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俺は帰りたいんですが。  作者: 来島ぎれ
第二章 勇者召喚
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ひーーーっ!

 ガンガンガンと拍動する音がする。重痛さという目頭に響くのは人だった頃に味わった苦痛でいう頭痛であり、しかも何か熱気というより焼けるという温度を感じた。

 何コレと思うしかなかった。やっと開けれた視界には太鼓らしき楽器を腰に掲げ、顔や体に幾何学的なペイントをほどこしたり仮面をつけた上半身裸の男女達が入り乱れ逆さまで踊っているのだ。

 動けないのはどうやら四肢が縛られているらしい。そして頭痛の原因は世界が逆さまであることから吊るされているという事。


 ドンドコドンドコと規則的な小気味良さを感じるリズムは魔狼の苦痛に拍車を掛けた。それに追い討ちを掛けるように奇声が発せられる。

「ヒーッ!」

「ヒッヒーッ!」


 ドンドコドンドコ…


「ヒーッ!」

「ヒッヒーッ!」


 魔狼は眉間に深いシワを刻んで思う。それはツッコミがいるんだろうか。逆吊りにされて周りで乱舞されてりゃ解るだろう。

 火だろ。アマゾン秘境の旅番組なのコレ?

「……何で俺が火炙りにされてんだ」

「ヒッヒーッ!」

「うるさいっ!」

 ドンドコと響く終わりなき円舞に苛立ちが増すが、犬のなりで人語を話せど太鼓と人の声で搔き消える。

「ヒーッ!」

「てか、皆どこ行った。何でこうなった」

 前後の記憶が完全に抜け落ちていることに多少なり混乱したが、思考を停止せざるを得ない状況だと今更ながら気付く。

「あっ、あっつ!」

 最強なのは魔法耐性だけじゃなかっただろうか。痛いものは痛い。今、正に体毛の焦げる匂いに、じりじりと焼けつく熱風が顔を包み、鼻先の呼吸さえ辛くなっていた。

 つまりこのままだと焼け死ぬ。


 魔狼、死す。

(素焼き)

 ※この後スタッフが美味しくいただきました


 完



「じゃねーよ。俺は帰るんだよ」

 一瞬流れた予見に魔狼はグルッと喉の奥から唸り声を発した。

 魔力を四肢に集中し、疾走する気で力を入れると簡単に縄は切れ解けた。そして火元からズレて着地した。

「ヒ……」

「あっ!」

「解けた!」

 自由ならどうとでもなる。今の姿は魔獣である漆黒の魔狼。大型犬くらいだけどな。

 魔狼は憎たらしい焚き火にしては大きな火元に後ろ脚でザッザッと砂をかける始めると、それは次第に白煙を上げ出した。

 それに気付いたもの達から動きが止まり音が止み、周回して踊って楽しそうにしていた人達も立ち止まる。

 魔狼は状況を把握する為にも、牙を剥き鼻シワを寄せて集団を睨んだまま消火した場所を一巡する。

 そのもの達は耳が尖り角があったり、緑や灰色の皮膚だったり軽く百名を超す人数だった。

 魔狼は訳のわからない現状に威嚇しつつ思案する。静けさを取り戻し始めた闇夜に唸り声が響き渡る。

「グルルルルッ」

 何なんだ一体。それにこの何民族かは知らないが魔族には違いない。俺を火炙りにして何の儀式だ。

 この集団の中に村長とか話のわかる奴はと静まり返った集団を改めて見た魔狼の耳は横に倒れた。  

「ちょっと待て。お前トメちゃんだろ! 魔力だだ漏れだ! そこのミニマムはプー! 仮面大きすぎて鞄掛けして顔でてるし手甲したままのルクセルもいるじゃないか!」

 自分の声が頭に響き頭痛に変換され鼻シワが寄る。

「なんじゃルー、シラけるの」

「そうだぞ。やると言ったからには最後までやり遂げるのが漢じゃないか」

「何の話だ?!」

 プーは走って来て魔狼の前で駄目出しのつもりなのか腕でバツを作った。

「酒が抜けたかのぅ。ノリの良いルーは一興じゃったのに」

「酒?!」

「忘れてるみたいだな。村長。折角意気投合したのに真っ白みたいだぞ」

 ルクセルは仮面を外し肩を竦めた。頬は軽く染まりホロ酔いを呈しいた。

 てゆか何馴染んでんだ軍人!


 地響きがしそうな足取りで向かってくるのは屈強な筋肉を纏った灰色の皮膚の大男。

 ってパースが、遠近おかしいぞ!

 集団に並んでいた時は左右隣と一緒だったのに、目の前に来たら何故見上げることになるのだろう。魔狼が今、犬だからなのか。

「魔狼殿、生贄役、ヤル、言った」

「……は?」

 記憶にないことに犬ながら首を傾げた。

「ははっ、村長!本気で踊るから息切れしてるな。自分が変わりに話そう」

「た、頼む」

 片言で話すのは息切れか。

 ルクセルは片手に器を持って魔狼の前に立った。

 それはツンと痛い程鼻につくアルコール臭に酒だとわかる。そしてそのまま血管が収縮して頭痛に変換されたことで目を細めた。


「飲んだら面白いぞ(貴様が)」


 にっこり微笑むルクセルはスーツを着せ、細めの眼鏡を掛ければ秘書のお姉さんにハマり役だと思った。

 いや待て自分。テンションが確かにおかしい。

「どうした。度数86%だ。余裕だと一気飲みしたじゃないか。もう一杯いかんのか?」

「俺、飲んだか?」

「飲んだぞ。よくわからんこと言ってたな。チートやらテンセイで人間がどうだか意味がわからんかったが。食料分けて貰いに入った村で祭りにまで参加させてくれたのも忘れたか。毎年贄が焦げすぎて勿体無いとボヤく村長に変わりをやろうかと自ら打診したじゃないか」

「は?」


 え?度数高い酒飲んで火炙り?

 魔狼になって初めて全身の血が下がったのを経験した。


 よ、よく引火しなかったな俺ーっ!!

 と内心の叫びをひた隠し、冷静を装い思い出したかの如く返答した。

「あ、ああ、食料ね。確かにそれは協力しないと駄目だな。はは」

「そうか。まだやってくれるか。自分も何も考えず楽しいのは久しくてな。軍規や国の重圧の縛りが無いのはいいな」

 ルクセルはふふっと笑った。


「どうなのじゃ、ルーはやってくれるかの」

「やるそうだ」

「有難い。魔獣に感謝しよう皆の者!」


 歓声が上がり再び村人たちの活気が戻り、太鼓もテンポ良く響き始めた。またあの変な奇声と踊りが始まったのだ。

 ドンっと胸に拳を当て魔狼に向けてウインクをした村長を見ても、仕出かした言動を思い出すことはなかった。

 意気投合したのも全部忘れたわスマン。


「ヒーッ!」

「ヒッヒーッ!」


 そしてまた四肢を縛られ、丸焼きとばかりの逆さ吊りになった魔狼。流石に生活魔法の火に変えて貰ったので熱くはなかった。ぽかぽかするぬるい空気を感じていた。


 しかしこの姿勢は精神的に良いものではなく頭痛も続き苦痛には違いなかった。

 それでも戦争も人種も何もかも忘れて楽しんでる皆を見て、こんな日も有りかと思った。

 のは数時間まで。


 この祭りは全員が疲れ果て、ひとり残るまで踊るというサバイバル形式だったようだ。途中から槍や銃剣みたいなのを装着してギラギラしたヤバイ目で踊る集団は怖かった。

 勝ち残った者には高額賞品がでるらしい。


「我に勝てるものがいるのか!? いないであろう! ヒッヒーッ!」


 睡魔なのか気を失いかけた魔狼の見た勝者は、体力も魔力も大陸最強の魔獣である古竜トメちゃんだったのは言うまでもない。





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