Phase3-after 闇の戦士が見る記憶
その夜。ミハヤは、今まで自分がつけていた日記を見ていた。その日記は、2014年10月7日分で途切れている。
(これも……『逃げていた自分』だったのかな)
ミハヤは、日記を見ながら、記憶を辿っていった。
2007年9月6日。京都市内のショッピングモールにて。
幼いミハヤ。そして兄と、両親。
買い物ついでに、ゲームセンターに寄っていたが…………
「――――っ!? 思い出したくない……これ以上はやめておこう…………次は……」
2007年9月27日。大阪府堺市内のヒカリ宅にて。
「ミハヤ……?」
「ヒカリ……?」
幼いミハヤと、幼いヒカリ。互いに初対面だ。
「ヒカリ、この子は南沢ミハヤだ。南田家と南沢家の関係は知っているだろう? 今回、訳あって京都から彼女が引っ越してくることになった。仲良くしろよ?」
「うん!」
ヒカリの父と、幼いヒカリが会話している。ミハヤは、かなり怯えていた。
「……あの時は、ヒカリに怯えていたなぁ…………今ではとても考えられないや」
2010年4月11日。小学校の入学式。だが…………
「おらぁぁぁ! 南沢ミハヤァ! お前だけやぞ! 潔く殺されぇや!」
黒服にサングラスをつけた集団が、式の最中に乱入した。ミハヤは、全力で逃げる。その速さは、小学生どころか、高校生をも上回る程。
(どうして…………どうして…………!)
「――――またあいつらに出会すのかな……こんなに離れてるし、まだ安泰かな……」
2010年5月25日。ヒカリたちと共に、北九州に引っ越してきた。
「パパ……ここが新しいお家……?」
「そうだ、ヒカリ。ただ、家が建つまでの間だけどな。北九州市内の物件ではここが1番都合がよかった」
アパート。結構ボロい。築30年と言ったところか。4人暮らしにはちょうど良い。
「今思うと……随分前だったんだなぁ……まだ本城じゃなく、下曽根に住んでた頃……」
ミハヤが思い出を振り返っていると、ヒカリが声をかけてきた。
「ミハヤちゃん? どうしたの? 何か悩み事?」
「いや……昔を思い出していただけ。いい事も……悪いことも……」
2人は、ベッドに行き、そのまま寝付いた。
2014年10月7日。
「疫病神ぃー!」「人間離れー!」「チーター人間!」
クラス全員から浴びせられる暴言。ミハヤは、頭を抱えていた。そして、1人の男子が……
「なーにが『追われる少女』だ! 構って欲しいだけだろ?」
「ッ!?!?!?!?」
ミハヤが豹変した。そして、男子を殴り飛ばし、教室の窓から叩き落とした。幸いにも、1階だったので、大きな傷はなかった。
「え、ミハヤ!? 落ち着いて!? 今までのことは……」
女子のそんな言葉は通じない。
今まで、散々罵倒してきた癖に――――。
ミハヤは、その感情だけで動いていた。そのまま、女子を蹴り飛ばす。
騒ぎを聞き付けた、他のクラスの生徒が、その光景を茶化す。
「暴走だー!w」「さぁー始まった! 5の1コロッセオ!」「ミハヤ牛対クラスメートでーす!」「「「wwwwwwwwww」」」
その騒ぎ声が、ミハヤの耳に届いてしまう。
「こっち向いたぞw」「やっべw」「逃げる?w どうする?w」
笑う生徒に、椅子を持ったミハヤが突っ込んできた。茶化した3人を椅子を殴り飛ばす。その中の1人の男子が、血を吐く。そのまま、椅子でガラスを割る。周りの生徒にも、割れたガラスが刺さっていく。
「止めなさい!!」
女教師が駆けつけるが……
「………………」
ミハヤが、持っていた椅子を野球ボールのように投げた。教師の頭部に当たり、教師が意識を失う。
「逃げろおおおおおおおおおおおお!!」
校内はパニックになる。逃げ惑う生徒。それを追うミハヤ。そこに……
「ミハヤちゃん……もう止めて……」
ヒカリが立ち塞がる。そして……
「――――ッ!? 私……何を……」
ミハヤが元に戻った。そのまま、教室に走って戻ったが……
「…………全部……私が???」
血を吐き、横たわる生徒。ガラスが足に刺さり、動けなくなる生徒。泣いている生徒。頭から血を流して倒れている教師。割れたガラスと蛍光灯。ひん曲がった椅子と机の脚。割れた黒板。穴が空いた天井。床には、飛び散った血。
――――――全部、ミハヤがやってしまった。
「…………………………どうして……私は……」
「うわあああ! ――――夢か……思い出したくないことだったなぁ……思い出したくないことが多すぎるなぁ……」
「んんっ……ミハヤちゃん? どぉしたの?」
「いや……なんでもない」
「そう……。まだゆっくり寝ていてねぇ…………zzz…………」
(ヒカリ……あなた程純粋な人間はそうそういないよ……羨ましいなぁ……)
ミハヤは、そのまま寝付いた。