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prologue.元・彼と彼らの日常

この日本っていうのは平和だなぁ。と常々思う。

特に紛争もなければ日本国憲法が公布されてからは戦争とはほぼ無縁(とは言うが実際はどうなのか俺には分からない)。治安も良い方だと聞いたこともあるし(それが本当かは疑わしいのだけど)、事実今はとても平穏だ。

屋上から見上げる青空のなんと穏やかなことか。日本に生まれて良かった。


「燈縁君。今日のお弁当はどうだった?」

「最高。みほるちゃん愛してる。もういつでも嫁においで。」


視界の端にはほぼ一カ月ほど前漸く付き合いだした怪人と、それに見初められた大きいお友達が好きそうな容貌の少女とのラブコメが絶賛上映中だ。

こうやって怪人の注意が彼女に向けられたことに俺は心底ほっとしている。俺にはもう面倒見切れないね。彼女なら燈縁を難なく操縦できることだろう。

子育てが一段落した主婦とはこんな気持ちなのだろうか。ここに子離れの寂しさの表現を入れたら完璧母親なんだけど、如何せん俺は完璧母親ではないから子離れを寂しいと思う気持ちは微塵もない。逆に清々した。


「幸せだ。」


もうカレカノ宣言した彼らの間に俺は必要ない。燈縁に捕らわれない生活………

うん。最高だね。

お前はツンデレか、と思った画面の前のお前。若しくはお前らかもしれないけど、お前は何もわかってない。

さっきから言ってる様に、燈縁は怪人だ。俺の記憶が確かなら、あいつは2、3回猛獣を締め上げている。更に教科書の内容覚えるために教科書を丸呑みしたこともある。本人はケロッとしていたし、何より本当に全部覚えた。

保健室で寝ていた(この時はまだ他人だった)みほるちゃんに添い寝したり、その他たくさんの常識離れの行動…。

ある意味で自分本位。つまり我儘なのだ。自分の思い通りにならなければ思い通りにさせるという強引さで、燈縁は本当に思い通りにさせる。だから怪人。

我儘な人間と付き合って疲れるのは当然のこと、俺はすっかり疲弊してしまった。もともと無かった体重が更に減って増えなくなる程度には疲弊したのだ。責任とってもらいたい。


「というわけで俺の体格がヒョロイのは完全にお前のせいだからね?」

「え、それは遺伝じゃねーの?俺様かんけーねーもん。」


…でっかい男がもんは正直気持ち悪いだろ。うん。ありえない。ついでに俺がやってもありえない。都ちゃんや古野坂さん位の可愛い系美少女じゃないと、ね。

と噂をすると、屋上の扉(鍵は勿論俺様怪人の燈縁に武力介入してもらった)の陰に都ちゃんの姿。彼女は明るい場所が苦手なのだ。


「…。」


おろおろとしている辺り、『入っていいのかな…?』という感じで迷っているのだろう。俺の後輩である都ちゃんはいい子だが人付き合いがとことん苦手なのだ。


「都ちゃん。」

「…先輩…!」


んー…あれは、笑ってるんだよね?喜んでる。表情が解りやすい燈縁とちがって都ちゃんはとっても解りにくい。ちゃんと笑えば可愛いだろうに、損してる気がするよ。都ちゃん。


「…谷さん。こんにちは。」

「あ…古野…坂先輩…こん…にちは。」


因みに、古野坂さんは都ちゃんにコンプレックスを抱いているらしい。それは体型の…ね、女の子は複雑だ。

都ちゃんは燈縁のことを先輩だと思ってるんだから気にしなくていいだろうに。そういう訳にいかないのが元ヤンデレの古野坂さんなんだろう。彼女はその昔、恋人を刺したことがあるらしい。燈縁は古野坂さん一筋だから今はデレデレみたいだけど、俺以外の奴が燈縁に近づくと彼女を中心に気温ががくっと下がる。勿論天変地異でも何でもない。


「…すかー…!…飛鳥ー!」

「…ん?」


屋上の扉を勢いよく開けいきなり現れたのは比企村守基。涙目で登場だ。彼が涙目で登場する理由なんて只一つ、


「比企村ってば俺のことそんなに嫌い?」

「うん嫌い!」

「奇遇だね俺も。」

「俺様も。」

「ふぇーん!飛鳥ーっ!」


濯宮禊が追いかけて来るからだ。

守基は弄られ体質で、俺も時折、燈縁と濯宮には毎回弄られている。

燈縁ならば近寄らなければ万事問題なしなのだが、濯宮はそうはいかない。

濯宮は守基を弄るために学校に来ているようなものだから、探し出してでも弄りに来る。

で、守基は俺に懐いているため避難場所は必然的に俺となり、こんな感じになる。

あとは俺のその後の行動により3パターンに分かれる。守基が勝つか濯宮が勝つか燈縁が横からかっさらうか。


「樋口。その吸血鬼もどきこっちにちょうだいな。」

「いや飛鳥俺によこして、新・でこピン15連打の試し打ちに使うから。」

「飛鳥…っ!!」


吸血鬼もどきというのは、血が大好きな守基への揶揄いの愛称で、本人は立派な人間だ。ただちょっと血を舐めたくなる変態なだけで。

…っと、今はそんなこと考えている場合じゃないんだった。


「飛鳥ぁー…!」


俺の制服の裾をぎゅうっと握る守基、それを虎視眈々と狙う濯宮と兎に角でこピンがしたい燈縁。

そうそう、言い忘れてた。守基が勝つか濯宮が勝つか燈縁が横からかっさらうかの3パターンに分かれるって言ってたけど、大概は予鈴が鳴ってタイムアップ。つまり引き分けだ。

俺が決めかねているからじゃない。二人して来るのが遅いのだ。予鈴の2分前じゃすぐに終わる。

そうして、今日も予鈴が鳴る。軽快な音楽が鳴り響く。


「あーあ。また引き分けか。つまんないのー。」

「あぅあぅ…よかった…僕は今日も生還したよ…っ!!」

「よし比企村、放課後だ。放課後教室で新・でこピン15連打の試し打ちやるぞ。」

「やだぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁああぁ!!!!!!!!」

「ひ、燈縁くん…明日チャーハン作ってあげるから…ね?」


明日はどうなるのか、それは彼らの足の速さと明日の俺の機嫌のみぞ知る。

何はともあれ、今日のお弁当タイムは終了、各自片付けに入る。

次の時間はなんだったっけ?確か日本史だった気がする。


「飛鳥!明日は俺様の大好物チャーハンだって!」

「はいはいよかったねー。」


明日は明日でまた同じような感じなんだろうな、と他愛のないことを考えながら、俺は紙パックのいちごミルク豆乳カフェオレを飲み干した。




その翌日、俺の人生を大きく変える出会いがあることを、俺は知らない。




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