Phase4-1 戦闘、不足分
土曜日。この日もリョウ、ミユ、サユリの3人で望団への勧誘を行っているが、誰も参加しようとしない。
「うーん……やっぱり、戦闘以外のことも入れた方がいいかしら……?」
「まぁ……ボランティアとかいいんじゃないですか?」
ミユが、ボランティア活動の提言をする。リョウは、面倒くさそうな顔でこう言った。
「おいミユ……そんなに活動を増やそうとするな。会長も……。そこそも、ボランティアはインターアクト部の仕事だ。それを奪うなど――」
「――じゃあ、統合しちゃいますか」
「「えぇ!?」」
訳がわからない。リョウはそう思った。
さすが会長。ミユはそう思った。
と、誰かが外で騒いでいる。
「なんじゃありゃ!? ネズミか!?」
雰囲気を破壊するように、『非日常』が迫り来る。今回は巨大なネズミだ。しかも、何体もいる。
「今までのものと比べたら、少し小さめだが……ただ、かなり速い」
このネズミ達は、とにかく速い。その速度は、新幹線並である。そんなスピードで道路を走り続ける。人が建物の中に逃げ込んでいるため、主に車が被害に遭っているが、それでも大迷惑だ。さらに、5体のネズミが坂をどんどん登って、北附に来ている。
「とにかく、3人で行くしかないな」
3人が変身する。そして、相手をするが……
「あーもう! 多すぎる! 連射するやつは無いの!?」
連射機構が備えられている武器は無い。ならば、サユリの力で……
「私? その……銃とかは詳しくないから……」
ここで、タクミとタツヤが到着する。
「どうする!? こんなにいたら、面倒臭いぞ」
リョウが、すぐに考えて指示を出す。
「お前達は駅前に行け。俺達は、ここに来るネズミを殺す」
「よし、任された。行くぞ、タツヤ!」
「分かった!」
2人は、枝光駅前に行った。
坂を下って、枝光駅前。
「ここを経由するネズミは、結構多いはずだよね」
タツヤがそう考える理由。
ネズミは、見る限り八幡方面からやって来ている。そこから北附まで行くには、駅前を通るのが一般的な道のりとなるからだ。
来るネズミを確実に殺す。これが、タクミとタツヤが取った戦略。
坂と道路の交差点。
「リョウ、ここで待ち伏せるの?」
「……八幡方面からも、ネズミが来ているようだな。こんな状況で、そんなじれったいことしていられる訳がない。八幡方面に行き、そこにいるネズミを片っ端から掃除する」
そう言って、リョウは1人で南方へと向かっていった。
「え、えぇ!?」
片っ端から殺す。これが、リョウが取った戦略。
リョウは、独断で八幡方面に行ってしまった。
「サユリちゃん、どうする?」
「うーん……ここで戦っておきましょうか……」
来るネズミから学校を守る。それが、ミユとサユリが取った戦略。
枝光駅から2駅過ぎた所にある、八幡駅付近では……
「多すぎるし、速すぎるから、幻覚では意味が無いよ……」
丁度、ネズミと遭遇した、ミハヤとヒカリが応戦中だ。
「どうするの!? これ!?」
「どうするって…………」
2人は悩む。そして……
「今日は、北附にリョウ達がいるから、北附近辺まで、ネズミ達を全て追い込んで、挟み撃ちに……」
「よし、これでいこう!」
みんなと合流して、挟んで一気に殺す。それが、ミハヤとヒカリが取った戦略。
4つに分かれた戦略。リョウは、自分以外の行動を知らない。ここで、かなり重要なことに気づいた。
「状況が把握出来ない……連絡手段の整備をしておくべきだったか……」
連絡手段がない。一応、通信機はあるが、まだ使えない。さらに、電話番号も、互いにみんな知らない。
それ以前に、電話を使う時は変身を解除しなければならない。携帯電話を使うにしろ、公衆電話を使うにしろ(財布を取るには、変身解除しなければならない)、変身解除が必要となる。
しかし、変身解除するという事は、1時間程、戦線離脱するということである。
つまり、連絡するには、自分で仲間を探すしかない。
だがしかし、自分以外の行動が分からない。
「考えてもダメだな……ここはこいつらを!!」
リョウがレバーを動かした。銃の引き金を引き続ける。
「潰すッ!!」
引き金を離し、全力の一発を1体にぶつける。そのネズミが爆発し、爆風で周りのネズミが吹っ飛ばされ、動けなくなった。
そのまま、リョウは自分の周りにいるネズミを片付けた。
リョウは取り敢えず、北附方面を見た。そこでは……
(!? まずいぞ! いつの間に……)
5体ほど、ネズミが北附を目指して移動中。とにかく速い。時速250キロほどある。
「どんどん来ているよ!? もう、必殺技しか道が……」
「そうね。ここは使うしかないわね! こんな住宅地で使うのはアレだけど……」
「流すッ!!」「壊しますっ!!」
ミユとサユリがレバーを動かす。
「ツインスパイラル!」
「メタルストレート! 行きます!」
ミユが、スクリューのような水流を出し、3体のネズミが倒される。残ったネズミも、鋼の槍で一気に串刺して倒した。
「危なかったわね……リョウ君、大丈夫かしら?」
「リョウなら……大丈夫じゃないかな」
枝光駅前。
「はぁ……はぁ……これで最後か? かなりしんどいぞ」
「そうみたいだね。疲れた……」
こちらも戦闘を終えた。かなり疲弊している。
八幡駅前から少し進み、ネズミを追うミハヤとヒカリ。
「おりゃあああああ!」
ミハヤが、会心の一撃を決め、最後尾のネズミを倒したが……
「あれ? これだけ? 一応、ネズミの生体反応は無いけど?」
「まぁ……どうにかなったんじゃないかな?」
「――静かになったか。終わったようだが……これは……」
戦闘が終わった。しかし、道路は散々にひび割れていて、車も木っ端微塵に。車両火災も至る所で起きている。被害状況は、かなり広範囲に及ぶ。八幡駅前付近から、枝光駅前付近までに。
八幡東区内は、少しばかりか荒野のようになっていた。
北附に7人が集まった。
「――連絡システムを作る。それでいい」
などと話して、今日は解散となった。
全員が悩みながら帰っていく。
戦闘の影響で止まっていた電車が動き出した。リョウとミユが一緒に居る。
「ミユ、これは連絡システムの有無の問題か?」
「そうなのかもしれないけど……」
他に何かある。ミユはそう思った。
「何か足りないモノがあるんじゃないかな」
足りないモノ。リョウはそれが分からないので質問した。
「足りないモノか……今の俺達に足りないモノって何だ?」
ミユが考える。
「まぁ……指示を出していたのはリョウだし……タコ戦では、ある程度は、まともに指示していたし……リョウに足りないモノだとすると……」
「何だ?」
考えた結果、ミユの回答はこうなった。
「…………友情とか、その類じゃない?」
「それなのか? 連絡手段さえあれば、戦闘は上手く――」
と、リョウは思っていた。それをミユが否定した。
「いかないよ。こういうのは、信頼の上で成り立っているから、信頼=友情に近いから……やっぱり、それが足りない。多分」
「……今日は家に上がれ。今の話だけでは理解できない」
「よっしゃー! 友情とは何たるかを教えてあげるね!」
こうして、ミユがリョウの家に来ることになった。