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プロローグ

『クッキーと少年』


 あるところに、クッキーを作るのが得意な少女がおりました。彼女は町のみんなからクッキーと呼ばれて親しまれていました。


 ある時クッキーがお菓子づくりの材料を集めに湖へ出かけると、見知らぬ少年がひとりでぽつんと立っていました。


「どうしたの?迷子になったの?」


クッキーが話しかけると、少年は「そうなんだ。ここはどこだい?」と困った顔で言いました。


「ここは町外れの湖よ。私が町まで案内してあげるわ」


二人は一緒に町までやってきました。初めて見る顔に町のみんなは興味津々です。


「どこから来たの?」

「わからない」

「名前は何というの?」

「覚えてないんだ」


どうやら少年は、ここに来る前のことをすっかり忘れてしまったようでした。


「じゃあ、君は何のお菓子なんだい?」


少年はきょとんとして、「お菓子ってどういうこと?」と聞き返しました。

町の人たちはびっくり仰天!なんと、この少年は人間の子どもだったのです。


 たちまち町は大騒ぎになりました。町人たちに連れられてきた町長さんは、人間のお客様が来たことをたいそう喜び、彼の歓迎パーティーを開くことに決めました。


パーティーの準備をする間、クッキーはこの国について少年に教えてあげました。

ここはシュクリアが住んでいるお菓子の国。この国に住んでいるのは体がお菓子でできているシュクリアたち。


他の町に人間が来たことがあるという噂を聞いたことはあるけれど、ここに人間が来るのは初めてということ。

シュクリアはお菓子が好きな人間が大好きだということ…。


「だから、あなたが来てくれてみんなはとても嬉しいのよ!」


 いよいよ準備が整って、広場でパーティーが始まりました。

色とりどりのお菓子やジュースがテーブルの上に並びます。山積みのクッキーを作ったのはもちろんクッキーです。

たくさんのお菓子を食べて、少年は嬉しそうでした。


クッキーが言いました。


「私ね、いつか自分の作ったお菓子を人間に食べてもらうのが夢だったの」


「君の作ったクッキー、とってもおいしいよ」


少年がそう言って、クッキーはとても喜びました。


「ところで、君からとても甘いにおいがするね。もしかしてシュクリアって…食べれるの?」


少年の言葉にクッキーは笑って答えました。


「だめよ!食べたりしないでね。だって私たちも人間を食べたりしないもの」




そして、少年がお別れを言いました。




 やがて夜が来て、月がのぼり、星がキラキラ輝き始めると、少年の体がまばゆく光り始めました。

あっという間に少年の姿は粉砂糖のような細かい光の粒になって消えてしまいました。


 町のシュクリアたちは少年との思い出の記念にお菓子でできた彼の像を作って広場に飾りました。


 それからというもの、クッキーは夜になると、夢を叶えてくれた少年を思い出して幸せな気持ちになりながら眠りにつくようになったのでした。



おしまい




─『よいこの童話集』シュクリアと人間の章より



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