04話 七色の幻夢(ごちゃまぜコラボレーション)
三作品のコラボになっています。
詳しくは「https://ncode.syosetu.com/n8790dn/80/」で分かります!!!
今回のこのお話も詳細バージョンが上記のURLで読めますぞ☆
こちらはジェルド視点になってます(^^)
今日も今日とてあのクソ鬱陶しい変態野郎に絡まれて、やっとの思いで事務所へと戻ってきてみれば!
「くそっ……あの野郎! 何で毎回毎回こう面倒なことに俺を巻き込みやがるんだ!!」
今、俺の目の前に広がってるのは見覚えのねぇ乾いた大地。生えてるのは背の低いいわゆる灌木、遠くに見えるのはやたらきれいなエメラルドグリーンの海と白い町並み……
って、おい! どう見てもここアトラスじゃねえよ!! アトラスはこんなに乾いた気候じゃねぇし、木だってもっとこう生き生きとしてるっつーか……とにかくこんな場所、ドドドン酒場の中はおろかアトラスには絶対ねぇよ!!
なのに! なんで事務所のドア開けただけで俺はこんな場所に放り出されたんだ!?
「意味が分からねぇ」
思わずしゃがみ込んで頭抱えちまったけど、俺は悪くねぇ。悪いのは世界の方だ。そうだって言ったらそうなんだよ!
なんてこんなとこで止まってても仕方ねぇよなぁ……
「やっぱあそこに行く……しかねぇよなぁ」
俺は深い深い、肺の中の空気全部吐き出す勢いで深いため息をついてから、仕方なく腰を上げた。そしてふとした違和感を覚え手の中を見る。
「何だこりゃ?」
俺は右手にいつの間にか見覚えのねぇ青い石を持っていた。まるく磨かれた石はやたらキラキラしてて、俺には全く似合わない代物だ。こんなもん、いつ手にした?
思い返してみるが心当たりがない。あの変態と戦ってた時にでもつかみ取っちまったのか?
「ま、考えてもわかんねぇもんは仕方ねぇな。とりあえずあの町に行ってみるか」
日は照っちゃいるが、空気が乾いてるせいかそんなに不快さは感じねぇ。バカンスにはいい場所だけどよ……強制バカンスはさすがになぁ。たまってる仕事、どうしてくれんだよ。
※ ※ ※ ※
「おい……ここはいってぇどこなんだ? アトラス、じゃねぇよなぁ」
やっと町についたんだがよ、やっぱり俺はこんな場所知らねぇよ。アトラスはこんな統一された色合いじゃねぇしな。なんつーかもっと、こう高層建築もあって都会的っつーか、とにかくカラフルなんだよ。こんな真っ白な町、アトラスには存在しねぇ。
「このままじゃ埒が明かねぇな。言葉、通じるといいんだが……」
アトラスの周辺国ならまあ何とかなるけどよ、さすがにこんなわけのわからんとこの言葉は手に負えねぇ。つか、いまだにここがどこの国なのか見当もつかねぇ。
そんなことを考えながら町をふらついてたら、なんとなく目に入った店舗があった。
「ここでいいか。店舗みてぇだし、商売人の方が外国人に慣れてんだろ」
どうやら服飾店らしいその店の開けっ放しの入口に近づくと、俺は青いドア枠を軽くノックした。
「すまねぇ、ちょっと聞きたいんだが……」
あふれる服の中からガタイのいい金髪の優男が出てきた。瞬間、俺の背筋を悪寒が走り抜ける。
「あら、いらっしゃぁい」
ヤベェとこキタァァァァァ!
ヤベェ、ヤベェよ……コイツ、ヤツらと同じニオイがする! この喋り方、絶対セルダとかローズマリーの同類だろ!!
言葉が通じたとかそんなんどうでもよくなるほど嫌な予感がする。
「すまねぇ、なんでもねぇ……」
逃げるが勝ち。コイツには関わっちゃならねぇ。絶対に、絶対にだ!
けど、遅かった。慌てて踵を返して撤退しようとした俺の手首を、いつの間に移動したのかヤツががっちり掴んでやがった。
「はずかしがらなくても大丈夫。ウチはね、アナタみたいな人の味方よ」
なんかよくわからねぇが優男は訳知り顔でうなずいてやがる。何が大丈夫なんだか俺にはちっとも意味がわからねぇ。
「さあ、みんな! 出番よ!!」
「ま、待て!! 違っ――」
よくわからんが、とにかくコイツを止めろと俺の勘が訴えてた。そしてその勘はどこまでも正しかった。
ヤツの呼びかけに奥の方からごっついやつらが「はぁ~い」とか言いながら湧き出してきやがった! おい、こいつら全員ヤバい匂いしかしねぇんだけど!?
犬の頭のオカマに普通のオカマ、なんか耳が尖ってるオカマに美少女にしか見えねぇヤツが約一名。合計四人のヤバいやつらに囲まれた。
「安心して! アタシたちがうーーーんとかわいくしてア・ゲ・ル」
「お化粧なら私にまかせなさい! あなたのかわいさ、引き出してみせるわ」
「さ、奥に行きましょ。アナタに似合う奇跡の一着、選んであげるから」
「あ、ちょっとだけ痺れるけど我慢してね」
美少女(?)から突如生えた翅に気を取られてたら、なんかキラキラした粉かけられた。……と思ったら体が痺れて動かなくなりやがった!! 何だアレ!? 薬剤耐性のある俺が一発でやられたぞ!?
そっからは地獄タイムの始まりだ。あれよあれよという間に身ぐるみはがされ、あまつさえまた女物の服を着せられた。やたらひらひらふわふわしたミニスカートのワンピースだよ、今度は! しかもご丁寧なことに胸元にでっけぇリボンと花までついてやがるときた。
「あとはお化粧ね。はーい、目ぇつぶってぇ~」
犬頭のオカマに頭を固定され、ただのオカマに何やら色々塗りたくられ、俺の精神はもう瀕死だ。全てが終わるころようやっと痺れが取れてきたが、精神的に死にかけの俺はやつらに促されるままさっきの優男のいる店の方に押しやられた。
「かーんせい! ピッタリのサイズがあってよかったわぁ。カエルラの仮装祭り、楽しんでいってね。あ、お代は結構よ。貸衣装に限るけど、こっちの方は初回無料なの」
無料とかどーでもいいわ!!
そうツッコむ気力も尽きていた俺はただただ無の境地で天を仰ぐ。おかしいな、なんか頬が濡れてる感じがするぞ。
「あ、これも忘れちゃいけないんだった! はい、魔法少女の杖。しっかし世界にはいろんな物語があるわよねぇ。年端もいかない少女が戦うって大人としては何だか面目ない気がしないでもないけど、見た目は抜群にかわいらしいのよね~! ああん、憧れちゃう!!」
優男はよくわからんことを興奮しながら語ってた。もうなんか全てがどうでもよくなってた俺はそれを力なく受け取っちまってた。ほんともう全部どうでもいい……だから、もう俺を家に帰してくれ。今、無性にみっちゃんに会いてぇんだよ…………
「あはは、見つけた見つけた、見~つけた! ハズレの鍵を引き当てたボクのオモチャ!!」
急に上から声がして、反射的にそっちを見上げた俺の視界に入ったのは生意気そうなガキが一匹。
白いシャツに黒いベスト、黒いひざ丈のバルーンパンツにこれまた黒の編み上げブーツ。プラチナブロンドにアイスブルーの見た目だけは極上な天使みたいなガキ。
「堕天使? …………というかアンタ、魔法使い?」
優男が怪訝な顔でガキを見た。確かにガキの背中からは黒い羽が生えていて、あれが白だったら完全に天使だったろうな。
「初めまして、海の魔法使いくん。ボクは黒書の魔法使いグリモリオ。得意なことはぁ、異世界から人や物を召喚することだよ」
「異世界から人や物を召喚……もしかして今、迷いの森で起きてる異変はアンタが?」
「半分正解、半分ハズレ。確かにボクは彼に道具を与えたけど、それだけ。あの森の異変とボクは直接の関係はないよ」
優男とガキは何かわけのわからん話を始めやがった。一人蚊帳の外ってのはなんか面白くない。
「あっちのことは石人と呼び寄せられた彼らに任せておけば大丈夫でしょ。それよりボクは、ボクのオモチャで遊びに来たんだよね」
そう言って俺を見たクソガキを見て、俺は今までに得た情報を素早く頭の中で精査する。そしてわかったことは――
迷いの森ってとこで異変が起きて、それを解決するためにコイツの道具で異世界から人を呼び寄せたってことか。で、まんまとそれに引っかかった一人、しかもハズレが俺、と……
「なんじゃそりゃぁぁぁぁ!!」
俺の大声に優男が顔をしかめながら耳をふさいでたが、そんなこたぁ知ったこっちゃねぇ!
「ガキ! 戻せ、今すぐ俺をアトラスに戻しやがれ!!!」
「無理~。あとボクはガキじゃなくてグリモリオですぅ。それと、人間のおじさんよりボクの方が絶対年上だからね」
「んなこたぁどうでもいいんだよ! とにかく今すぐ帰しやがれ!!」
「おじさん、そんなに怒ると頭の血管切れるよ? 落ち着いて~。今すぐは無理だけどぉ、ちゃんと段階踏めば帰れるからさぁ」
ガキはところどころおちょくりながらも、いちおう帰還方法は教えてくれた。教えてくれたん……だが…………
その方法ってのは俺をこの世界に呼び寄せた鍵――あのいつの間にか持ってた青い石、青色風信子石ってやつに込められた魔力を使い切るってことだった。
「魔力使うったってどうすりゃいいんだよ!? 言っとくが俺は魔法なんて全然使えないぞ」
「あ~、それは任せといて~」
ガキは俺の手から青色風信子石を奪い取ると、それをさっきの魔法少女の杖とやらの花の飾りの真ん中にはめ込んだ。
「はい、完成! これで異世界から使い魔を召喚できるようになったよ。あとはちょっとだけ飛べるようにしといたから」
使い魔? 使い魔って何だ? それを呼び出してどうすんだ?
頭の中疑問だらけの俺になんてお構いなしでガキは無造作に杖を投げてきやがった。で、そのままヤツは自分の腰に下げられていたぶ厚い本を開く。
「せっかくの魔法少女なんだから、やっぱり敵と戦ってこそだよね。というわけで今から敵を召喚するから、思う存分戦って魔力を使ってね」
なんか物騒なこと言い出しやがった!
止める間もなくガキの本から毒々しい紫の煙が立ち上る。
「私の運命!」
あんのクソガキ、よりによって一番厄介なヤツ呼び出しやがったよ!!
「くたばれぇぇぇぇぇ!!」
「あっふぅぅぅん」
俺は生理的嫌悪と防衛本能に身を任せ反射的に拳を突き出した。伝わる感触に手応えを感じ、小さくガッツポーズをする。
「やだぁ、まさか目の前で本物の魔法少女の戦いが見られるなんて思わなかったわぁ。ワタシってばツイてる~!」
「魔法少女対悪の忍者の苛烈なる戦い、開幕開幕~」
「開幕開幕~、じゃねぇ! あと俺は少女じゃねぇ!!」
無責任に喜ぶ優男と煽るクソガキに俺の頭の血管は本当に切れそうだ。こいつら、後で絶対シメる。
「大丈夫よ、心が乙女ならアナタも立派な魔法少女。さあ、思う存分魔法を使って戦うのよ! 応援してるわ」
「ほらほらぁ、早く使い魔呼びなよ~」
「俺は身も心も男だっつーの! そもそも使い魔呼ぶったってどうすりゃいんだよ!?」
「呪文唱えれば来るよ~。『ももいろ、まるまる、いっぱいうれしーなっ』って」
クソガキはご丁寧にポーズまでつけて説明してくれた。「ももいろ」で杖を顔の前に掲げ、「まるまる」で突き出した杖で空中にうずまきを描き、そのままぐるっと一回転。最後は杖を前に突き出した状態で、もう片方の手でVサインを作って目元に持ってきたらウインクして「いっぱいうれしーなっ」。
って、それを俺にやれと!?
「まさか……それ、動きも必要なのか?」
「もちろん!」
満面の笑みで笑うクソガキは完全に悪魔だった。優男はわくわく顔でむちゃくちゃ期待を込めた目でこっちを見るし、通りで伸びてたはずの変態もなぜか目をキラキラとさせて期待を込めた目で俺を見てやがった。何なんだ、こいつら全員頭おかしいだろ!
「ウソ……だろ。いや、でもこれをやらねぇとアトラスに帰れねぇって言うし…………汚れなら今までの任務でもこなしてきたじゃねぇか。今さら……いま、さら…………」
そう、今更だ。女体化だってしたし、それでウェディングドレスだって着たじゃねぇか。股間を暴走如意棒にさせられたことだってあったし、それを三本に増やされて額に移動させられたことだってあったじゃねぇか。そう、今更……いま、さら…………
ぷつんっと俺の中で何かが切れた。
「ももいろぉぉぉぉ!!」
もうヤケクソだ! 俺はやるせない怒りを込め、残像ができるくらい力いっぱい杖を回した。
「まるまるぅぅぅぅ!!」
俺の声に呼応するみてぇに杖に埋め込まれた青色風信子石が光を放ち始め、目の前に青い円環を作り出す。帰りたい一心で俺は心を殺しぐるっと回ると、さっき叩き出した変態に向かって杖を突き出した。そしてVサインを目元に持ってきて――
「いぃぃっぱい、うれしいなぁぁぁっ!!!」
なんも嬉しくねーよ!!
俺は心の中だけでツッコみ、静寂の中固まっていた。おい、頼む……なんか起きてくれ。起きて……くれ…………
「何も……おきないわね」
優男の一言で俺の心が死んだ。と、その時――
ぽよんっ
ぱよんっ、ぽよよんっ
ぽむんっ、ぽよ~ん、ぽよよ~ん
外からなんか間抜けな音が聞こえてきた。あとは若い女の声で、「かわいい」とか「なにこれぇ」とかってのが聞こえてくる。
「ボクの召喚魔法が失敗するわけないだろ! ほら、おじさん。ちゃっちゃと外行って確認してきなよ」
クソガキが偉そうに空中でふんぞり返る。が、すぐに動かない俺にしびれを切らしたのか、ガキはグイグイと俺を無理矢理外へと押し出しやがった。大人な俺は殴りたいのを我慢し、ひとまず外の様子を確認する。
「何だこりゃ?」
からっと晴れた空から、ももいろのまるっこい物体が無数に降ってきてた。そいつらは地面に落ちると「ぽよんっ」とか「ぱよんっ」という間の抜けた音を出してはころころと坂道を転がっていく。
「やだぁ! なにこれ、カワイイ!!」
「ほら、ちゃんと成功してたじゃないか」
優男の歓声とクソガキの得意げな声。
いやガキ、成功って……これが使い魔なのか?
「なあ……この使い魔とやら、いったい何の役にたつんだ?」
ピンクのまるっこい体に黒いちっせぇ目ん玉。ふよふよと空から落ちてくる奇妙な生き物。いや、生き物……なのか? とにかくそいつらは通りの変態を目指して次々と落ちてきていた。
そのあまりの緊張感も攻撃力もない姿に、とうとう俺の堪忍袋の緒が切れた。
「これであの変態をどうやってぶちのめすって――」
俺がガキへと文句をぶつけたその時、不意に影がかかった。雲でもかかったのかと空を見上げた俺たちの視界を埋め尽くしたのは――
空にひしめく無数のももいろのまる、とその半分以上を占める七色に輝く亜種らしきもの。そいつらはみっしりと群れを成し、雨雲のように太陽の光を遮っていた。
「あ~、おじさん。おめでとう、さっきの一回で全魔力放出したみたいだね。すごいや!」
クソガキは憎らしいほど爽やかな笑顔であははと笑うと、「これで帰れるよ。というわけで、ボクもお暇するね」と勝手なことをほざいた後、空中で一回転すると煙のように消えちまいやがった。
「ばっ、待て!! おい、アレが全部降ってきたら……」
扉の閉まる音に慌てて俺が振り返ったのと優男の店の扉が閉まったのは同時だった。他に逃げ場がないかと慌てて辺りを見渡したが、すでに人の姿はほとんどなく……。あれだけあふれていた野次馬はみんな屋内に避難した後か、爆心地となるであろう俺と変態から少しでも距離をとるために押し合いへし合いで逃げた後だった。
「ああ、ジェニー! まるで世界に二人だけのようだね」
「うるせぇ、死ね!!」
俺が変態を殴り飛ばしたその瞬間、空をおおっていたももいろと七色のまるたちが一斉に落下を始めやがった。
俺の世界が桃色と七色で埋め尽くされる。
何で、毎回毎回俺だけこんな目に!!
そんな俺の嘆きも怒りも、全部全部あの奇妙極まりないまるたちに飲み込まれた。
※ ※ ※ ※
目を開ければ、そこは見慣れた街並みだった。
「……戻ってきた、のか?」
膝をついたままだったがそんなことはどうでもいい。俺は慌てて周囲を見渡した。
石造りの高さのある建物、それを彩る鮮やな屋根、窓には季節の花々が飾られている。俺もよく行くカフェのカラフルなストライプの日よけに涙が出そうだ。
潮の香りがしない風、見慣れたご近所さんたちの顔、立ち並ぶ街灯、あふれる色、色、色!
「アトラスだ! 戻ってきた、俺は戻ってきたぞぉぉぉぉ!!」
思わず叫んじまったが仕方ねぇだろ。だってよ、戻ってこれたんだぜ!
なんか見ちゃなんねぇもんを見たような顔されてるけど、ま、思い切り叫んじまったからな。仕方ねぇか。
「ちょ、店長! こんな往来のど真ん中で……しかもなんて恰好を…………」
振り返ると、そこには馴染み深い部下の顔があった。けどなーんか口元が引きつってんな。何なんだ、その変態を見るような目は?
「何でぇ、そんなまるで変態でも見るような目……で…………」
言ってる途中で気づいた。気づいちまった。今の自分の恰好に。なんで通行人が目を逸らしていたのか、なんで部下の顔が引きつっていたのか――
「ち、違うんだ! これは任務、任務だったんだ!!」
俺、明日からどんな顔して酒場に出りゃいいんだよ……