Phase1-2 初陣、突撃
リョウがヒーロー物に出てきそうな姿になった。
腰にある、銃っぽい物からコードを引き出して、左腕にプラグらしきものを挿し、銃を構える。その銃口をカマキリに向け、
「――――潰す」
銃の引き金を引く。銃口から光。その銃口の先にいるカマキリは撃たれたらしく、後ろに仰け反る。着弾したと思わしき場所から煙が出ている。さらに、少し燃えているようにも見える。
「え? どうゆうこと!?」
ミユは、やっぱり状況を掴めていない。当然である。いきなり巨大なカマキリが出たと思ったら、知人がいきなりそれを攻撃しているのだ。そんなこと、理解できるはずがない。
その光景を、逃げてきたり聞きつけて来た、他の生徒や住民もそれを見て、
「すげぇ!」「なんだこいつ!?」「ガンバレー!!」
かなり興奮して、これを見ている。まるでヒーローショーの応援みたいなことをしている人も居た。
リョウは、カマキリを何回か撃ってから、
「これで……終わらせる」
そう言って、右腕の機械のレバーを倒す。そして引き金を引き続ける。爆音と共に、銃口にエネルギー弾みたいなのが出来ていく。それが時間が経つに連れ、大きくなる。そしてバランスボールぐらいの大きさになったとき、
「散れ。面倒かけさせるな」
弾が目で追えない勢いでカマキリに当たった。そのカマキリが爆散した。これで終了……のようだ。
「「「うおおおおおおお!!!」」」
みんな興奮している。動画を撮っている者もいる。SNSに投稿する者も。ただ、ミユは……
(え? リョウが? 何が何だか……わからない……)
混乱している。未だに訳が分かっていない。そして、何かに気付いた。
「あれー? リョウ? どこ?」
リョウがいない。どさくさに紛れて帰ったのだろうか。
(仕方ないなぁ……。一応住んでいるところの予想はしているけど……行ってみよ)
場所は変わって、門司駅。在来線における、九州の玄関口である。彼女はそこに来た。
(門司……ここの近くにリョウが……んっ!?)
彼女が見たのは、薬局から出てきたリョウだった。何かを買ったようだ。
(やはり見立ては合っているみたい……よし、ついて行こう♪)
ミユはリョウを追いかけた。その様は、まるでストーカーである。
(誰か……見ている……か?)
リョウは誰かが自分を見ていると思ったが、気のせいということにして、そのまま帰る。
少しして、リョウが住んでいる、駅前のマンションに着いた。ミユもそれを確認した。
(うげっ!? オートロックか……)
オートロックは、こんな人間がいるから存在する。まさに、その具体例である。
何かを思いついたのか、ミユは一旦自宅に戻り、何かの準備を始めた。
(これでいいね。ここからの仕送りが今日届くから……)
リョウが帰宅し、自宅の玄関のドアを開ける。
「ミヅカ、帰ってきたぞ」
「あーおかえり。ごめんね。迷惑かけて」
「こんな時にインフルなんかにかかりやがって……」
「兄貴が移したくせに」
「――すまない」
西原ミヅカ。リョウの双子の妹。双子だからか、容姿はリョウに似ている。見た目の違いは、髪型がツインテールであることぐらいである。
リョウが、昼食と夕食の準備を始めた。作っているのは、おかゆだ。
「まーたまたおかゆ? ハンバーグがいいなー」
「当たり前だ。ハンバーグなんか、今のお前には刺激が強すぎる。今日明日ぐらいは我慢しろ」
「ぐらいって……2週間ぐらいおかゆじゃん。兄貴がかかってから」
と、その時。チャイムが鳴る。
「私が出るねー。はーい」
インターホンのモニターには、宅配便の業者が映っていた。
「宅配便です。西原リョウさんは居ますでしょうか?」
「いますよ? とりあえず、来ていいですよ」
「分かりました。……ぇへへ」
「???」
宅配便が来た。ただ、少し様子がおかしい。
「誰だ? ミユなら拒否しておけよ?」
「宅配便。例の仕送りじゃない?」
「あーあれか」
リョウ達は、訳あって北原家から仕送りを貰うことになっている。食品とか、お金とかが主だ。
そして、業者がドアをノックした。
「お前は部屋に戻っておけ。インフルを移したら面倒だからな」
リョウがドアを開けた。その瞬間。
「まんまと騙されたね! 突撃いいいいい!!!」
「ッ!? なんでお前がッ!?!?」
ミユが、化けの皮をはがすように、業者の服を脱ぐ。そして、ドアに手をかけて、ドアを閉められなくした。
ドアを閉めたくても、ミユが手を突っ込んでいるので、閉められない。おまけに、ミユの力が化け物になっていき、ドアがどんどん開いていく。
「今日は聞きたいことがたーっぷりとあるから……全部答えるまで帰らないよ?」
かなり息を荒くして、ミユが帰らない宣言を言い放ったところで……
「チッ……仕方ない。入れ」
リョウが折れた。
「よっしゃー! おっじゃましまーす!」
ミユが部屋に転がり込んだ。まさにゲリライベント。
案の定、リョウは呆れている。ミヅカは……
「おっ、ミユ! やっぱりリョウに対する執念はすごいね!」
とにかく嬉しそうであった。