 待ってたよ。お腹すかせて待ってた。大丈夫? 少し、あざが出来てるけど」
リョウの額あたりに、青いあざができておた。
「あ……これは……」
「非日常警報は鳴ってないし……また誰かと戦ってきたんだね」
「………………ああ」
リョウがそれを認めた瞬間、ミヅカがリョウを殴った。
「何が『ああ』だよ!? どうして戦わないと分かり合えないの!? ミハヤの時も、今回も!! 何で…………兄貴は………………そんなに……………………私との接し方と、みんなとの接し方が違うの…………………………? 教えて…………」
とうとう、ミヅカは泣き崩れて行ってしまった。ミヅカが蹲る。
「…………俺にも分からない。どうして……話し合いで済ませられないのかも、扱いの差も…………」
一方で、ハヤトの家。
(やっぱり……俺は変身解除しなかったし、一旦家に入れておけば良かったかな……本当に、俺って……優しくなれないな……)
ハヤトは、戦闘後の自分の行動について、後悔していた。
「手に入れたこの力で……行橋を……あのでかい奴らから……守ってやる…………『行橋隊』最後の生き残りとして…………」
部屋にある、6つの遺影。その遺影の前に立ち、ハヤトは決意を新たにした。