Phase3-4 決意、克服
金曜日の朝。リョウとミヅカが起きて、顔を合わせた。
「「っ……!?」」
何故か、恥ずかしがる2人。
(昨日、抱き合ったしな……幾ら何でも、顔を合わせるのは恥ずかしいな……)
(何でだろう……ちょっと恥ずかしいような……)
いつもの様に、食事と身支度を済ませ、家を出た。
ミハヤは、ヒカリを叩き起こした。時間は、午前6時ちょうどだ。
「おきろー! あっさだぞー!」
「ふぁ~~おはよ~~」
あくびをしながら、ヒカリが挨拶をする。
「今日さ……リョウと少しだけでも仲良くならないとね……」
「あ……そうだね」
ヒカリが言う。リョウと仲良くしろと。ミハヤが少し悩んだ顔で答える。
枝光駅。リョウとミヅカが改札を出ると、ミハヤとヒカリが待っていた。
「あっ、シスコン。おはよう」
「ちょっとミハヤちゃん!? ――ごめんね。ミハヤちゃんは人をあだ名で呼ぶことがあるから……」
少しキャラを変えたように、リョウにミハヤが話しかけてくる。
「(ロリとかじゃないし)まぁ、いいけどな」
「というかお二人さん~~? なんか少し視線が合っていないよ~~?」
「「!?!?!?!?!?」」
リョウとミヅカは顔を下げた。
「この反応……まさか……近親s」
「「んなことあるか!!」」
リョウとミヅカが、非常に恥ずかしがりつつ、否定した。
いつもの坂を上がっていく。
「昨日は……本当にごめんね。さすがに言いすぎた」
「俺も……その……」
ミハヤの謝罪に、少し口ごもるリョウ。それに入り込むように、
「兄貴、ここは……謝罪だよ? 『変化の日』は今かもよ?」
『変化の日』。水曜日に成し遂げられなかったこと。つまり、謝罪をすること。
「俺も……言い過ぎた。すまない……!」
「おおー、兄貴~~! 外でその言葉を発するのは10年ぶりだね!!」
「「10年も謝罪しなかったの!?」」
ミハヤとヒカリが驚いた。内容と数字のインパクトが強すぎる。
「あ……いや……ミヅカにだけは……」
ミヅカにだけは、昔のように接して……。そういうことは言いたくないし、とても言えない。リョウは、そう思っていた。
そんなリョウを、ミハヤはこう捉えた。
「やっぱり、シスコンね……まぁ、好きであることは悪くないよ。今後も、いろんな意味で仲良くして行けばいいよ。エッチな意味でもね」
「「どういうことだよ!?」」
((まさか……ねぇ……??))
ミハヤとヒカリが笑っている。ミヅカも笑っている。リョウは、かなり恥ずかしながらも、少しばかり口角が上がっていた。
物理の授業中。リョウは文系の教科の能力はズタズタだが、理系の教科は完璧である。それは、学者も驚く程である。おかげで特待生。しかし……
(こんな授業あってもな……『発見』がないんだよな……俺にとっては退屈だ……ん?)
ここで、思考を割り込むように聞こえてきた地鳴り。クラス中がざわつく。リョウのクラスには、自分以外の望団員はいない。
(まさか……また……)
すると、聞きなれないブザー音が鳴る。
『緊急。緊急。非日常事案発生。職員は、生徒を安全な場所に避難させよ。繰り返す。職員は……』
「なんだ?『非日常』って」「ニュースで言ってたっしょ。でかい何かのアレ」「うっそぉ!? また来たの??」
皆が混乱している。教師は、これを落ち着かせようとする。その時、リョウが……
「黙って待ってろ。すぐに済むから――」
デバイスを装着し、走って外へ向かった。クラス全員が止めようとしたが、リョウの足が速すぎて、誰も追いつけなかった。
ミヅカもその騒ぎの先に兄がいると考え、自分の教室を飛び出てリョウを追っていくも、人混みのせいで辿り着けなかった。
(兄貴……なんで私を置いて……)
「既に集まっているか」
団員全員がここにいる。
「とにかく、アレを倒すしかないね」
視線の先には、海から迫り来る巨大なタコがいる。
「みんな、行きましょう!」
ボタンを押し、レバーを倒す。光が消えた時、7人が例の姿になっていた。
「さぁ、始めましょう。リョウ君は……」
「ここの指示は俺がする。ミハヤとヒカリで奴を撹乱させ、それを俺達5人が潰していく。これでいく」
サユリの話に割り込むように、リョウが指示をした。
「もう……ここはリョウを信じていきましょう!」
「「「「「はい!」」」」」
「始めるぞ」
作戦開始。八幡と若松の間の海である洞海湾で、大きなタコが暴れている。墨で工場をダメにし、船を叩き壊したりと、やりたい放題だ。そこに……
「遊ぶならこれで遊んで!」
船がたくさん宙に浮いて……いや、これはヒカリが放った『光学幻覚』だ。それに踊らされるタコ。それをミハヤが攻撃していく。
しかし。タコが暴れて、海水がどんどん溢れていき、周辺に被害が出始めた。そこで……
「ミユ、海水をそのままタコに返してやれ」
「よし、任されたっ!」
溢れる海水を、ミユが操る。操れるのは水だけなので、塩などは残るが、それでも被害は軽減される。操った水を、タコに全力でぶつける。その水をぶつけられたタコは、水の中に消える。
「終わ……った?」
「っぽいね」
そうして、ミハヤ以外の全員が変身を解除するが……
(これだけで終わる? そんな訳が……)
ミハヤの予想は、見事に的中した。水の中から、勢いよくタコが飛び出て、鉄道の高架線を破壊する形で着地した。
「うっそだろ!?」
「リョウ、あと1時間待たないといけないの?」
「仕方がない……風のデバイスを取ってくる。それまで――」
そう言って、リョウが全力で坂を登っていた。かなり速い。自転車のような速さだ。
「どうしろって言うの!?」
みんな変身できない。絶体絶命か。しかし……
「私だけでも……やるしか!!」
「「「「「ミハヤ!?」」」」」
「解除していない……。さすがミハヤちゃん……すごい勘」
ただ1人、変身を解除しなかったミハヤ。ミハヤは、暴れ回るタコに近付く。
「活きがいいね。鮮度を保ったまま、殺ってあげる」
杖の先端から巨大な魔法の塊が出来上がっていき、放たれる。タコは裏返しになり、足をバタつかせる。
その時。
「ッ!? この感覚っ……あの時の……ヤバい…………でも……」
頭痛。そして、目が光り、点滅する。少しずつ、点滅の間隔が短くなる。
「ミハヤちゃん! 変身を解除して! タコは移動できないから! リョウが来るから! 変身を!」
ヒカリが叫ぶ。あの時の様なミハヤを見たくない。自分を見失い、ただただ攻撃するだけの機械にはなって欲しくない。そう叫ぶ。
「ヒカリぃ……今戦わずして……何に……」
うずくまるミハヤに、ヒカリが……
「あーもう! 頑固なミハヤちゃんは嫌い! そんなに戦いたいなら、その力と戦ってよ! それが出来ないなら、もう……戦わないで…………どうするの………………?」
ヒカリが怒った。そして、泣き崩れた。そんなヒカリの肩に手を当てつつ、サユリがこう言った。
「『自分』を見つめて……。素晴らしい自分を。最高な自分を。思い描いて。恐れないでいいから――」
「恐……れるな……」
恐れるな。ミハヤは、その言葉の意味を考える。途切れそうな意識の中で。
(今まで……色々逃げてた……あの時も……逃げて逃げて逃げ続けてた……そんな自分が嫌だった……だから…………だから………………)
「変わるッ!!」
ミハヤは、うずくまった状態から、しっかりと立ち上がった。目の光は……消えている。
逃げていた自分。
そんな自分は嫌い。
だから変わる。
変わってみせる。
変わることが出来るのなら、今の状況からも……!
「もう、見失わない。もう、逃げない。だから――――」
レバーを動かす。
「呑まれろ……」
杖の先を天に向け、必殺技を放つ。
「ハザードホール……!」
天から巨大な渦巻が現れ、タコだけを吸い上げる。その渦巻は、消えてなくなった。タコごと。
「これで……おしまいね」
その瞬間、ヒカリがミハヤに抱き着いてきた。
「ミハヤちゃん! すごいよ……! 本当に……!」
「もう、逃げないから。あの時の自分とは……別れる。私は頑固だから、この心は揺るがないよ?」
そこへ、風のデバイスを使用したリョウが到着する……が。
「ざーんねんでしたー! 私が片付けましたー!」
「なっ!? 暴走を抑えたのか……!?」
困惑するリョウに、全員が頷く。
「そうか。すごいな。よくやったな……」
「褒めてる。あんたって、一応、人を褒めることは出来るんだね」
「どんだけ俺が淡白だと思ってんだよ」
ミハヤが、闇の力を使いこなした。恐れることは……きっと無いはず。