05話 青藍の祓魔師 ~インディゴホーリーキャノン~
「……して」
街灯はおろか、月の明かりさえ届かない路地裏の片隅――家路を急ぐ男を捉えたのは幽けき声。
けれど振り返った男の視界に映ったのは、どろりとした闇を湛えた通い慣れた道だけ。
「気のせい、か?」
首を傾げ再び歩き出す男。
コツコツ、コツコツ――ズズッ、ズズッ――コツコツ、コツコツ――ズズッ、ベチャッ――
明らかに自分のものとは違う何かの出す音に慌てて振り向く男。けれどそこに見えるのはただひたすらに闇ばかり。こみ上げる不安に男が走りだそうとした、その時――
「かえ……して」
再び闇から聞こえてきた声。それは泥水が布にしみ込むように男の耳を侵す。早く逃げろ、心はそう訴えてくるというのに、なぜか男は振り向いてしまった。
「かえしてよぉぉぉぉぉぉ!!」
そこにいたのは――――
※ ※ ※ ※
シロルディアでの漆黒の記念碑騒動から一週間。まだまだ心も腰も癒えきっていないというのに……
ドドドン酒場の事務所で今日も一人、積みあがる書類と格闘していたジェルド。彼はその中から一枚の指令書を手に取ると眉間にしわを寄せ、ため息とともに憤りを吐き出した。
「墓荒らしぃ? ったく、ふてぇ野郎もいたもんだな」
傷ついた心と体を愛しの祖国で癒す予定だったというのに、その肝心のアトラスではジェルドが帰ってくるのを待っていたかのように妙なトラブルが発生していた。
しかし慢性人手不足のアトラス諜報部、今日も今日とて事務所にはジェルド一人。すなわちその任務も――
「頼むからよぉ、ホント頼むからよぉ! ちゃんと普通の墓泥棒であってくれよ……」
おそらく届かないであろう願いを光の神に祈り、ジェルドは死んだ魚のような目で天を仰いだ。
夏は盛りを過ぎ、いよいよ嵐の季節到来。もちろんここアトラスも例に漏れず嵐はやってきていた。おそらく今夜は大荒れになるだろうと、町の人々は対策に追われていた。
そんな強い風が吹きつける中、ジェルドがやって来たのは町はずれの共同墓地。今回墓荒らしの被害に遭ったのはこの共同墓地のみで、警備の厳しい王族や貴族の墓所は今のところ無事だった。しかしいくら被害者が庶民だけで被害数こそ少ないとはいえ、遺体が盗まれるというおぞましい犯行内容とその不明瞭な目的が危険視され諜報部に回ってきたのだ。
「ったくよぉ、いってぇ何が目的なんだ?」
荒らされていたのはいずれも最近埋葬されたばかりのもの。それも男性ばかり。副葬品などは一切手をつけられておらず、それは犯人の目的が遺体そのものだと物語っていた。
しかし現状、まだわからないことが多すぎる。ひとまず現場の確認を済ませると、ジェルドはその足で王城へ向かった。
「あらぁ、いらっしゃぁい! なぁに? 今日も新薬の実験に付き合ってくれるのぉ~? 今回のはねぇ――」
魔法薬研究室室長セルダ。
女言葉を使うがれっきとした妻帯者でしかも子持ち。ただ残念なことに実験バカで、彼にとっては己の体も他人の体もすべからく実験動物。実子でさえ研究対象なのだ。けれどその実力は折り紙付き。しかも情報通ときている。
頼りになるが最も頼りたくない男、それがセルダ・ルビカス。
「ばっ、ふざけんな! 俺はレイと違って好きでお前の人体実験に付き合ってるわけじゃねぇんだよ!! 毎回毎回さりげなく盛りやがって……って、それは置いといてだな。ちょいと聞きたいことがあるんだよ」
「人体実験とか盛るとか失礼ねっ! 承諾取るのがちょぉっとだけ後になっちゃっただけじゃない。そうそう、また新しい薬を――」
「それを盛るって言うんだよ! なあ、お前さんは墓荒らしの件って知ってるか?」
危険極まりない横道に逸れそうになった話題を素早く軌道修正し、ジェルドは本題を切り出した。
「あ~、あれでしょ? 共同墓地から新鮮な男の死体だけが盗まれてるっていう」
「知ってんなら話は早ぇ。なあ、お前さんならその死体、何に使う?」
「ふふふ。それ、アタシに聞いちゃう~? アタシだったらそぉねぇ……」
ジェルドの質問にセルダは意味深長な笑みを深くすると一言、「再生利用」と答えた。
「はぁ? なんだそりゃ。再生利用ったってよ、死体だぞ。いってぇ何に使うってんだよ」
「たとえばぁ……死を恐れない、死なない兵士を作る、とか」
セルダの回答にジェルドの顔がしかめられた。
「死なない……もしかして不死者、死霊魔術か? だとすると、死霊魔術師なんてレアもんがこのアトラスにいるってことか? 滅多に表に出てこない、あの引きこもりどもが?」
「さあ、どうかしらぁ? でもね……」
一拍置いたあと、セルダの口角が三日月を作りあげる。
「死体を再利用できるのはね、何も死霊魔術師たちだけじゃないのよぉ?」
セルダの言葉に凍り付くジェルド。その言葉の意味するところは――
「まさか、魔法薬でも……」
まるで「正解」とでも言うように微笑むと、セルダは机の上に置いてあった一通の便箋を手に取った。
「ローズマリー、アトラスに戻ってきたみたいよぉ」
瞬間、ジェルドは膝から崩れ落ちた。
「この手紙ねぇ、今朝届いたのよぉ。いつの間にか、アタシの机の上に直接。お城の警備、ちょっと見直した方がいいと思わない~?」
まるで他人事のように笑いながら城の警備について語るセルダ。しかしジェルドはそれどころではなかった。
ローズマリー――その名前にいい思い出など一つとしてない。そう、断固としてなかった。
ジェルドの脳裏をよぎったのは如意棒と化した己の相棒、分裂増殖した己の相棒、そして気持ち悪い変態忍者。
「嫌だ! この任務、俺は降りる!! もうアイツらには金輪際関わりたくねぇんだよぉぉぉぉぉ!!!」
ジェルドの魂の叫びが魔法薬開発室中に轟く。けれどその悲哀に満ち満ちた咆哮はセルダによって無情にも一蹴された。
「バッカねぇ。ローズマリーたち相手できるのなんてアンタしかいないじゃない。それにアンタが出れば指名手配中のマゾッホ・クラフトも現れるでしょ~。ふふふ、頑張ってお国のために働いてねぇ」
結局、仕事中毒なうえ律儀な性格もあいまって、ジェルドはそんな任務でさえも放り出すことができなかった。嫌々ながらもローズマリーの手紙に目を通すと、心底疲れたようにがっくりとうなだれた。
「お前らはよぉ……何で性転換薬だの天狗湯だの、ろくでもねぇもんばっか作り出すんだよ」
「やだぁ、決まってるじゃない。だって、アタシたちは研究者なのよぉ」
当たり前のことだと笑うセルダに、ジェルドはもう何も言えなかった。
ローズマリーの手紙に書かれていたのは、天狗湯を改良する過程で思わぬ副産物ができたということ。そしてせっかくなので、件の試薬を添付したということだった。その薬の名は――
反魂湯
反魂――死者を蘇らせる。
しかし完全なる死者蘇生など存在しないこの世界でそれが意味するのは、不死者と呼ばれる化け物を作り出すということ。希少な魔術だが、死霊魔術というものもこの世界には存在するのだ。
「せっかくのあの子からの厚意だからぁ、ちょ~っと分析してみたんだけどぉ……これ、と~んでもない代物よぉ。死霊魔術の魔法薬。さっすがローズマリー、ってとこかしら。これを新鮮な死体に振りかければあら簡単、あっという間に動く死体のでっきあっがり~」
けらけらと笑いながら説明するセルダにジェルドは本気で頭を抱えた。指名手配犯の関係者からの手紙、それに添付されていた怪しすぎる薬、それらを上に報告していないのだ、この男は。
「お前、これって服務規律違反じゃねぇのか?」
「ど~せこの魔法薬の分析うちに回ってくるんだからぁ、手間省いただけよん。そうそう! でね、ちょうどアタシも新しい魔法薬作ってたのよ~」
話が再びセルダの試作魔法薬に戻り、ジェルドの顔が盛大に引きつる。
「これも神のお導きってやつかしら? あ、でも今回の薬、ぜ~ったい役に立つわよぉ!」
そう言ってセルダがつまみ上げたのは、青藍色の液体が入った小瓶。
「というわけで、今回はアタシも同行させてもらうんでよろしくね!」
突きつけられた(おそらくまたもやこれから訪れるであろう)社会的な死刑宣告に、ジェルドの心は風にさらわれる砂山のように儚く崩れ落ちた。
※ ※ ※ ※
無数の雨粒とうねる暴風が、閑散としたドドドン酒場の窓を絶え間なくノックしている。嵐のために今夜は客足もほとんどなく、先ほど最後の客が帰ってしまい今は開店休業状態。従業員も帰してしまったので、黒い窓に映るのはフォークやナイフを磨くしかめっ面のジェルドと浮かれたセルダの顔だけだった。
「うふふ~、楽しみだわぁ。早く現れないかしら、ローズマリーたち」
「不吉なこと言うんじゃねぇよ!」
「ははは、不吉だなんてひどいな、ジェニー」
カウンターから聞こえてきたその声にジェルドの肌が一気に粟立つ。
「逢いに来たよ、ファム・ファタール。さあ、今夜も私を楽しませておくれ!」
カウンターに腰かけて両腕を広げているのはマゾッホ・クラフト。なぜかジェルドにご執心の、絶賛指名手配中の変態犯罪忍者。
「出てきてんじゃねぇよ、空気読め! そんで二度と出てくんな!! あと俺はジェニーじゃねぇっつってんだろうが!!!」
心底嫌そうに叫ぶと、ジェルドは磨いていたフォークをマゾッホの眉間めがけて投げつけた。
「ははは、相変わらず照れ屋さんだね、ジェニーは」
風を切って飛んできたフォークを、わずかに体をずらしただけでにこやかに避けたマゾッホ。渾身の力と思いを込めて投げたフォークは、残念ながらカウンター後ろの棚に刺さっただけだった。
ニコニコとうさん臭い微笑みを浮かべたまま、マゾッホは軽い足取りでカウンターから降りる。そのまま降り注ぐジェルドからのフォークとナイフの鬼雨を踊るようにかわしながら、彼は酒場の扉を開け放った。
「ああそれと、今夜の遊びはちょっとばかり汚れると思うんだ。後の掃除が大変だろうから、おすすめは外遊びだよ」
「ふざけんなっ、まちやが――」
振り返り意味深長な笑みを浮かべたマゾッホは、後ろ向きのまま真っ黒に塗りつぶされた風雨の中に消えてしまった。
「へぇ~、あの子がマゾッホね~。にしても……ぶふっ、ファムファタ……ジェニーって――」
「うるせぇ、いいから追うぞ! なんかわかんねぇけど、ここを荒らされるのは冗談じゃねぇ!!」
マゾッホを追って酒場から飛び出したジェルドの全身を雨風が容赦なく苛む。薄暗い通りにあるのは頼りない街灯の明かりのみ。けれど、それで十分だった。そこに蠢く者たちを照らし出すには……
「おいおいおい、マジかよ」
「やーだ、千客万来!」
吹き付ける雨風の中、闇に蠢くのは覆面忍者たちと墓場から盗み出されたであろう被害者たち……の成れの果て。
血色の悪いくすんだ肌、空ろな白濁した瞳、そして辺り一帯に漂うのは強烈な屍臭。
「かえしてぇ……」
「かえしてよぉ……」
ゾンビたちのねっとりとした怨嗟の声がジェルドへと一斉に注がれる。しかしなぜかゾンビたちは、扉の向こうから様子を窺っているセルダにはまったく興味がないらしい。恨めし気な無数の眼差しがジェルドにじりじりと迫ってきていた。
「なんか、なんかよぉ。こいつら、おかしくねぇか? なんつーか、なんなんだろうな……」
くねくねと気持ち悪い動きで迫りくるゾンビたちに、ジェルドはなぜだか本能的な危機を感じて思わず後退った。その時、暗闇から姿を現したのは……
「ローズマリー!」
さすらいの狂科学者ローズマリーだった。
「お久しぶり……って言ってもそんなに久しぶりでもないかしら? あ、でもセルダはお久しぶり! 元気だったぁ?」
「やだぁ、ローズマリーってばお久しぶり~! ちょっとアンタ、あの反魂湯ってすごいじゃない!!」
困惑するジェルドを無視し、再会を喜び合う二人のオネェ狂科学者たち。
「でもあの反魂湯、まだまだ未完成なのよ~。ちょっとだけ欠点があってねぇ……」
「欠点~? なによぉ、もったいぶらないで教えなさいよ~!」
きゃっきゃとまるで、少女が恋を語らうような調子で物騒な会話をかわすローズマリーとセルダ。するとそこへローズマリーの後ろから一人の忍者ゾンビが進み出てきた。
「返してよぉぉぉ、アタシの相棒ぉぉぉぉぉ!!」
忍者ゾンビの意味のわからない訴えに思わずたじろぎ、ジェルドは反射的にさらに後退った。
「試作反魂湯はねぇ、何でか男にしか効かないのよぉ。でもってぇ、使うともれなく股間が腐り落ちちゃってねぇ、み~んなオネェになっちゃうみたい。そうするともうこいつら、頭の中は失った男の尊厳を取り戻すことしかなくなっちゃうみたいでぇ、すっごく使いにくいのよ~」
ちょっとした笑い話のように残酷な真実を告げるローズマリーに、ジェルドの背筋と股間を戦慄が走り抜けた。
「なにそれぇ~、ローズマリーってばひっどぉい。ふふふ、こぉ~んな面白いもの見せてもらっちゃったらぁ、アタシもお返し、しないとね~」
直後、ジェルドの首にちくりとした痛みがはしった。
「あ!? てめ、セルダ! おい、今の……」
振り返ったジェルドの目に映ったのは空になった注射器と、前に見せられた青藍色の魔法薬とはまた別の水色の魔法薬の小瓶を持って満面の笑みを浮かべたセルダだった。
「いいから、いいから。それに言ったでしょぉ、ぜ~ったい役に立つって! あ、それとこれも飲んでね。じゃないとアンタ、死ぬから」
言うが早いか、セルダは水色の魔法薬の小瓶をジェルドの喉奥へと容赦なく突っ込んだ。反射で飲み込んでしまったジェルドがせき込みながらセルダを睨みつける。
「お前、いったい何してくれやがっ――!?」
刹那、猛烈な尿意と烈々たる灼熱がジェルドの股間を襲った。
「な!? クソッ、こんな時に!!」
とっさに前かがみになったジェルドを、セルダは胸をそらし得意げな顔で見下ろす。
「さあ、アタシの作った聖魔法薬の効果、やつらに思い知らせてやっちゃいなさい! そしてアタシに臨床データをちょうだいな」
嬉々としたセルダにくるりと反転させられ、再びローズマリーや忍者ゾンビたちと向き合ったジェルド。彼の股間はもう今にも爆発しそうな緊急事態に陥っていた。
「待て、このままだとマジでヤバい!! ほんっとにヤベェんだっ――」
しかしジェルドの悲痛なる訴えは、無情にも股間の相棒には届かなった。雄々しく神々しく勃ち上がる相棒。その姿はあの赫赫の焔神に長さこそ及ばないものの、太さは実に三倍以上。目前の敵に向かいそそり勃つ威風堂々たる姿は、まるで黒光りする巨大な砲身のよう。
「ホーリーキャノン、発射ぁ!」
かわいらしく片足立ちのポーズで忍者ゾンビどもを指さしたセルダが号令をかける。直後、砲身と化したジェルドの相棒から青藍に輝く砲弾が発射された。
「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
絶望の絶叫が響き渡る中、放たれた砲弾は嵐を切り裂き、のろのろと迫ってきていたゾンビたちを貫いた。
「いやぁぁぁぁぁん」
「ダメ、逝っちゃうぅぅぅぅぅぅ」
「ああああ、奥までそんな、しゅごいのぉぉぉぉ」
気持ち悪い断末魔を上げながら昇天していくゾンビたちを見てセルダがガッツポーズをとる。
「やった! 成功、大成功!! 排せつされる水分を聖水に変換して加圧発射する魔法薬、名付けてホーリーキャノン、完成よぉ~!」
人前での強制排泄という鬼畜羞恥プレイを強いられすでに心の大半が死にかけていたジェルドは、きゃっきゃと喜ぶセルダに虚ろな瞳で「ホーリーキャノン……」とオウム返しすることしかできなかった。
「ほらほら、まだまだゾンビちゃんたちはいるわよ~。ローズマリーの反魂湯が勝つか、アタシのホーリーキャノンが勝つか! 幸い今夜は嵐。ホーリーキャノンの原材料の水には事欠かないなんて、ジェルドってば本当にラッキーなんだからぁ~」
呆然と立ち尽くすジェルドと憤然と勃ちあがる相棒。その様はまるで上半身と下半身が別々の意思を持った生き物が如く。となれば魂の抜けてしまった上半身など成す術もなく、あっという間にいきり立つ下半身に引きずり回され始めた。
血気盛んな相棒は篠突く雨を貪欲に吸収し、光り輝く青い弾丸へと変えると蠢くオネェゾンビたちを駆逐していった。
※ ※ ※ ※
全てのオネェゾンビたちを片付けた頃にはマゾッホもローズマリーも姿を消してしまっていて、またしても骨折り損な結果にジェルドは心も体もすっかり燃え尽きてしまっていた。
――もうだめだ。死んだ。社会的に死んだ……
放心していた時には気付けなかったが、全てが終わった今ならジェルドにもわかった。あちらこちらから注がれる、痛いほどのいくつもの視線に。いくら嵐の夜とはいえ、ここは繁華街の中。明らかに嵐とは別の物音に、不審に思った付近の住人がジェルドの奮闘を鎧戸の隙間から覗き見ていたのだ。
「死んだ……俺はもう、死んだ…………」
「やぁねぇ、心配することないわよぉ~。覗き見てる住人たちで、アンタが酒場のオーナーだって気付いてる人間なんて一人もいやしないんだから」
自信満々なセルダの物言いに訝し気な顔を向けるジェルド。そんな彼にセルダは、「自分の体、よく見てみなさい」と言うとにやりと笑った。
慌てて己の体を見るジェルド。青藍に輝く変わり果てた相棒の姿、そして同じく青藍に染まった腕や足……
「ね、わかった? 今のアンタ、どう見ても人間には見えないから」
「助かった……って、おい!! これ、ちゃんと戻るんだろうな!?」
「しっつれいね、ちゃぁんと戻るわよぉ。おそらくあと数時間、てとこかしら?」
町の人々にあの騒動の主が自分ではないとばれていないと分かった途端、ジェルドの目にはみなぎる生気が戻ってきた。
「じゃあ俺はしばらく雲隠れさせてもらうからな! 後始末は任せた!!」
「え!? ちょっとぉ!」
不満気に口を尖らせたセルダなど知るかとばかりに、ジェルドは一目散にその場から逃走した。
※ ※ ※ ※
荒れ狂う嵐の夜、暗闇に走る稲妻のような青光の軌跡が起こした奇跡。後に目撃者たちはそれを、口をそろえてこう言った。
――かの祓魔師は全身を青藍に染めあげ、輝く聖なる青の弾丸で不浄の者を滅した、到底人とは思えぬ異形の者だった、と――
謎に包まれたさすらいの祓魔師、人々は彼をこう呼んだ。
青藍の払魔師