Phase2-2 疲労、誤解
学校まで戻ってきた団員は、生徒会室にいた。全員、かなり疲弊していた。
「あーもう。駅前まではバスだからいいけど……そこから学校までは徒歩だから……」
ミユが愚痴を言った。この学校は、かなり急な坂を登った先にある。徒歩で行くにはかなり大変である。
「こんなに疲れないでしょ……」
皆は、今回は何かが違うと思った。いくら入学直後で慣れていないとはいえ、こんなにも疲れない。
歩いたから? そうではない。ならば、2年間ここを歩き続けたサユリは疲れていないはずである。しかし、全員疲弊していた。
とここで、サユリが話を切り出した。
「まあ、いいでしょう。さて、活動を見せたところで勧誘の続きを……」
勧誘を続けるその言葉に、リョウが苦言を呈した。
「まったく、そんな手口で乗ってくる奴がいるものか。もう一回、計画を練り直せ……んひぃ!?」
リョウの声が裏返った。その理由は……
「リョウく~~ん? 戦闘中はタメ口とか、命令形はいいけどねぇ~~? 普段は、しっかりと……敬 語 を 使 い な さ ぁ い ? ね ぇ ?」
威圧と殺気。タクミとタツヤも、それを察知した。
「ちょ……あの人を怒らせない方がいいな。タツヤ……」
「あれは……そういうタイプの人だね。互いに気をつけよう」
タツヤとタクミがコソコソ話し合っていると……
「んん? どぉしたのかなぁ?」
「「なんでもありませーん!!」」
2人の背筋が伸びる。2人も、恐ろしい威圧と殺気を感じた。とそこに……
「リョウ、あなた……何しているの? なんか人がいっぱいいるけど」
アヤカがいつの間にか、生徒会室にいた。
「何故そこにいる。いつから居た」
「あなたがビクビクしているところからよ。全く……子供みたいね」
「なっ!? お前なぁ……」
子供みたいだ。背が低いリョウにとって、その言葉はやはりタブーである。
「子供だと!? ふざけるな! クール気取りの勘違いおばさんが!」
「ちょ!? いくらなんでもそれは失礼極まりないわね!?」
背が結構高く、髪の長いアヤカ。そこまでおばさんという訳では無いが……やはり、『おばさん』は禁句だ。
リョウとアヤカの言い争いは、もはや子供の喧嘩。小競り合い。団栗の背比べだ。と、サユリが……
「どっちが勝つなぁ~~? あなた達はどう思う?」
「「「えっ???」」」
何を言っているんだこの人は。ミユも、タクミも、タツヤもそう思った。どっちが勝つとか、喧嘩にあるのだろうか……。3人ともそう思っている。
「まぁ、見ていましょうか……」
数分後。
「全く……聞き分けのないガキね……」
「お互い様だろう……これを毎年、数回は繰り返してるんだぞ……もう飽きた」
「じゃあもっと楽しくいこうかしら……あなたのこれ、頂こうかしら?」
「……は?」
ケースを指さして、アヤカが「頂く」と言った。
「1個だけにしてあげる。優しい人と思いなさい」
そうして、ケースを勝手に開け、00と書かれたデバイスを手にした。
「どこが優しいんだ。……それで何をする気だ? ってお前! それは……!」
リョウが非常に混乱している。少し震えている。
「これがどうしたって? 何を言っているの。あなたが作ったものなのに」
「それは……プロトタイプだ。あぁ……入れてるんじゃなかった」
プロトタイプ。言うなれば、試作機。
「これの何が何なの?」
「01から07までの力を使えるものだ。試験的に7つ突っ込んだんだが……それの負荷はあまりにも大きいぞ……? 下手したら内臓が吹っ飛ぶことだって……普通のやつでも、内臓がおかしくなる可能性があるしな。使いすぎると体が持たないかもだしな……」
「「「「「はぁ!?」」」」」
内臓がおかしくなる。かなり物々しい事が告げられた。
それを聞いた瞬間、リョウ以外の団員が、慌ててデバイスを外し……
「リョウ!? これ……返す!ごめん!」
「うーん……怖いから返すわね。ごめんなさい」
「おいおいマジかよ……命は一番大切だ。別のやり方を探すしか無いかもしれないな……悪い。」
「やっぱり……胡散臭いものには手を出さない方がいいかな。すみません」
デバイスを返却した。内臓が吹っ飛ぶとか、おかしくなるとか言われたら、誰でもやる気をなくしてしまう。
「お前ら……何故……」
リョウはかなり焦っている。そこに、教師が来た。
「お前達、今日は帰りな。明日は最初の授業だから備えておいた方がいいぞ?」
言われるがままに、リョウとアヤカ以外は帰ってしまった。申し訳なさそうな顔立ちをして。
「2人も帰りな。ハッスルはさせんぞ?」
教師が、冗談半分で帰宅を促す。
「するわけないでしょう……こんな奴と」
「仕方ない。ここで帰るか」
言われるがままに、2人も帰った。アヤカがデバイスを持ったまま。
「「あっ」」
枝光駅は、電車がいるのがよく分かる構造をしている。今、上りも下りも発車したことも丸わかりだ。
「あなた、小倉方面でしょう?」
リョウが、小倉方面に行く電車を目で追っていたので、どの方面で帰るのかが分かった。
「ああ。そうだ。だから何だ?」
「少し話を。 流石に今の状況はまずいから」
「……分かった。ここは争う場面ではないな」
駅の、少し端の所で話を始める。
「一応、これは持ってきたわ」
そう言って、00のデバイスをアヤカが取り出した。
「結局取ったのか。それよりも……どうすればいい?」
リョウは、この件は1人では解決できないと感じている。
「あなたの説明不足の癖が招いた結果ね。いきなり体が持たなくなる訳では無いでしょう? あんなに戦っておいて」
一応、アヤカはナメクジ戦を見ていた。
「よく分かったな。健全な状態で使ったのであれば、言ったようなことが起きる心配は無い。俺が言ったのは、体調が不安定な時の場合だ。だが、体が持たなくなりそうな時は、デバイスが判断して自動解除するシステムを備えている」
話を聞いたアヤカは思った。本当に説明不足だと。
『2番のりばに、17時38分発……』
駅の放送の後に、電車が来た。2人が乗り込む。
「どこまで?」
「門司だ」
「そう。私は小倉。そこに着いたら、そこで話はおしまいね」
あと、約10分間の会話が始まる。
「まずは、どう説得するか。ここから始まるわね」
「どうすればいい? ミユなんかは特に、1度覚えたことはなかなか忘れないし、覚え直そうともしないからな」
戸畑に着いた。リョウが、説明不足が招いた結果に後悔しながら、話を続ける。
「あの子は最後ね。ほかの3人を優先的に回っていきましょう。話しやすいのはタツヤとタクミ……と言っていたかしら。その2人ね」
「タクミなんかは間違いなく理解してくれるはずだ。ノリノリで望団に入ったしな」
「望団とは一体何かしら?」
九州工大前に着く。アヤカは望団を知らない。
「あー……望団は、サユリがいきなり作った、『非日常』と戦う集団のことだ。俺は乗り気ではないが」
「そう。とりあえず、まずはタクミからね。タクミさえ説得できれば、タツヤも説得できる可能性があるわ。あの2人は仲が良さそうに見えるし」
「そうするか。次にどうする?」
西小倉。次は小倉だ。時間が無い。次の課題を聞く。
「謝罪。誤解を招いたのならば、そうするのは基本中の基本よ? あなたにそれが出来るかは分からないけどね」
「うっ……そうだな。謝罪なんて……姉貴とミヅカにしか……」
小倉に着く。ドアが開く。
「ではここで。この先は、あなたが決める事ね」
「……ああ。そう……だな」
人が、車内に沢山入り込んで来る。そしてドアが閉まる。
(ここは……ミヅカにも質問してみるか)
リョウが帰宅した。
「おっ、兄貴おかえりー」
元気よく迎え入れるミヅカ。
「元気になったか。良かった。――――話がある。少し付き合ってくれないか……?」
「いいよー。兄貴の悩みなら、なんでも聞いてあげる」
その内容は、例のことだった。
「あぁ……兄貴が私と姉貴に謝罪することはあったけど……他の人にしたところを見たことは無いね……」
「だから、どういう感じで謝罪すればいいかで悩んでいる」
「そこは私に任せなさーい♪」
――話が終わった。そのまま、おかゆを……
「もう熱は引いたか。それに日が経ったし、元気だしな。明日から学校に行けるはずだし……ハンバーグでも作ってやるか」
「おっしゃー♪♪」
ミヅカは物凄く嬉しそうに椅子に座った。
(こいつは変わらんな……。なんか嬉しいな。変わらないように……頑張らないとな)
気付いたらリョウの目から少しだけ、涙が出てきていた。
(兄貴? なんで泣いてるんだろう? 玉ねぎかな? まあいっか)
ミヅカは、その涙の意味を知らぬまま、ハンバーグが出来上がるまで待っていた。