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俺は帰りたいんですが。  作者: 来島ぎれ
第二章 勇者召喚
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くるもの拒まずは無理だから

 風に揺らめく薄いグリーンの長い髪は緑の木漏れ日に煌めき、淡く同色の睫毛は碧い目を彩る。目を奪い、奪われてたまるか!


「納得出来ない」

「何が」

「変わらないじゃないか」

「はあ?」

 毒づく俺が不可解だという顔のライバ。確かに骨格はひと回り、声も太く、腕や足の要所の肉付きも無駄なく男らしさを醸し出すが変わらない所があった。


「顔だ、顔」

「あぁ、エルフ族はこういう顔だ。何だ、この顔に文句があるのか。人間でいう整ってる顔だろ?これで平均的だ」

「……なんだと。文句ある様な無い様な」

「まあいいじゃないか。どんな顔でも都合のいい悪いがある」

 達観したイケメンだった。物凄い敗北感。いや別に張り合うわけじゃない。俺は獣だ。狼で魔獣だ。くそうカッコイイ。それなのに追い剝ぎか。ははっ、追い剝ぎ!ぐっと拳を作り満足感に浸る。 いや待てよ。


「なぜ盗賊を?」

「この耳は魔族の特徴。人の敵。人間は容姿を個体情報材料にしてよく見てるだろ?長居はバレる。魔族と違う女性の鋭さに驚くね」

 ライバは尖った耳をトンっと示した。


「魔法を使えばいいだろ」

「アホか。容姿や擬似擬態は上位しか使えん高度な魔術だ。どれだけ魔力消費するか考えただけで恐ろしい。当たり前の様に言ってくれるが、ルーの住む大陸は魔法より上位の魔術使用が多いということか?」

「いや、部分ならと言ってみただけだ」

「俺は無理だね。それに君はあれだけ早く走れるのは筋力強化や特殊能力か?」

「元々ある能力だ」

「へえ」

 誤魔化しごまかしで俺はやっていけるだろうか。ライバは本当に信用できるかまだ様子見だ。元偵察要員なんだ。用心するに越した事はない。


 それに高度な魔術?擬態が高度?既に数日人化してるが消費感や疲労は全くない。そんなに凄い事だったのか。じゃあ、プーもだ。確かに上位クラスの魔獣と云われている。という事は古竜であるリリーちゃんも余裕で人化可能だ。見た事無い、いや見たくないぞ。クルフェルのような変なギャップは精神衛生上良くない。モザイク加工必至。隣に立つライバも何か考えている様だった。


 小高い丘の眼下には町がある。城のある都市と桁違いの小規模だが、領主や貴族の屋敷は贅沢な大きさで並び、有力者の趣味に応じた商店もそこそこ揃えた発展具合。続き長屋的なアパートも緑も多くいい景観だ。


「この町で何を」

「精霊の服、戦況確認、食料、酒か。荷も持たず帰郷しようとするルーがおかしい」

 御尤も。手ぶらじゃ旅人とは言えない。


「資金は」

「幾らか余裕がある」

「盗賊で」

「言うな。弓の手入れをしてて忘れてたが、もしかしてエルンカの体部を回収したか?」

 その瞬間、大人しく足元で転がってたプーがムクリと起きて、俺のマッキントッシュコートの中に潜り込んだ。


「あ、コラ!」

 前合わせから、ばあっ!とバンザイをして出て来たプーの手にはエルンカの牙。そしてその前に狩りで食べた角ウサギの角を持っていた。えっへん!とバンザイをしたまま何故か偉そうな顔。


「……お前なあ」

「良いものを隠し持ってるな。そのコートどうなってるんだ、まさかまだ他に」

「欲張るな」

「ふーん?」

「フン」

「ははっ、足りない時は頼むよ。行くか」

「それならいい」

 苦笑したライバは町に歩き始めた。頭にはフードを被り髪でしっかり耳を隠して。金はいつ何処でもトラブルの元だ。必要無いから持ってないけどな。俺は恨めしげにプーを睨んでやるが目が合うとニコッと笑った。


「プーの服買うぞ。行くか」

 ブンブンと歓喜の舞なのかヘドバン並みの高速頷きをした可愛い魔獣を抱き上げた。コートの中へ入れ、合わせから顔だけ出させて丘を駆け降りた。




 チクチクと刺さる。痛い。居心地が悪い。なるほど。都合のいい悪いがあるとは名言だ。イケメンの匙加減もひと工夫がいるのは女王で知った。そして歩くだけで視線が集中するのも辛い。


「プーを返せってんだ」

 ライバは精霊に服を!とプーを真っ先に連れ去った。アイツ、子持ちだと視線が減るとか絶対確信犯だろ。やるべき事を片付けるかと店先の椅子に座る老齢の男に声をかける。


「尋ねるが、町に冒険者組合ギルドはあるか」

「……若いの、戦はどうした」

「終わってない。別口だ。ギルドは?」

「……そうか、まだか。息子も帰ってくるかのう。ギルドはこの奥を右じゃ」

 男は項垂れた。町の住民の視線はそっちだったか。俺、勘違い。自惚れてた。やっぱり人の気持ちも薄れた獣だと自嘲して軽く鼻で笑った。まあ、どうしようも無い。周りに構ってられないとギルドのドアを開けた。


 一斉に視線を浴びるが、気にせず受付と思しきカウンターに向かう。戦争中だろうが前線に出なくていい者は食い繋ぐために討伐をこなすし依頼も来ているようだ。


「買取だけは可能か」

「どのようなものでしょう」


 職員は中年くらいで元冒険者なのか女性だが目尻から耳朶にかけて傷跡か残る。柔和でいて時に鋭くギルド内を見ていてスキが無いのが面白く感じた。


「エルンカの牙とウサギの角だ」

「測量しますね。お待ちください」


 先にギルドに来たのは今回は現金が必要かもと考えた。価値も相場も知らないが何とかなる。それに実はギルド初体験。無表情を頑張っているが多少なり緊張している。


「お待たせしました。合わせて三十万フラですが宜しければこちらにサインを」

「それでいい」


 羽ペンを持ち気付く。異世界の字は勉強中だったが書類が全く読めない。違う文字だ。素直に職員に告げる。


「悪いが他の大陸から来て違う文字で読めない。サインは自国の文字でいいか」

「構いませんよ」

 受領の注意を説明してもらい、字を習ったクロウの名を借りてループス・シャズナルとサインをした。


「ギルド身分証はお持ちですか?」

「持ってない」

「冒険者で登録しますか?戦時中ですし、他国の方は何かと移動が厳しくなります。あれば討伐し易くなりますよ」


 少し考えた。獣だし勝手に狩るし登録する必要性は無いと判断。ギルドを後にした。

 三十万。これはどの位の価値なのか。ライバと合流前に初めての買い物でもしてみるかと商店を目指す。


「ちょっとアンタ」

 プーの服は買ってくれてるとして、その金額を返すのが先ずひとつ。暫くエルフと旅となると魔狼に戻る訳もいかず。何かに困るとすれば物理に不安がある体。防具がいる。


「アンタよ!いい男!聞いてる?」

 いい男。そう言われてみたいが、積極的な女性は気が強い気もする。あ、防具もいるけど、荷袋もいるかな。


「待ちなさいよ!」

 ぐんっと服が引かれた。振り返ると誰もいない。気のせいにしては声が大きかったが、先を急ぐかと歩を進めようとした。


「ちゃんと見なさいよ!」

 振り返り誰もいないが、それもワザとらしかったか。視線を声のする下に向けると小柄な少女がいた。紺色のフードを深く被り顔が見えないが、薄い灰緑の髪が三つ編みで胸元に乗っている。スルーしたいのは魔力を感じたから。見るとライバと同じ位の魔力を纏っていた。


「……何だ」

「ギルドでエルンカ狩ったの聞いて、その実力にお願いがあるの!たすけて!」

「断る」

「えっ」

 防具と荷袋。ライバと合流は一時間後。町の時計台があるトコまで戻るのに十分か。買い物して丁度だ。スタスタと商店を目指す。


「ちょ、待って!まってよ!」

 いや無理。クエスト発生とか冗談言ってたけど全部相手してたらストレスでハゲる。丸くなったって言われても無理。


「ムカつく!」

 え、こっちの台詞。誰かれ助けてくれるなんて世の中善人だけじゃないんだ。冷たいだろうが魔力持ちは怪しい。少女を後ろに近くの防具屋に入った。




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