Phase3-1 闇光、暴走
水曜日。この日の放課後は、勧誘ポスターを作っていた。
(『一緒に戦おう!』……それだけで集まるわけがないだろうが……)
リョウは、面倒臭そうに印刷室に行こうとする。
と、凄い音が聞こえてくる。バッサバッサと羽の音。外を見る。そこに飛んでいたのは……
「スズメ!?」
大きなスズメ。とにかく、団員全員が変身する。窓から氷の道をタツヤが作り、その上を走る。しかし。
「飛んでる奴は、刀では厳しいぞ……」
タクミが察した。飛び回るスズメ相手に、刀で戦うのはあまりにも不利である。とここで、
「私が行く!」
ミユが水流を作り、スズメの上まで移動する。
「倒すッ!!」
レバーを前に動かす。
「ツインアクアッ!」
また、名前付きの技が出てきた。2つの銃から、凄まじい勢いの水流が出る。それがスズメを貫いた。スズメが堕ちる。直後に、スズメの生体反応は消えた。
「いよーし!」
ミユは、かなり嬉しそうだ。
少しして。
「日曜日のアレといい……なぜ技に名前を付ける?」
リョウには分からない。技に名前をつける意味があるかどうかなど。
「かっこいいじゃん。なんとなく」
「同意だ。カッコ付けると気分がいいんだよな。やっぱり」
「「はははははははは!」」
ミユとタクミが笑う。
「そうなんだ……」
「あら、そう……」
タツヤとサユリは苦笑い。
「……全く」
リョウはいつものように呆れる。と、ドアをノックする音が。
「はーい。今行きまーす」
ミユがドアを開けると……
「望団加入希望です。さあ、早くしてください」
いきなり、望団に入れろと言ってきたのは、2人の女子だ。1人は胸がなく、1人はリョウ並に……よりも少し高い程度だが、背が低い。
「ちょっと……ミハヤちゃん……いきなりそれは……」
「カッコつけさせてよ」
2人が小声で話していると……
「面白いですね、あなた達。入れましょうか」
「「「「えぇ!?」」」」
即決。どうやら、入るなら誰でも良いらしい。
2人がデバイスを取る。紫っぽい色をした物と、黄色っぽい色をした物。それぞれ、06と07と記されている。
「うわぁ……06は……1番危険だぞ……」
リョウが「最悪だ」と言いそうな顔になる。
「何でさ」
胸が無い女子が聞く。
「それは闇の属性を持つ。01から07まででただ一つ、物理も科学も関わらない何かで構成される。簡単に言えば、魔法に近い。何故か出来たものだが」
魔法という単語に、胸なしが反応した。
「今日から魔法少女ね。そういうのは好き」
胸無しは、かなり嬉しそうだった。と、ミユが乱入する。
「ちょっと待ったー! 名前を聞かないと! 名前も知らないのに、いきなりこんな話はしないでしょ!? 普通!?」
「あー……そうね。私は南沢ミハヤ。んで、そっちの背が小さいのは南田ヒカリ」
胸がない方が、ミハヤ。背が小さい方が、ヒカリである。
「気にしているのに……よろしくね」
「よろしくー!」
早速仲が良くなった、ヒカリとミユ。ミハヤは……
「話の続き。これの何が危険なの?」
「このデバイスには、体に大きな負荷がかかっても大丈夫なように、安全装置はある。他のにもあるが。」
今回は、ちゃんと言えた。ミユ達は、ほっとした。
「なら、いいじゃない?」
「いや……闇の奴だけは……他に1つ危険性がある。それが……」
「何?」
その場にいる全員が、固唾を呑んで話を聞く。
「自我を失い、敵味方関係無く攻撃する可能性があることだ」
それを聞いた瞬間、その場にいた全員が固まった。
「何それ? よくある『暴走』ってやつ?」
「ああ。そうだ」
これはかなり危険な代物だと全員が認識した。敵味方関係なく攻撃。あまりにも恐ろしいワードだ。
「とりあえず、自我を失わなければどうにかなる。ただ、負荷で集中が途切れて、自我を失うことがある。その時に……」
「暴走する……ね」
その時、間隔を開けて地響きが。なにか跳ねている感じがする。窓から外を見ると……
「今度はバッタかよ」
巨大なバッタが、北附方面へと跳躍しながら接近していた。
「まだ1時間経ってないぞ!?」
1時間。デバイスを使って、また使えるようになるまでには、最低でもそれぐらいはかかる。
「私たちの出番ね。行くよ。ヒカリ」
「分かった。2人で出来ないことなんてないから!」
ボタンを押す。ミハヤは紫の光、ヒカリは黄色い光に包まれる。そして……
「「Go! Rising Street! 」」
掛け声とともにレバーを倒す。今までのリョウたちと同じ感じで、2人は変身する。ミハヤは杖を、ヒカリは弓を持つ。
「闇と!」
「光の!」
「協奏曲!!」
2人が……その姿はどんどん増えていく。増える。増えに増えていく。その姿は、8人、16人、36人……
どこを見ても、ミハヤがいる。どこを見ても、ヒカリがいる。
「何!? 分身!?」
みんな混乱する。
「これは……光情報を弄り回して、何人もいるように見せているのかな?」
タツヤが説を出すと……
「おそらく正解だ。あいつら、結構凄いな」
リョウが感嘆した。
「ミハヤちゃん! 全部のミハヤちゃんの分身から、攻撃するように見せ掛けるから、それに合わせて!」
「よし分かった! ドンと来い!」
大量のミハヤの分身から、紫の光がでる。あまりにも情報が多いので、バッタが混乱する。そして……
「喰らえぇぇぇぇ!」
本物の攻撃がバッタにヒットする。バッタの片足が吹っ飛ぶ。
「弓に魔法を乗せていこう! ヒカリ? OK?!」
「OK!」
「「共に奏でる!!」」
2人が高速移動を開始する。
「何であんなに速く!?」
ミユがリョウに質問する。
「光のデバイスには、移動能力を大幅に上昇させる能力がある。それを使ったか」
「訳わかんない」
ミユは、リョウの説明を全く理解出来ていない。
「ミハヤちゃん、真ん中に追い込むから、上から思いっきりね!」
「分かった!」
ミハヤは、戦闘地点の中心の上空に移動し、ヒカリはレバーを動かす。
「輝く!」
高速移動しながら、弓と矢を用意する。
「ライトニングコロッセオ!」
残像で出来た壁から、光の矢が無数に放たれ、その全てがバッタに当たる。そのままバッタは真ん中へ。そして、ミハヤもレバーを動かす。
「呑まれろ!」
ミハヤの目が黄色く光り、魔法弾が大きくなる。限界まで大きくなったとき、
「ハザードメテオォォォォォッ!!」
ミハヤが、巨大な魔法弾を放つ。魔法弾が隕石のようにバッタに当たる。バッタは、非常に大きな圧力に耐えきれず、爆散した。その生命反応は消滅した。
「「――やはり、出来ないことは無かった」」
「いい感じにアピール出来たね、ヒカリ」
「そうだね、ミハヤちゃん」
そう言って、変身解除……しようとした時。
「んっ……ぁたまがっ……っ……ぁっ……」
ミハヤが、苦しそうに頭を抱え出した。
「ミハヤちゃん!? どうしたの!?」
リョウが慌てて走ってくる。ミハヤの目は、黄色い光が点滅している状態だ。
「すぐに解除しろ!! このままでは!!」
「ぁぁあああああああ!!! ッ――――」
治まった……と思ったその時。
「…………………………」
「ミハヤちゃん!? 何で!? 私だよ!?」
ミハヤが、突然ヒカリを攻撃した。目が黄色く光り続けている。ヒカリの叫びには、応えない。
「まずい! 今すぐにミハヤのデバイスのレバーを元に戻せ!!」
「わかった!」
暴走したミハヤは、さっきよりも強力な攻撃力を持つ。ヒカリが近付こうにも、直ぐに殴り飛ばされる。
「ダメ! 強すぎて……手が出ない……!」
(くそ……デバイスの回復時間はあと10分程……そこまで1人で戦わせるのも申し訳ないし……どうすれば……)
リョウは、どうすればいいのかと悩み続けた。
その時、そこに割り込むように誰かが攻撃してきた。
「全く……何をしているの? 仲間割れ?」
「お前……!」
アヤカだ。おととい、00のデバイスを持ったまま帰っていた。使っている武器は、槍。
自我を失ったミハヤは、優先的にアヤカを襲う。
「これだと……これしか無さそうね。リョウ? 攻撃したら死んでしまうかしら?」
「いや、そのようなことは無い。だがそんなこと……」
「今は非常時。やるしかないでしょう? 手加減はするわ」
そう言って、アヤカがレバーを動かした。
「――――すまない」
槍の先から、光線が出る。ミハヤはそれを正面から受け、変身を解除された。
「んん……あれ……記憶が……」
「ミハヤ~~! 大丈夫!?」
ヒカリがミハヤに抱きつく。
「うん。――――あれ? その装甲の傷……まさか、私……暴走してた……?」
全員頷いた。
「これは……何と言えばいいか……」
リョウが、言葉を濁らせる。
「ごめんね。次はこんなことが無いようにするから……」
ミハヤが、申し訳無さそうに謝った。
このまま、今日は解散となった。タクミとタツヤが自転車で帰る。
ミハヤとヒカリが帰りの電車の中で話し合う。リョウ達とは違い、折尾方面だ。
「ごめんね、ヒカリ。多分……ガッツリ襲ってる」
「大丈夫。何ともないから。というか、どういう基準で暴走するのかな……」
「自我を失うって言ってたよね。だから今回の件も、知らずの内にやっちゃったのかな……」
「うーん……」
悩む2人の元に、サユリがやってくる。
「お悩みのようですね。出来るところまでなら、相談に乗ってあげますよ?」
ということで、ミハヤが質問する。
「あー……その……『自分』って何ですか?」