その1以外にも、まだまだ、こんなにありました
断片的なメモを並べただけですが、そのウラに流れている地域性、時代性は、十分感じ取れる
材料がふくまれていると信じます。
教育のあるべき姿の一例と見て下されば幸いです。
エピソード15
T:ロバっちゅうのは、どんなものじゃ?
S:馬の小さいような………。
T:そうそう。
S:到津遊園におる。
T:それは知らんなあ。
S:私、乗ったことがある!
T:へえ、それは、ロバがかわいそうな………。
S:それ、ひょっとして………。
T:うん?悪気はないよ。気にするなよ。ただ、思った通りを、正直に言っただけだから。
エピソード16
S:先生、今日は熱があるけ、掃除には、行けんかもしれんよ。
T:ふーん。
S:ムリでも出て来い、ちゅうていいうて言うてくれんの?えらいあっさり認めるやん。
T:ムリして、運動会の本番に出られんようになったら困るやろう。ムリはせんでもいいさ。
T:まあ、先生っち、やさしいねえ。だけ、好きっちゃね。
エピソード17
(「手で触ることもできない抽象的なもの」の例をあげてみよう、という授業の時)
S:空気!
T:手で、空気には触れるんじゃないか?あまりいい例じゃないなあ。
目には見えないで、わかりにくくて………。
S:おなら!
T:? たしかに、目にはみえないよなあ。けど、わかりにくいかなあ。
S:すぐわかる!
S:だれがしたかは、わからん時もある。
T:もっといい例を出してくれんかなあ。男子クラスでは、もっと品のいい例が出たぞ。
S:どんなの?
T: こっちで言ってもいいか?………せっかく平常点をかせぐチャンスなのになあ。
S:しかたがない。
T:よし、時間がもったいないから、こっちで言おう。
男子クラスでは、友情とか、愛情とか、もっとロマンチックな答が出とったぞ。
S:どのクラスのだれ? そんなことを答えたんは。
T:だれやったかなあ。だれだと思う? まあいいや、そんなことは。
ほんとうは、自由とか、正義とか、平和とか、そういう例を出してもらいたかったんやがなあ。
エピソード18
T:コピーライターってのは、どんな仕事をする人か、知っているか?
S:?
T:じゃあ、糸井重里つちゅう男は知らんか?
S:?
T:徳川埋蔵金さがしの番組に、石坂浩二といっしょに出とったやろうが。
S:?
T:じゃあ、樋口可南子っちゅう女優は知らんか?
S:?
T:ほら、熟年ヘア・ヌードで話題になったろうが。
S:ああ、ベータ・カロチンの宣伝にでよる………。
T:そうそう。あの樋口可南子っちゅう女優の亭主が、糸井重里っちゅう男で、もともとは、コピーライター
なんやがなあ。
どんな仕事か、聞いたことがないかなあ。
S:CMを作るみたいな。………
T:うんそうそう。ようわかったねえ。
S:なんか、テレビドラマであったから。
T:ああ、そうそう。松田聖子が出とったなあ。何というドラマやった?
S:「私ってブス?」
S:うん、あんたって、ブス。
エピソード19
(黒板に「人類みな兄弟」と書いた時)
S:先生、そんなら、先生と私も兄弟?
T:あんたのお母さんと、オレの母親とがおなじ女性だとか、そういう意味じゃあないよなあ。けれども、あんたのお母さんのお母さんの、そのまたお母さんというように、何百年も、何千年もさかのぼって、オレの母親の方も、それくらいさかのぼると、あんたもオレも、同じ女性の子孫になゆかもしれんよ。遺伝子にも、かなり共通な部分があったりしてね。
もっと何万年も、何十万年もさかのぼると、すべての人類が、みな、兄弟というか、親戚というか、血とつながりがあるはずだ、ちゅうことだよね。
だから、肌の色が違っていても、民族が違っていても、兄弟みたいに仲よくしましょうという呼びかけの言葉やろうねえ、これは。
エピソード20
T:こんなの、何というんだ? ほら、ほんとうは、音はきこえないのに、聞こえるようような気がする………
S:ゲンチョウ!
T:漢字、書けるか? 黒板に書いてころらん。………よし!正解!筆順まで正しく書いた。エライ!
この耳の所はね、まちがえる人が多いんだけどね。実は、私も小さい時に、まちがって覚えてね、
今も、うっかりすると、まちがって書くんことがあるんだ。
S:先生が、そんなんでいいん?
T:そら、よくはないさ。ただ、一度しみこんだクセは、悪いとわかっていても、なかなか、なおらんという
いい例にはなるわなあ。
若いうちは、悪いクセを、身につけんように、せにゃあね。
エピソード21
T:「自己欺瞞」とは、自分で自分をだますっちゅうことやが、わかりやすい例をあげると、どんなことやろ
うかなあ。
S:ブタ肉を食べて、これは牛肉やぞ、と、自分に言い聞かすようなこと。
T:うーん、何々したつもりで、貯金しとこう、という人 がおるが、それに似とるなあ。
それも自己欺瞞の一種やろうなあ。
S:自分は、ほんとうは、頭がわるいのに、わるくない、わるくないと、思おうとすること。
T:うん、うん。それもよかろう。
S:お化粧をして、私って、キレイ、キレイって、自分に言い聞かせるようなこと。
T:ああ、それもよかろう。どれも、体験がにじみ出とるなあ。
エピソード22
(質問した生徒に向かって、一生懸命説明していたら)
S:先生、一人の顔ばっかり見るのは、えこひいきやんか。みんなの顔をみながら、話をしてよ。
T:質問した人がわかってくれるかどうか、顔を見ながら説明しとるんやないか。えこひいきなんかじゃない
。
(それから5分くらいして)
S:先生、私が質問しとるのに、無視しとるよ。
T:そんな、マトはずれな質問には、一々、答えんでもいいの。授業の流れがくずれてしまうわい。
エピソード23
(生徒に作文を書かせながら、前の時間に書かせた作文の添削をしている時、つい、こっくりしていたら)
S:先生、いま、こっくりしたねえ。見たよ。
T:見られたか。いま、〇〇(生徒名)の作文を読んどったんやが、これが、あんまり、おもしろないからやろう
なあ。
S:また、ひとのせいにする!
エピソード24
S:先生、お願いがあるん。
T:?
S:私の就職が決まっとる会社の人が、近いうちに、学校に挨拶に来るっちい。それでね、その時には、私の
ことを、まじめな、いい子ですっち、言うといてくれん?
T:うーん。オレは、ウソはつききらんなあ。ほんとうのことを言うとくよ。
エピソード25
(いつもお化粧をしている4人組が、服装検査の日、ノーメイクで出席していたから、授業が済んだ時)
T:きょうは、おまえたち、とってもきれいだよ。中から、若さがにじみ出ているよ。これからも、お化粧な
んかするなよ。若さが消えて、かえって、不潔に見えたりするから。
S:?
エピソード26
(全然別の生徒のことだが)
S:先生、先生、さっき、となりのクラスの子に、お化粧が何とか言いよったやろう。なんち言いよったん?
T:ああ、あれか。あれはね「お化粧をするのは何のためか? 男の子に声をかけてもらいたいからじゃないか? けれども、お化粧をしている女の子に声をかけてくるような男の子は、ほとんど、遊び目当てだぞ。そんな男と付き合っていると、ほんとうのシアワセなんか、つかめなくなるぞ」っち、言うたんよ。
S:ああ、そんな話やったん。私、わかるよ、わかる!
エピソード27
S:この学校に合格した時、近所のおばちゃんから、あんただけはヤンキーみたいになりなさんなよ、っち、いわれたけね。
S:あら、私もよ。
T:へー、まだ、そんなイメージがあるのかなあ。前から比べたら、ウチの生徒は、服装なんか、見た目は、うーんとよくなったと、思うんだけどねえ。
S:やっぱり、化粧なんか、厚塗りのケバイ目立つ子が、何人かいますよ。入学してすぐ、私、びっくりしたもん。
T:オレ、この学校に来て13年目だけどね、それでも、前よりは、たしかに、よくなってるぜ。
S:生き字引みたいなもんやね。
S:そんなら先生、Fって生徒を覚えています? 私の親戚なんやけど。
T:家は〇〇(町名)かね?
S:いいや、□□(町名)。
T:じゃあ、おれのクラスの子じゃあないわなあ。アッ、思い出したよ。おとなしい…………。
S:いえ、そんなことない。(学校名)に行ったら、ハデになった!っち、私、びっくりしたんやもん。
T:いや、そんなにハデじゃなかった。ウチの生徒はホンネをすぐ口に出すから、そういう意味では、遠慮のない子ではあったけどね。ハデというほどじゃなかったと思うよ。
それで、親戚っちゅうと、あんたたちは、従姉妹かなんかになるわけ?
S:そう、そぅ
T:へー、それじゃあ、遺伝子もかなり似ているはずなんやが、見た目は、ちょっと違うねぇ
あんたの方が、顔立ちは整っているよ。自分でも、そう思うやろう?
S:うん、もちろん!
エピソード28
S:先生、今日はカッコいいねえ。
T:ネクタイしとるからやろう。
S:ネクタイする時は、いつもその色やねえ。
T:うん、こいつはシワがよらんし、安いし。800円くらいの安物なんやけどなあ。
S:へー、そうも見えんけどね。
T:着る人がいいからねえ。
S:下が直線で切れとるやん。普通のネクタイとは、やっぱー、違うよ。
T:あんた、さすが、するどいねえ。
S:今日は、何かあるん?
T:県の教育委員会から、偉い人が来るんだって。
S:いつもとおりの姿を見てもろうたら、それでええやないの。
T:授業は、いつも通りやるよ。けどなあ、ネクタイしとらん教員がおったら、校長が「しっかり指導せい」ちゅうて、叱られるらしいんだ。校長がおこられるのは、かわいそうやからなあ。私のネクタイは、校長に対する思いやりよ。
S:そんなん、おかしいやない? ネクタイしとろうが、しとるまいが、人間の中身は変わらんはずなのに。
T:その通りだよ。けれども、中身より、見た目をだいじにしようという考え方をする人も、世の中には、おるんやで。
S:そら、おかしい。
T:早い話、あんたが恋人を選ぶ時、見た目は気にせんかか?
S:私は気にせん。面喰いやないもん。
S:イヤ、私は気にする!
T:見た目を気にする人のほうが、うーんと多いんだよ。それが、世間というものさ。
ある程度は、そんな世間に、調子を合わせにゃならん時もあるんだよ、大人の世界には。
エピソード29
(どうしても漫画家になりたいという子に、なれるはずがないと忠告したら)
S:もし、私が漫画家になったら、先生、どうする?
T:サインをもらいに行くわ。
S:よーし、そんなら、絶対、漫画家になってみせるけね。せんせいにサインをもらいに来させるけね。
T:そら、楽しみなことじゃ。ストーリーやアイディアに行き詰まったら、そうだんにのってやるけな。
そのかわり、その漫画が売れるようになったら、オレにも、アイディア料を半分よこせよ。
この次は、男子クラスでの対話の例を提示してみようと思っています。