Phase2-2.55 双子の妹が見る夢
「おやすみー」
「おやすみ。ミヅカ」
双子は眠りにつく。そして、夢を見る。
ミヅカの夢。
ここは2月の横浜だ。幼いミヅカと、姉の2人が歩いている。
「あねきー。すごくさむくない?」
冷たい海風が、2人の肌を刺激する。
「もう……ミヅカったら。リョウを真似るようになったね」
「へへー。あねき♪ あねき♪」
ミヅカは楽しそうに、姉の腕にしがみつく。
そこに、幼いリョウがやってくる。
「全く……待っていてくれって言ったのにな。あんまり離れていなかったからいいけどな。というか、少しはこいつらを持ってくれよ」
両手には、大量の袋。服とか、食材とか、何とか……。かなりの数だ。
「男の子って言われたいなら、それぐらい持ちなさいよ」
「あーもう。わかったよ姉貴。持ってやるよ」
リョウが嫌々、大量の袋を持ち続ける。
家に帰ってきた。家とはいっても、親の都合で、川崎にある叔父の家に泊めてもらっている。
「おじいちゃーん!リョウのニモツ持ちキロクこーしんだよー!いちにーさん……8袋だ!」
「ぐはぁ……お前たち……持たせすぎだろ……何が記録だ……1つはくっそでっかいクマのぬいぐるみ入りだぞ……」
リョウが倒れ込んだ。かなり疲れている。
「お疲れ。リョウには後で、ご褒美の唐揚げを作ってあげる。もちろん、ミヅカにも作ってあげる」
「ああ。悪いな。ありがとう」
「あねきのからあげー♪」
その時、叔父が姉を呼び出した。
「ユウカ、少し手伝ってくれんか。襖の上の方を開けてくれ」
ユウカ。それが、姉の名前。
双子が信頼する、時々ドジだけど、頼れる姉。
元気で、とても明るく、時々かっこいい。そんな姉。
「今行くねー! 唐揚げ、待っていてね。リョウ、ミヅカ」
「「はーい!」」
「んん……夢……姉貴ぃ……姉貴……ああ……」
ミヅカが上を向く。ユウカとリョウとのスリーショット写真がある。その横には……
「もう……いないんだよね……」
笑顔のユウカの……
――遺影があった。
「本当に……誰が……やったんだろう……」
ユウカは、10年前に殺された。犯人は不明だ。
綺麗な遺体を目の当たりにしたあの日、霊安室で、父が送ったとある手紙を貰った。その内容は……
『お前達に言っておく。お前達も狙われている。東京から離れた福岡に俺の親族がいる。そこに匿ってもらえ。俺たち親に会うな。また狙われるからな。俺たちを憎むなよ。捨てたわけじゃない。逃げたわけじゃない。覚えておけ。』
これを読んだ時、2人とも絶望していた。そんなことも思い出した。そして、今があることも。
静まり返った街の光を見て、再び眠りについた。
「おはよー……う!」
「おはよう……ミヅカ。いつもの朝飯が戻ってくるな」
「よっしゃー!」
2人とも感情を抑えて、月曜の朝を迎えた。
(姉貴……あれから兄貴の性格は、180度変わってしまったけど……少しずつ元に戻していけるように……姉貴の代わりにはなれないけど……憧れた姉貴のように……がんばるから……!)
双子の妹はそう決意し、双子の兄と学校に行くのであった。